2019.5.10
TALK

eji いい曲があったら、もう答えはすぐそこに見えているんだなと強く実感しました

「あの曲を最後まで書いて、ひとりで歌って、完成させます」

小田和正さんとの楽曲制作のなかで、完成間近まで行って、小田さんの判断もあって、ストップしたあの曲。HIROBAをスタートさせる水野良樹の覚悟とも受け取れる思いが込められたその曲は「I」と名付けられた。

「I」の世界をより深く探るべく、制作に携わった3人のスタッフがそれぞれの視点で語る短期連載。2回目は、キーボーディストとしてレコーディングに参加し、アレンジも手がけたejiさんが登場。

いい曲があったら、もう答えはすぐそこに見えているんだなと強く実感しました

──「I」のお話の前に、まずはejiさんご本人のお話を伺いたいのですが、ejiさんがプロの音楽家を目指したきっかけを教えてください。
eji小さい頃からピアノとエレクトーンをやっていて専門学校に行って、そのときはエレクトーンのプレイヤーとか先生になるのかなと思っていました。ポップスとか、テレビで見るような音楽のお仕事に就くということはあまり想像していなかったですけど、その専門学校にドラムやベース、ボーカルなど、ポピュラーミュージックを目指している人たちがたくさんいて、そこでバンドに目覚めて「歌がある音楽の方が面白いかも。私、できるかも」と思ったのが最初ですね。

──そこからプロとして活動していこうと思うように?
ejiまずはエレクトーンの仕事をやろうと思ったんですけど、ちょっと想像と違っていて、それならバイトしてでも好きなことをやろうかなと思ったんです。それでキーボードを買って、自分で曲をつくってボーカルと二人でライブ活動もしていたんですが、並行してサポートということも始めて。そういったなかで、ギタリストの西川進さんに偶然出会い、「Smash Room」という西川さんの事務所に入れていただいたんです。私が24歳のときですね。そこから西川さんと一緒にお仕事させてもらうようになって、そのなかで、いきものがかりのお仕事もさせていただくようになりました。

──いきものがかりとの最初の出会いはいつでしたか?
eji「ライフアルバム」のレコーディングにキーボードとして参加したのが最初ですね。
注釈:「ライフアルバム」 2008年2月リリースのいきものがかりの2ndアルバム。

そのときはメンバーの年齢なんかは詳しくは知らなかったんですが、勝手に「同年代なんだろうな」「聴いてきた音楽が同じなんだろうな」と感じていたので、一緒にお仕事できることがすごくうれしかったのを覚えています。いきものがかりもそのときは年上のミュージシャンとセッションすることがほとんどだったようで、聖恵ちゃんとも「同年代の子が来てくれてうれしい」という話をして仲良くなったんです。

──そのときの水野さんの印象はいかがでしたか?
eji私のなかでは、とにかくいい曲をつくる人という印象で。「本当に水野さんがひとりで歌詞書いているのかな?」「なんで、この人はこんなに女の子の心が分かるんだろう?」というくらい、自然に女性の気持ちを言葉にできる人だなと思って。実際に会っても穏やかで優しい人だなという印象でした。どこからそういう歌詞が出てくるんだろうって不思議でしたね。でも、そのときは当然そんなことは聞くことはできず、「はじめまして!」って感じでしたけど(笑)。

──これまで間近でいきものがかりを見てきて、特に感じたことはありますか?
ejiライブを見たときに、水野さんがいちばん喋っているということに驚いて(笑)。「あ、聖恵ちゃんじゃないんだ!」って。水野さん、山下さんの曲があって、それを聖恵ちゃんが歌うことの意味をそのとき理解したというか。やっぱり曲自体を書いているのは二人だから、ライブで曲のことについてちゃんと話すのは水野さんなんだなと、納得したんですよね。それこそが、いきものがかりならではなんだなと。

──今回の「I」は、いきものがかりではなく、HIROBAという新たなプロジェクトになります。いちばん最初に「I」を聴いたときはどう思われましたか?
eji「I」の1行目の「そして今僕は 歌えるだろうか」っていう歌詞がすごくグッときて、「ああ、これが水野さんの本心なんだな」って。いきものがかりの曲はいい意味で完成されているんですけど、初めて水野さんの素の部分を見た気がしたし、「歌詞を通して今まで思っていた本当のことをやっと教えてくれたんだ」というような気持ちになったんです。もちろん、輝いているし、華々しいんだけど、いろんな葛藤があって今の水野さんがいるんだなと思いましたね。

デモのアレンジもすごく完成されていたんですよ。選んでいる音ひとつひとつにもちゃんと意味があって、そのことにすごく感動しました。水野さんは「変えてもらってもいいんで」みたいな感じでしたけど、「いや、これは絶対にいじらない方がいい。できるだけ残してかたちにしよう」と思って。この曲に対する思いが深いんだなっていうことをデモを聴いて感じましたね。

