2019.4.25
TALK

水野良樹×高橋久美子 Part 4
本当の気持ちを書くってことが大事だと思う。それに勝る詞はない

Prologue from Yoshiki Mizuno

いきものがかりのメンバーとして歌詞を書くこと。
他者への楽曲提供で、グループから離れて
ひとりのソングライターとして歌詞を書くこと。
そのふたつの違いについて考えたときに、
話を聞いてみたいと思ったのが、高橋久美子さんでした。

同世代の作詞家としてチャットモンチー在籍時から交流があった高橋さんとは、
2018年に大原櫻子さんのアルバム収録曲「夏のおいしいところだけ」で
一緒に曲をつくらせてもらいました。
そのときに感じた、彼女にしか書けない言葉の数々。

他者に届けること、
そして自分の書いた言葉と自分自身の距離について、
このHIROBAで、彼女と会話をしてみました。

Part 4 本当の気持ちを書くってことが大事だと思う。それに勝る詞はない

水野他の作詞家さんのことは、意識するの?

高橋前は意識して読んだりしていたし、もちろん今もしているけど、最近はあまりしなくなってきたかな。

水野「より自分の作品に」っていう志向になっていったのかな。

高橋うん、向いていっていると思う。人の作品を読むよりも、外を歩いて観察するね。

水野ああ、そうなんだ。

高橋人間観察をして「すごいなぁ」って思ったり。

水野それはどういう作業なの?ネタを拾う作業なの?

高橋そうそう。ネタを拾ってくる作業ね。

水野俺はよく喫茶店に行くんだけれど、例えばそこで別れ話をしているカップルがいるとするじゃない。

高橋うん。

水野でも、そこでの会話をそのまま歌詞にするわけではないと思うんだよね。

高橋そうね。

水野自分がそれを歌詞にするときって、カップルを見て「男性の方が未練があるな」とか、そういう微妙な空気感を見るじゃない。

高橋うん、見るよね。

水野二人がすごく厳しい空気感で話をしている。女性の方は前を向こうとしていて、でも男性の方は未練がある。話してはいるんだけれど二人が見ている景色が全然ちがう。その二人を取り囲む喫茶店は二人の緊張感とは関係なく、すごく騒がしくて…みたいな。その空気感を拝借して、そこにしかない空気の切なさをネタにする感じなんだけど。

高橋ああ。

水野久美子ちゃんはどういうふうに要素を拾っていくのかなと思って。

高橋ああ、要素か…。

水野久美子ちゃんが本でも書いていたけど、帰り道の空の寒さや空気感で書けることもあるというか。

高橋そうだね。

水野それはどういうことなんだろう?

高橋例えば、マンションの3階の排水管から水が流れる音とか…。「うわぁ、人間ってすごい!」って思う。

水野そ、それは…水が流れている様子を見て「人間ってすごいな」って思うのは…。

高橋人間には孤独というものはないなって思うのよね。

水野おお、そういうことか!

高橋誰かの水があなたの隣を流れているんです。だから人間というのは孤独はないんだよっていう。

水野はは、すごいな。それはどうやって詞に展開するの?

高橋もうそこから、そのまま書いていって、余計なものをどんどん省いていくね。

水野省いていくんだ。

高橋歌詞全体をマンションの3階にしたらマズいじゃない(笑)。

水野そうそう、どうするのかなって(笑)。

高橋Aメロだけで使うとか、サビで使うのも面白いかも!って。

水野そっか。でも、わりと詳細に言葉にしていくんだね。

高橋そうね。一日にノートいっぱいになるくらい、いくらでも発見があって。

水野それはすごいね。

高橋面白いよ。

水野それは能力だわ。

高橋いやいや。でもボーッと歩くときもあってね。でもボーッと歩くときは何も見えないの。

水野へー!

高橋何も見えないんよ。パンはパンなんよ。

水野パンはパンか。それは作詞をするうえではとても重い言葉だね。パンがパンじゃなくなる瞬間があるんだね。

高橋何かが絡んでくるときが、あるのよね。

水野それを書いちゃうんだね。

高橋うん。

水野俺の場合は「孤独じゃないんだ」と気づいたとするじゃない。それをそのままは書かずに、気づいたときに湧き上がった感情の色合いなのか、温度なのかが…。

高橋かたちを変えるということ?

