2019.4.23
TALK

水野良樹×高橋久美子 Part 2
「新しい扉を開いてもいいはず」と思って、少し冒険している感じ

Prologue from Yoshiki Mizuno

いきものがかりのメンバーとして歌詞を書くこと。
他者への楽曲提供で、グループから離れて
ひとりのソングライターとして歌詞を書くこと。
そのふたつの違いについて考えたときに、
話を聞いてみたいと思ったのが、高橋久美子さんでした。

同世代の作詞家としてチャットモンチー在籍時から交流があった高橋さんとは、
2018年に大原櫻子さんのアルバム収録曲「夏のおいしいところだけ」で
一緒に曲をつくらせてもらいました。
そのときに感じた、彼女にしか書けない言葉の数々。

他者に届けること、
そして自分の書いた言葉と自分自身の距離について、
このHIROBAで、彼女と会話をしてみました。

Part 2 「新しい扉を開いてもいいはず」と思って、少し冒険している感じ

水野今はチャットモンチーの関係は、どうなの?

高橋今は自然に遊ぶようになっているね。

水野完結ライブにも出ていたじゃない。続けていった2人のもとに、久美子ちゃんが入っていって。すごくいい関係だなって思うよね。

高橋でも、それまでは遊ぶとかもなかったし、覚悟をもって私も抜けているし、二人も同じくらいの覚悟で「じゃあね」って言っているから。

水野それは、あえて。

高橋うん、あえて会ったりすることもなくて。「最後のライブに出てほしい」という話の前に「歌詞を提供してほしい」という依頼があったのね。それは「作詞家として書くぞ」って思いでやったんよね。

水野そうか。メンバーとしてではなく。

高橋そう。作詞家としてね。私もちょうど本を出したときで、えっちゃん(橋本絵莉子)に解説を書いてもらったり、そういった相互交換ができるようになっていたんよね。

水野ああ。

高橋お互いそれぞれの道に進んで7年くらい経った頃かな。離れた位置でチャットのメンバーとしてではない関係でリスペクトし合えるようになったから。

水野新たに作詞家として提供した歌詞と、チャットのメンバーのときに書いた歌詞で、何か違いはあった?それとも同じだった?

高橋いや、全然違うね。

水野ああ、違うんだ。外から見ている感じになるの?

高橋そうね。外から見た感じになるね、やっぱり。前はもっと自分のことを言っている歌詞だったね。

水野うーん。

高橋90%くらいが自分だったからね、チャットのときは。

水野そうなんだ。

高橋でも今は、過去のチャットのこととか全部を俯瞰して見て書いている歌詞だったし、二人への感謝の気持ちだったり、尊敬の念だったり。そういうところから湧き出てきた歌詞だったなと思うから。

水野うん。どっちの方が書きやすいんだろう?

高橋うーん。他の人に提供するときはまた違うモチベーションがあって、普通は3日か4日くらいで書いていくんだけれど、チャットに最後に提供した歌詞は1カ月半くらいかかったね。

水野ええー。まじか。

高橋びっくりした。自分でも。何回も書いて、書き直して「いったいどんな気持ちで書けばいいんだろう?」「どの気持ちが正解なんだろう?」って。

水野ああ。どの気持ちというのは、自分の言葉と自分の距離感みたいなことなのかな?メンバーとして書いていた頃は自分の要素がすごく多くあって、でも提供曲は自分とは違う歌う人がいて。そこに距離があるじゃない。

高橋うん、あるよね。

水野久美子ちゃんは、チャットモンチーであったけれど、でも今はチャットモンチーではない。その難しさなのかな。

高橋うん、そうだと思う。「これは誰に向けて書けばいいんだろう?」って思ったんよねえ。

水野ああ。そういうことか。

高橋最初はファンの人に向けて書くのが正解なんだと思って、そういう歌詞を書いていったんだけれど、ファンの人というよりは二人に向けて書いたものが正解なんじゃないかと思って、最後は二人に向けて書いたんよね。

水野うん。

高橋それは前面に出すわけではなくて、聴く人が聴けば分かるかなぐらいの感じでね。そういう塩梅を調整する技術みたいなものも作詞家になって身についたんだと思うんよね。

水野そうか。

高橋分かる人は、二人に向けて書いたラブレターと思うだろうし。分からない人も、それを自分のことと受け取るかもしれないし。どちらもいい。

水野なるほどね。

高橋でも、1カ月半かかるって、すごいなと。

水野いや、すごいよね。それはどこで悩むの?細かいニュアンスとか?

