2019.4.8
TALK

水野良樹×吉岡聖恵 Part 1
人生で初めて「これが…“あうん”か」って

Prologue from Yoshiki Mizuno

HIROBAを立ち上げるにあたり、
あらためて話をするべきだと思った相手が、吉岡聖恵でした。

いきものがかりのメンバーとして
彼女とは10代の多感な頃から、一緒に歩いてきました。
僕と山下という、ふたりのソングライターが
吉岡という、ひとりのシンガーと出会い
いきものがかりの物語は始まりました。

家族でもないし、かといって仕事仲間と言い切れてしまうほど冷めてもいない。
僕にとって一番近い“他者”がメンバーであるのかもしれません。

20年経ってその存在について、お互いどう思っているのか。
歌うことの理由。そして喜び。
新しい日々に飛び込んでいく自分たちについて。

一緒に考えてみました。

Part 1 人生で初めて「これが…“あうん”か」って

水野よろしくお願いします。

吉岡よろしくお願いします。

水野あの…な、なんか…。

吉岡う、うん。なんか、こういう対談って新鮮な感じだね(笑)。

水野だよね。急にあらたまっちゃって…。ちょっと緊張しているような…(笑)。

吉岡ははは(笑)。

水野HIROBAというのを立ち上げまして、レコーディング中の雑談でも聖恵には「こんなことをやるんだよね」って話をしていたと思うんだけれど簡単に説明すると、いろんな人とコラボをしたり、対談をしたりして、作品をつくったり、文章を書いていったり…。いろんなことを、このHIROBAをベースに始めていこうと思っていて。

吉岡そうなんだね、すごい。

水野お、おう…ありがとう。そう、それで今回はメンバーで、なかでも歌を歌っている聖恵に話を聞きたいなと。

吉岡そうか、対談とかの文章もHIROBAプロジェクトの一環なんだもんね。

水野そうなんですよ。

吉岡え!じゃあ、私、もうHIROBAに集まっちゃってる?

水野集まっちゃってる!あなたはもう片足を踏み入れちゃっています(笑)。

吉岡あはは、そっか(笑)。

水野いやいや、対談に応えてくれてありがとう。

吉岡いえいえ。

水野まずは、いきものがかりとしては大きなことがありました。放牧というお休みの期間をいただいて。それが約2年間を経て、集牧ということで復帰しました。そこから、もうかなりのスピードで動き始めていますが、実感としてどうですか?今のテンションというか。

吉岡テンションはね…そうだね…高め!

水野おお!

吉岡いきものがかりが始まった頃は3人だけの輪だったのが、(デビュー後は)たくさん助けてくれる人が入ってきてくれたおかげで、それが大きな輪になっていって、グルグル回っている感じだったんだけれど。

水野うん。

吉岡放牧して、休みの間に3人だけで集まったりしているときに、また昔の三角形に戻った感じがしたんだよね。

水野ああ、そうだね。

吉岡集牧した今も、何でもざっくばらんに話し合っているから、すごくやりやすいというか。かかってくる余計なストレスが少ないという感じがしているの。

水野あ、それはいいね。今まではさ、メンバー同士で「お互いに迷惑をかけちゃいけない」みたいな、いい意味での緊張感があったよね。

吉岡そうだね。

水野だから、思うところがあっても「今はそんなことよりも、自分の持ち場を頑張らなきゃ」みたいな感じだったけれど。集牧してからは、わりと何でも言い合えるというか。

吉岡本当にそうだね。簡単な表現で言うと、3人ともちょっと大人になったというか。

水野ああ、それは、あるかもしれないね。

吉岡放牧前はひとりで立つことで精いっぱいだったからこそ、今は、お互いに尊重して、尊敬もしていて、自分が立ちながらも相手の立場をちゃんと眺められるようになっていて。集牧したことでメンバーそれぞれにちょっとした余白ができたのかもしれない。

水野余白か。なるほど。それはいい言葉だ。

吉岡うん。いい意味での余裕というか。

水野今回、HIROBAを立ち上げたコンセプトのひとつに「人とつながる」ということがあって。俺はひとりっ子ぽいと言いますか、人とつながることが…。

吉岡ひとりっ子だよ(笑)。ぽい、じゃなくて。

水野そうそう、ガチでひとりっ子なんだけどね。人とつながることが得意ではない方で。

吉岡まぁ、そうかもね。得意ではないかも。

水野そんな自分が10代の頃から、自分とはキャラクターも人間性も違うふたりと、なぜか一緒にグループをやってさ。

吉岡うん。

水野自分のつくったものを自分ではない他の人と一緒にやる、ということで世に出させてもらったから。そこをもう少し押し進めるというか、そこに大きな…考えるべきことがあるんじゃないかな、と思って。

吉岡うん、うん。

水野放牧して、聖恵は歌うこととか表現することに対する考え方に変化はあったの?