水野そう。かたちを変えるね。

高橋そうすると細かいディテールはなくなっていくということ?

水野そうだね。ディテールは書かないし、書けないね。

高橋でも、かたちを変えたら、全部同じようなかたちにならない?具現化されたものをどんどん抽象化していったら。

水野ああ。でも違う気がするんだよね。

高橋違うのかぁ!へぇ。

水野説明が難しいんだけど…「ありがとう」を例にするとね。

高橋うん。

水野「ありがとう」を聴いて、みなさんが思い浮かべる印象ってそれぞれ違うと思うんだけど、例えば結婚式で新郎新婦がご両親に花束を渡して「ありがとう」って伝える気持ちと、長年連れ添った老夫婦がいて、おじいちゃんがおばあちゃんが亡くなるときに「本当にありがとうな」って伝える「ありがとう」があったとして。それは言葉にすると同じ5文字の「ありがとう」なんだけど、そこに入っている感情は全然違うじゃない。

高橋ああ、そうよね。

水野そのシチュエーションは聴く人によって全部違っていて。感情は水みたいなもので、定型物じゃないんだよね。つかみとれないもの。ゆらいでいるもの。100人いたら100通りの感情があって、それをかたちある言葉に無理やり当てこめているんだと思っているんだよね。

高橋うん、うん。

水野だから、排水管を見て何か気づきがあって、思い浮かべた感情は唯一無二のもので、そこをヒントに書いていくという方が自分は近いと思うんだよね。

高橋いやぁ、なるほどね。

水野同じようなシチュエーションでも相手が違えば、湧き上がる感情も違うし。

高橋そうね。

水野その、感情の種類をストックするというのはあるね。

高橋感情の種類のストックかぁ。

水野久美子ちゃんの場合は気づきがあったら、そこから言葉をどんどん出していくわけじゃない。

高橋うん。

水野その言葉を表現していく、デッサンしていくような。

高橋そうね、デッサンね。そこから少しずつ拾っていくようなね。

水野そうか。

高橋感情は流動的でかたちが変わるっていう部分はすごく面白いね。確かにそうで。誰と向き合うかで全然違うもんね。

水野そうなんだよね。

高橋でも、それを書くのはすごく難しそう。

水野抽象的になると同じところにたどり着くというのは、確かにあって、歌詞が似通ってきちゃうから、そこも難しいよね。

高橋でも「ありがとう」を他の言葉に置き換えるかって考えたら、やっぱり「ありがとう」は「ありがとう」しかないよね。

水野そうだよね。

高橋作詞講座じゃないけど、若い子に自分の書いた詞を見てくださいって頼まれることもあるのね。

水野うん。

高橋そういう詞を見て、私も「好き」だったら「好き」って言ったらいいと思うし、うまく書かなくていいんよね。本当の気持ちを書くってことが大事だと思う。それに勝る詞はないと思っているんよね。

水野それは芯を食っているよね。「好き」を言わないで「好き」を表現するのが作詞だろうって言う人もいるけれどさ。それは技術論としてはまさにそうなんだけれど。それ、表層だよなって。さっきの熱量の話と近いと思う。

高橋そうなのよ。

水野そこと向き合うことが大事だよね。

高橋ブルーハーツなんかは「好きだ、好きだ」って同じことを言っても、一つ一つに魂がこもっているじゃない。

水野うん、空々しくないよね。なんでだろね。

高橋そう、それ!空々しくないんよね。身を削って「明日死んでもいいです」っていうような思いで「好き」と言っていることが伝わるというか。

水野ああ、難しいね。説明できない。

高橋そう、難しいのよ。でも、詞を書くってことは、それくらいのことなんだって思う。

水野反省するわ(笑)。

高橋もちろん余白も大事だしね。私も余白に挑戦してみたいと思っているよ。水野くんに前に言ったでしょ。「電車の名前をハッキリと歌詞の中に書いているの、いいよね」って話をしたじゃない。

水野ああ!