高橋やっぱりテーマよね。

水野ああ、テーマなのか。なんか軸の置き所がはっきりしないみたいな感じなのかな。

高橋そう。36歳になった今の自分を書いた方がいいのかなと思ったりね。

水野ああ。

高橋そういう自分の生活のなかのことだったり、社会に向けてだったり、いろいろ書いてはみたけれど、しっくりこなくて。

水野それで、結果、二人へのメッセージというか。

高橋そう、感謝の気持ちみたいなことだったかな。

水野それは、すごく面白いね。ちょっと自分にもリンクするなと思うのは、いきものがかりで書いているときの自分が迷ったことと近いなというか。

高橋ああ、そうなの?

水野うちの場合は吉岡が歌うでしょ。俺は自分の書いた言葉を、自分では表現しない。他人が表現するということを頭に入れなきゃいけない。逆に吉岡は自分が書いていない、自分とつながっていない言葉を表現しなきゃいけないという。そういう難しさがあるんだよね。

高橋性別も違うしね。

水野そうそう。シンプルに恋の歌を書いても男女で違うしね。いきものがかりはお客さんに楽しんでもらいたいっていう気持ちが強かったから、そこからさらに「広く、広く」ってなっていって。どんなふうになるかって言うと、30代の女性が10代の女性の恋の歌を歌っているという状況も普通に生まれてくるんだよね。

高橋うん、うん。

水野自分たちと曲のテーマとの間の距離がすごく大きくなってしまって、これはどこを軸にして、どこを主語にして、歌を書けばいいんだろうって。「誰かのものになった方がいいから、いっそ主語みたいなものは消していこう」と考えたりしたこともあって。

高橋ああ。

水野そこで、すごく迷いがあって。どこに自分の立ち位置をとったらいいか分からなくなっていた感じなんだよね。まぁ、いまだにその迷いのなかにはいるんだけど。

高橋合唱コンクールの曲もやってたやろ?あのときは20代後半?

注釈:「YELL」 2009年9月リリースのいきものがかりのシングル。NHK全国学校音楽コンクール中学校の部の課題曲として制作された。

水野うん、20代後半だね、26歳くらいかな。

高橋10歳くらい年下の子たちが歌うわけだもんね。

水野そう。だけれど、世の中の人たちはいきものがかりの曲としても聴くわけだから。そういう矛盾というか、難しさを乗り越えていかなきゃいけないという悩みって、もしかしたら久美子ちゃんの話にも近いのかなと。

高橋うん、あるよね。それはチャット以外でもあることだからね。

水野ああ、そうか。

高橋他の人の曲を書くというときに、その人には絶対になり得ないし、それは性別関係なく、自分は自分にしかなれないから、他の人が歌うときにどうやってそれを聴く人に届けるのか…。

水野提供するときの歌詞には、どのくらい自分の要素が入っているの?

高橋作詞家になったばかりの頃は、提供する相手のファンの人たちがどういう層なのかとかをしっかり調べて、そこに届けるという目的を明確にして書いていたんだけど、でも最近は「そのファンの一人一人の何を知っているんだろう、私は」って思うようになってね。

水野ああ、なるほどね。それは真面目だなぁ。

高橋なんとなく、この歌い手さんのファンはこういう子たちかなって考えるんだけど、私はその歌い手さんの本質を見ているわけではないし、テレビで歌っているところしか知らなくて、少し話をするくらいでは何も分からなくて。

水野はいはい。そりゃそうだ。

高橋そうなったときに、「そのファンの人たちを、知らない世界に連れて行ってあげる方が、うれしいんじゃないかな」って思いはじめたのね。だからチャレンジするようになってきている。