吉岡うーん。放牧前はレコーディングもそうだし、テレビやラジオでとにかく歌いまくっていたから。ありがたいことなんだけれどね。自分のなかでの歌える量みたいなものを、超えているような感じだったのかもしれないね。

水野なるほど。投球数が多すぎるみたいな感じだね。

吉岡そうそう。だから、お休みだし、いったん何も考えないでもいいのかなと思って半年くらい歌わなかったの。でも時間が経ったら「何かやりたいと思ったときに準備していないとできないな」とか「歌わないのも体に悪いかな」とか、思いだして。

水野真面目か(笑)。

吉岡はは。それで、少しずつ歌い出して。

水野なるほどね。

吉岡そういうところから、たまたま頂いたタイアップの話もあったりして、カバー中心のソロアルバムをつくることになったんだけれど。そこで選曲をするときに、初めて自分から物語を選んだのね。

水野ああ、そうだよね。

吉岡いつもは男子メンバーふたりが歌をつくってきてくれるでしょ。物語を持ってきてくれて。その物語と向き合って歌っていくじゃない。

水野うん。

吉岡簡単に言うと、用意されたものを歌う歌い手だったのが、歌い手の私が歌を選ぶというかたちに変わったところがあって。アルバムの世界観を自分で選んで、自分でつくっていくことが楽しいなと、あらためて思ったんだよね。

水野そうか。けっこうな数の候補曲、検討してみたって聞いたけど。実際に仮歌とかも歌ってみて。

吉岡そうだね。ディレクターさんと相談しながら、かなりの数を歌ってみたね。

水野歌ってみて、合わなかった曲もあったの?

吉岡ある、ある。

水野合うものと、合わないものの違いは、何なんだろうね。

吉岡合わない例で言うと、自分が歌ってみて新しいものにならないと感じる曲。歌いたいんだけど、歌ってみても、いい感じじゃないとか。それがはっきりと分かれたんだよね。

水野そうなんだ。

吉岡高校からずっと一緒にやっているから、私たちはいつもいきものがかりじゃない。

水野そう、そうなんだよ。当たり前だけどさ、俺ら、いきものがかりなんだよね。

吉岡ふたりの曲ができた時に私に合わないってことはないじゃない。

水野ああ、そうだね。

吉岡私が歌って「違和感あるね」ってこともないじゃない。

水野基本的にはないよね。ないない。

吉岡でしょ?だから、いきものがかりから離れた時に、そのすごさを感じたの。人生で初めて「これが“あうん”か」って。びっくりして。

水野ははは(笑)。

吉岡3文字のひらがなの「あ・う・ん」っていうのが頭のなかに降りてきて、「これかっ!“あうん”って!」と。

水野最高だね(笑)。

吉岡人生でいちばん、“あうん”への理解が深まって。いきものがかりって“あうん”だなって。人からは散々言われてきたけれど。ちょっと離れてみて、あらためて分かったというか。

水野なるほどね。他人であって、他人じゃないみたいな感じがグループ内にはあるというか。

吉岡いつの間にか他人じゃなくなっているじゃない、この3人は。

水野なくなっているよね。単純に学生の頃からやっているから結び付きが強いとか、そういうことだけじゃなくて、曲をつくるうえでもね。もう、互いの存在ありきで、つくられていくというか。曲も歌も。

これまでのインタビューでは「吉岡の声を意識していないです」とか言ってきたけど…。

吉岡そうそう。

水野なんか、すみませんでした。失礼なことを言って…(笑)。

吉岡そうだよ(笑)。私は…もう…何なんだろうって。「じゃあ、私が歌わなくてもいいじゃん!」って思ったからね。

水野でも、こっちからすると、結局そこに飲み込まれていくんだなと思っていたんだよね。どんなメロディや言葉をつくっても、吉岡聖恵というシンガーの歌声に飲み込まれていく。
つくっている方からすると、その感じはすごくあった。特に後半。放牧の数年前くらいからかな。

吉岡ああ、そうなんだね。

水野もちろん聖恵の声が素晴らしいっていうのは大前提なんだけれど、世間に認知されていって、みんなが知っている声になっていくじゃない。誰もが知っている声に。声が普遍性を獲得して、別人格になるみたいなさ。近くにいる聖恵とは違う人みたいに、その存在が大きくなっていって。

