2019.4.9
TALK

水野良樹×吉岡聖恵 Part 2
今は「いいじゃん、そんなの」って思える

Prologue from Yoshiki Mizuno

HIROBAを立ち上げるにあたり、
あらためて話をするべきだと思った相手が、吉岡聖恵でした。

いきものがかりのメンバーとして
彼女とは10代の多感な頃から、一緒に歩いてきました。
僕と山下という、ふたりのソングライターが
吉岡という、ひとりのシンガーと出会い
いきものがかりの物語は始まりました。

家族でもないし、かといって仕事仲間と言い切れてしまうほど冷めてもいない。
僕にとって一番近い“他者”がメンバーであるのかもしれません。

20年経ってその存在について、お互いどう思っているのか。
歌うことの理由。そして喜び。
新しい日々に飛び込んでいく自分たちについて。

一緒に考えてみました。

Part 2 今は「いいじゃん、そんなの」って思える

水野聖恵はいちシンガーじゃないですか。

吉岡はい。

水野なんか、当たり前すぎて、あらためて言うのも変な感じなんだけど(笑)。

吉岡普段、こういう話、しないからね(笑)。

水野小さい頃から童謡が好きだった女の子が、歌がずっと好きなまま大きくなったみたいなイメージが聖恵にはあるんだけれど、歌を歌う理由とか喜びというのは、ずっと同じなの?それとも年齢を経るごとに変わってきているのかな。そういったことを考えることはある?

吉岡いちばん変わっていないのは、歌を歌う時の真剣さは変わってないと思う。

水野ああ、それはすごいね。

吉岡やっぱり適当には歌いたくないんだよね。

水野それは何なんだろうね?

吉岡うーん、分からない。でも「歌って私にとって何だろう?」と考えたら、軽い答えになっちゃうかもしれないんだけど「習慣」なの。

水野ああ。それは面白いね。

吉岡ルーツは、ひいおばあちゃんが教えてくれた童謡で。楽しく歌っていたら、褒められたからうれしい、さらに歌う、褒められた、うれしい、歌う、楽しい…。その繰り返し。スタートがそこだから、日常的にも歌うことが普通のこととしてあるんだよね。

水野はいはい。

吉岡歌うことがまず普通のこととしてあって。同時に、人に見せたり聴いてもらったりする歌はまた別の場所にあって。

水野ああ、そういうことか。なるほど。

吉岡そこは頑張って「こっちの方が分かってもらえるかな」とか、「こうした方が伝わりやすくなるかな」とか気を遣っているんだけれど。でも、歌うこと自体は鼻歌なりモノマネなり、勝手にやっちゃうことなんだよね。

水野ときどき普通の会話のなかから、スッと歌に入っていくときがあるもんね。あれ、びっくりする。すごい能力だよ。自然すぎて。まったく違和感なく歌い出す。恐ろしいくらい、本当に(笑)。

吉岡そうかなぁ。うーん、「私にとって歌って何だろう?」って放牧のときに考えたんだけれど、やっぱり歌うことは普通に自分のなかにあるんだよね。でもいきものがかりで歌うときは「ふたりがつくってくれた曲をどうやったら聴く人に感じとってもらえるんだろう?」「この歌詞、この曲の世界を、どうしたら見てもらえるだろう?」みたいなことに、いつもよりちゃんと注意するという感じ。

水野今、ありがたいことに多くの人たちが見てくれているじゃない。それはどう受け止めているの?

吉岡うーん。

水野喜んでほしいのか、もしくは放っておいてほしいのか。

吉岡放っておいてほしくはない。そこはさ、3人で共有して思っているじゃない。

水野振り向いてほしいっていうね。それは3人とも思っているよね。

吉岡歌っているときは…それぞれ時期によって違いがあってさ。

水野時期ね。あるよね。

吉岡デビューのときで言うと「水野くんと山下くんの曲はいいのに…歌は…がんばれ!」って当時のディレクターに言われたことがあったの…。

水野ああ。

吉岡私はすごく傷ついちゃって…。もう、なんとかふたりの書いたいい曲を…。

水野かたちにしよう、みたいな?