水野ああ。

高橋「この子たちが知らないことを歌っても、きっといいはず」「新しい扉を開いてもいいはず」と思って、少し冒険をしている感じかな。

水野自分が把握したイメージ像から離れていくというか。

高橋うん。でも、わざと離しているというわけではないんよね。私ね、自分の感情が動いたときに思ったことをいつもメモするようにしていて、そういうノートがいっぱいあるのね。そこから「きっとこの子はこういうものを歌ったら面白いかな」って思うものを拾っていく感じかな。

水野そうなんだ。

高橋だから、(大原)櫻子ちゃんのときもね、水野くんからお話をもらって。そういうふうに書いていって。

水野「夏のおいしいところだけ」って…出てこないなぁ、俺は。

注釈:「夏のおいしいところだけ」 2018年6月にリリースされた大原櫻子の3rdアルバム「Enjoy」に収録された楽曲。高橋久美子作詞、水野良樹作曲。

高橋ありがとう。

水野やっぱりそこはすごいなって思ったよね。

高橋いやいや。

水野確実に久美子ちゃんのフィルターを通っているんだよね。

高橋ああ、そうかもしれないね。

水野そのアーティストに会ったときに、「この人にはこれが合うかもしれない」って久美子ちゃん自身が思うんだろうね。久美子ちゃんの実感がちゃんと加味されているというか。

高橋そうじゃないと、やっぱり嘘っぽくなるというか…。

水野ああ。

高橋想像だけで書くのが、いちばん危険なことだと思っていて。

水野難しいよね。

高橋本当に自分の琴線に触れたりとか…。そういうのがないと。

水野いやぁ、反省するわ(笑)。自分はいい加減だなぁ。

高橋ははは。私の場合はリアリティがある言葉だったり、ちょっとでも自分が見たり体験したことを“混ぜる”ということなんよね。全部は無理でも混ぜていくということを最近はしているかな。

水野“混ぜる”か。面白いなぁ。自分の体験談から言うと、外から見て分からなくても、自分が見るとその歌詞にどれだけ自分が入っているか、本当のことがどのあたりに混ざっているかって分かっちゃうものじゃない。その手応えも大事だよね。

高橋うんうん。

水野書いたものの手応えがそのまますんなり世の中に届くのか…すごく手応えがあるのに届かないこともあるじゃない。

高橋ある!

水野逆もあるじゃない。

高橋それも、ある!

水野ははは(笑)。

高橋それは、歌い方にもよるし、曲が出来上がって「あ、こういう感じになったんだ」みたいにイメージと違うこともあるし。

水野うん、うん。

高橋「めちゃくちゃいいのが書けた!」と思っても、その子たちにはまだ早かったということもある。

水野ああ、なるほどね。

高橋「ああ、この子たちがあと5歳年をとっていたら!」みたいな。私が言わんとすることが、まだ歌いきれていないというか。まだどうしても若くて分からないんだなということはよくあって、そこは反省するね。

水野そうか。

高橋今はまだ、もうちょっと楽しい感じだけを歌っていればよかったんだなと。でもきっと年を重ねていったときに絶対にピタッとハマるときがくるから。今買った本が10年後に読んでみたらピタッとハマった!みたいなことになったらいいなって思っとる。水野くんはどう?そういうことある?

水野手応えに関して言えば、手応えあるって自分で言ったやつは…だいたいダメなんだよね(笑)。

高橋そうなんや。

水野でも、手応えあったときとか、自分の熱いものを乗せられたなと思った曲が、スタジオとかで初めて他人に聴いてもらったときとかに「これ、いいですね」って言われると、それはすごくうれしい。

高橋ああ、そうね。「この曲、好きです」ってね。

水野そう。それが欲しくてやっているんだけど、なかなか…(笑)。

(つづきます)

高橋久美子(たかはし・くみこ)
1982年生まれ。作家・作詞家。
2004年、チャットモンチーに
ドラム、作詞家として加入。
2011年、チャットモンチーを脱退。
以降、アーティストへの歌詞提供や、
エッセイ集の出版など、精力的に活動。
2019年4月から、
さまざまなアーティストの“歌詞”に
スポットを当てる音楽番組「うたことば」
(NHKラジオ第1/毎週日曜午後1:05)の
MCを務めている。
高橋久美子オフィシャルサイト
高橋久美子Twitter

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano
Styling/Miwa Nakayama

同じカテゴリーの記事