吉岡ああ。

水野それに対して生身の聖恵も戦っていた部分というか、葛藤はあったと思うんだけれど。やっぱり吉岡聖恵の声、みんなが知っているあの声に、飲み込まれていくな、みたいな感じは、曲を書いている俺にはあったのかもね。

吉岡そうなんだね。

水野でも、それが“あうん”というふうには、まだ捉えられなかったなぁ。

吉岡いちばん感じたのは“曲と歌声のマッチング”だよね。

水野そうか。フィットしているってことなのかな。

吉岡そうなの。その話をしていたら、いきものがかりのディレクターでソロアルバムも担当してくださった岡田(宣)さんが、「不思議なもんだよなぁ。グループって生い立ちの寄せ集めだから」と。それがすごく印象的で強いワードだなと思って。

注釈:岡田宣。エピックレコードのディレクター。いきものがかりをデビュー初期から担当し、大半の楽曲の制作に携わってきた。メンバーが最も信頼を置くスタッフのひとり。

水野うん。

吉岡同じような環境で育ち、J-POPで育ち、音楽の趣味が似ていて、そんな3人が同じフィールドで一緒にやってきたわけじゃない。そのなかで、ひとつになっていったんだよね。

水野そうだよね。
放牧中に他の方の曲をたくさん書かせてもらって、すごく思ったのは、書いている最中に意識しないでも聖恵は入ってくるというか。20年やってきて、いきものがかりの曲しか書いたことがなかったから。俺は吉岡聖恵の声で、曲づくりを覚えていったみたいなものだから。これはもう、ただフィットしているというだけの話じゃないなというか。もう…お互い半分入っている感じなのかな。

吉岡歌声が聴こえてきちゃう?

水野うーん、そうだな…もう自分の一部みたいな感覚って言っちゃった方が近いかな。シンガーとソングライターとして、他人であって他人じゃないような感じが互いにあるんだろうなと思ったんだよね。

吉岡ああ。

水野俺さ、聖恵からソロアルバムを出すって聞かされたときに「え?カバーなの?オリジナルやらないの?」って雑談のなかで言ったじゃない。

吉岡うん、うん。

水野せっかくの機会だからさ。俺や穂尊じゃない、いろんな書き手の人に書いてもらったり、友だちのアーティストに頼んでみたり。いろいろやってみたら?って。

吉岡ああ、言ってたよね。

水野そしたらさ、聖恵は「いや、そうじゃない。なんとなくオリジナルはいきものがかりだけでいいんじゃないかって思うんだよね」って。もう、ほんとにサラッと言ったんだよね。なんでもないことのように。もう、びっくりして。

吉岡ああ、そっか。うーん、なんだろ、あんまりイメージできなくて。本当に自然な思いで、そう言ったんだよね。

水野それはね。実は、すごくうれしかったんだよね(笑)。

吉岡ははは(笑)。

水野もう、なんか照れちゃって(笑)。「え、あっ、そ、そうなの?じゃ、じゃあ、カバーがんばって、うふふ」みたいな。

吉岡ウケるー(笑)。

水野ふふ(笑)。

吉岡まぁ、リーダーはフラットに意見を言ってくれるからね。放牧前も「これからどうやって活動していこう」みたいな話をしていたときに「聖恵、ソロとかやりなよ」って言ってきてくれたじゃない。

水野うん。言ってたね。

吉岡客観的な目で見てくれているのは、すごいなって思う。

水野干渉したくないとか、縛りたくないっていう気持ちがすごくあるんだよね。それで、つまらなくなっちゃうことは嫌だからさ。

吉岡「やりなよ」って言われたとき、自分が好きなアーティストとしてaikoさんやYUKIさんへの憧れがあるから、「そうか、ソロっていうかたちも長い人生のなかで、もしかしたらあるのかな」って思ったし。

水野それは、あるでしょ。いきものがかりは前提としてありながらも、それぞれに可能性があるんだから。

吉岡それをリアルに実感できたのは、やっぱり放牧したあとに(お仕事の)話を頂いてからだったんだよね。

水野そうか。

吉岡リーダーはいろんな目を持っているから、HIROBAみたいに人とつながる場所というのは、リーダーらしいという感じがするね。

水野そうなのかねぇ。

(つづきます)

吉岡聖恵(よしおか・きよえ)
1984年生まれ。
いきものがかりのボーカル。
確かな歌唱力とあたたかみのある歌声は、
老若男女問わず幅広い世代から支持されている。
2018年10月に初のソロ作品として
カバーアルバム「うたいろ」をリリース。
吉岡聖恵オフィシャルサイト

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Ryosuke Hasegawa
Styling/Masaaki Mitsuzono

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