高橋「これはスタッフに提案されて書いたんだけど、僕は余白があった方がいいと思うんだよね」って言ってたよね。

水野そうだ、そうだ。

高橋あのときから、余白についてはすごく考えていて…真面目だな、私(笑)。

水野ははは(笑)。デビュー曲だ。

注釈:いきものがかりのデビュー曲「SAKURA」の歌詞に「小田急線の窓に 今年もさくらが映る」という一節がある。

高橋「SAKURA」ね。

水野あれも、気づきがあったね。小田急線って書くと東横線乗っている人も、京王線乗っている人も、みんな自分の使っている路線のことを考えるっていう、予想したのとは違う余白のかたちがあったという。

高橋そうね。

水野面白いよね。

高橋本当にそうよね。

水野最後になるけど、文章と作詞は全然違う?長さの違いってことだけなのかな?

高橋やっぱり違うと思う。小説を書いて、編集者に見せると「高橋さん、これは歌詞だわ」って言われるの。

水野ああ。

高橋「高橋さんには感覚的には分かっても、みんなには説明をしっかりしないと分からないですよ」って。

水野はいはい。

高橋私は「説明したら、野暮ったいじゃないですか」って言うんだけど、「でも、小説ってそういうものだからね」って。だから、私は感覚的なものだったり、断片的なものをつなぎ合わせることが好きなんだなって思ったのよね。

水野そうか。それはまた新しい気づきがあるよね。説明したり、描写を加えていくということを通して、詞にも転換されるだろうしね。

高橋そうなんよね。

水野より解像度が上がったりするのかな。

高橋長い文章を書いているときに、作詞の依頼が来ると、めちゃくちゃうれしい!(笑)。

水野ははは(笑)。

高橋長い文章は放ったらかして、詞を書いて、すごくいいのができて、「ああ、うれしい!」って。そんな感じなん。やっぱり、全然違うものだと思う。

水野これからもどんどん変わっていくんだろうね。

高橋そうね。お互いにね。
詞を書いているときと曲をつくっているときはどっちが楽しい?

水野うーん、曲かな…。

高橋ああ、やっぱり音の人なんだね。

水野かもしれないね。でも、文章は好きなんだよね。書くことはすごく好きで。

高橋そうよね。連載もやっているしね。

水野長い文章に対してはすごく憧れがあって。

高橋小説なんかも?

水野うん、書いてみたいなって思ってる。

高橋この前、編集者と話したときに言ってたよ。「水野くんは文章が書けるよね」って。

水野わ!間接的に褒められた(笑)。

高橋「そうなんです、書けるんですよー!」って言っておいた(笑)。書いたらいいと思うな。

水野ありがとう。お互いの言葉がいい意味で変わっていくといいよね。

高橋そうね。

水野それについても、またお話できたら、うれしいです。

高橋本当そうね。

水野そして、また一緒に曲がつくれたら。

高橋そうよね!もっと攻めたり、実験的なことを水野くんに投げてもいいんだって思っとるよ。

水野うん。もしよければ、HIROBAでも、ぜひ。

高橋ぜひ!

水野歌い手さんを決めないで曲をつくったりするのも面白いなと思っていて。HIROBAじゃないとできないような実験的なこともできたらね。

高橋うん、楽しそう。やりたい!

水野今日は本当にありがとうございました。

高橋ありがとうございました。すごく面白かった!

(おわり)

高橋久美子(たかはし・くみこ)
1982年生まれ。作家・作詞家。
2004年、チャットモンチーに
ドラム、作詞家として加入。
2011年、チャットモンチーを脱退。
以降、アーティストへの歌詞提供や、
エッセイ集の出版など、精力的に活動。
2019年4月から、
さまざまなアーティストの“歌詞”に
スポットを当てる音楽番組「うたことば」
(NHKラジオ第1/毎週日曜午後1:05)の
MCを務めている。
高橋久美子オフィシャルサイト
高橋久美子Twitter

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano
Styling/Miwa Nakayama

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