吉岡当時の必死さで言うと…「なんとかしてモノにしなきゃ!」って。ちょっとこれは普段は言わないようなきつい言い方なんだけれど、そんな感じだったかな。

水野うん、うん。いいね。

吉岡そうやって一生懸命練習した焦りの時期があったり、「NEWTRAL」の頃なんかは自分の歌い方の感じがつかめたような、なんとなく形がつくられてきた時期があったり。自分で聴いても芯があるように聴こえてきたんだよね。

水野ああ、なるほどね。俺も全部のアルバムを通していちばん好きなのが「NEWTRAL」なんだよね。あのアルバムがいちばんいい。俺はね。

注釈:「NEWTRAL」。2012年2月リリースの、いきものがかり5枚目のアルバム。

吉岡そうなんだ。

水野それは何なんだろうね?芯があると感じる理由って。

吉岡うーん。全体を通して聴いた時にブレていないというか。「どう歌えばいいのかな」という戸惑いが少なかったのかな。

水野なるほど。見えていたのかな。歌のかたちが。

吉岡そうかもね。それはきっと作り手も歌い手も同じなんだよ。「いきものがかりが今やりたいのは、これだよね」っていう。そこが「NEWTRAL」のときは、とてもはっきり見えていたのかも。

水野そうか。そこからまた迷うの?

吉岡そこからね…「ありがとう」だとか「風が吹いている」だとか、私から見たいきものがかりって、すごい真面目で誠実な人、みたいな感じになって。

水野ああ。なんか変に、大きなものを背負い始めた感じだよね(笑)。それは俺もすごくよく分かるわ。

吉岡自分もそうじゃなくちゃ…いけないんじゃないか…って思うようになっていて。

水野よく「“いきものがかりさん”にならなくちゃ」って言ってたもんね。

吉岡そうそうそう。“いきものがかりさん”の人格があるような気になって。それって別に人がどう思っていたかなんて分からないんだけどね。でも自分でそう思って縛られちゃった時期があったんだよね。

水野ああ。今は客観的に“いきものがかりさん”みたいに見えているの?

吉岡今は「いいじゃん、そんなの」って思えるから…今の方が自由(笑)。

水野そうか、そうか。それはよかった。

吉岡その時期って、世間に知られるようになってきたからというのもあったのかな。

水野うん。そうかもね。いきものがかりという存在が、認知されて大きくなっていたよね。

俺さ、2年間の放牧中も、まぁ、今もなんだけれど、いろんな人に曲を書き続けているんだけどね。まずは自分という、あくまで水野良樹というひとりの人間がいて。そいつがいろんな側面をもっていて。いきものがかりというグループに参加しているんだというふうに、今は思っているんだよね。当たり前なんだけど。

吉岡うん、うん。

水野でも、前はもっといきものがかりという人格を曲で背負っている感じがしていたわけ。これは聖恵が言っていた“いきものがかりさん”と近い話だと思うんだけれど。俺そのものが、いきものがかりになって、とにかく書かなきゃみたいな苦しさがあったような気がする、今思うとね。

吉岡そうだよね。一時期は“ありがとう”だったり、“笑顔”だったり、大きい言葉を使わなきゃいけないって、よく言ってたよね。大きい言葉しか書けなくなったみたいな。そういう時期があったけど、最近はリーダーが「何でも書ける」って、よく言うじゃない?だから私も何でもやってみたいっていうモードになってる。

水野うん。少し俯瞰で、いい距離感で見られるようになっているのかもしれないね。もっとフラットにいきものがかりに参加している感じになっている。だから、なんでも書けるなって気がしているんだよね。いきものがかりに対して曲を書くのは、もういくらでも書けるなって。

吉岡うん。だって確実にリーダーの視界が広がったじゃない。

水野まぁ、確かに広がりましたね。

吉岡しかも見たいものをちゃんと見られているじゃない。

水野そうだね。見ることができているね。

吉岡いきものがかりに没頭してきて、でも外の世界が見たくて。今は自分でどんどん切り拓いていって。ひとつひとつ見ているから。いいね!

水野いいですよ。だからそれをあなたにもオススメしているんですよ(笑)。

吉岡あはは(笑)。そうですよね。

(つづきます)

吉岡聖恵(よしおか・きよえ)
1984年生まれ。
いきものがかりのボーカル。
確かな歌唱力とあたたかみのある歌声は、
老若男女問わず幅広い世代から支持されている。
2018年10月に初のソロ作品として
カバーアルバム「うたいろ」をリリース。
吉岡聖恵オフィシャルサイト

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Ryosuke Hasegawa
Styling/Masaaki Mitsuzono

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