特別細かいオーダーもなくて、「デモを聴いてもらったら、分かりますよね」みたいな感じでしたし、実際に聴いたら「私がこういう作業をすることを水野さんは望んでいるんだな」ということは明確に分かったので、作業はすごく早かったですね。端々にやりたいことが要素としてたくさん散りばめられていたので、私はそれをまとめただけという感じです(笑)。

──アレンジするうえで、特に意識されたポイントはありますか?
ejiとにかくシンプルに、ということですね。「音の数、楽器の数は増やしたくないんです」ということは言われていて。最近アレンジさせてもらっていた楽曲は、わりと音数が多いものだったので、久々に一音一音を大事にしたアレンジと私自身も向き合えたので、初心に返るというか、自分的にも新しい段階に進めたなと思えるきっかけになりました。

デモの段階からメロディとメロディをつないでいくとハーモニーになっていくようなアレンジになっていて、詞とメロディが美しいので、ここで劇的なアプローチをしたらいいんだけど…ちょっと抑えようみたいな。普段だったらギラギラ行きがちなところをグッと抑えるみたいなところはすごく気を遣いましたね。盛り上げることの方がよっぽど簡単で。ただ、盛り上げるだけではなくて、どんな要素を使って盛り上げるかが大事で。歌だけでも十分に盛り上がっていることもありますから。微妙な階段の付け方だったり、楽器同士の駆け引きを組み立てていく作業が面白かったですね。

──水野さんも次のような言葉で、喜びと感謝の思いを表現するほど、これまでにはない手応えがあったようですが、ejiさん自身はいかがですか?

「ejiさんがさらに繊細に再構築してくれたおかげで、より解像度を高めて、なおかつ熱量を失わないサウンドが実現できて、いままで経験したレコーディングとも違う達成感があった。こういう瞬間があるから、音楽をやめないでよかったよな、とも素直に思った」
※HIROBA「AFTER STORY about YOU and I」(2019.04.19)参照

eji私も同じ感覚で、あの日のレコーディングの手応えは…なんか興奮して、誰かに伝えたいんだけど…どうしよう、誰に伝えよう、みたいな。自分のアレンジにもすごく自信が持てたという感覚があって。そこから自分が過去にアレンジした曲を全部聴き直してみたんですよ。そうしたら「ああ、自分もちゃんと成長できているな」って確信できたことが、すごくうれしくて。

「私の音ってこういうことなんだ、これでいいんだ」っていう自分の名刺代わりになるような曲になったなと思います。なので、水野さんも同じように思ってくださっていることがすごくうれしいです。

参加されたミュージシャンのみなさんもおっしゃっていましたけど、「I」って本当にいい曲だよねって。いい曲があったら、もう答えはすぐそこに見えているんだなってことを強く実感しました。

──ejiさんにとって、アレンジする喜びとは?
eji私はギターやベースが弾けないので、ストリングスも含めて、家で打ち込みでつくるんですけど、それがスタジオで生楽器に置き換わって、自分が書いた譜面の音が鳴る瞬間はいちばん幸せです。

編曲って答えもないですし、やっているときはすごく不安なんですけど、楽器が入って、歌が入って、ミックスしていただいて、それを最終的にスタジオの大きなスピーカーで聴くのが好きなんです。それが鳴ったときがいちばんうれしいかな。その瞬間があるからずっと続けられるのかもしれませんね。

──今回の経験を通して生まれた新たな思いや、今後こんなふうになっていきたいという理想はありますか?
ejiアレンジするときに何を大事にするかって、やっぱり歌詞の世界をサウンドでどうやって表現するかだと、私は思うんです。歌詞の世界をより明確に、聴く人が頭のなかで想像できるようなサウンドにしたいっていう思いがずっとあって。今回の経験を通して、そのための手法というか引き出しをもっと増やして、もっともっとドラマティックなサウンドがつくれるようになりたいという思いは強くなりました。

──ejiさんが影響を受けたり、憧れているアレンジャーはいますか?
ejiすごいなと思う人はたくさんいるのですが…私はモーリス・ラヴェルというフランスの作曲家が大好きで、ラヴェルが書く曲のロマンティックな世界というか、でもちょっとエロティックで、攻撃的なときもあって。そういうところがすごく好きなんです。ラヴェルは印象派と言われるんですけど、直感をそのままに音にできる人だなって。すごくエモーショナルな音楽だなと感じるので、私自身も、直感を大事した音楽ができたらいいなってずっと思ってるんです。ラヴェルの曲は、オーケストラバージョンだと「ここでこの楽器が入るんだ!」といった発見がすごく多いんですよ。

「I」で言うと、2番でピチカートの世界にいくところがあるんです。世界観が変わるという点ではラヴェルだったりクラシックの要素もエッセンスとしては入っているので、そういった部分も意識してもらえると新たな楽しみ方ができるかもしれませんね。

eji(エジ)
1983年生まれ。
キーボーディスト、サウンドプロデューサー、作編曲家。
2007年「Smash Room」に所属したのをきっかけに、
いきものがかり、平原綾香など、
さまざまなアーティストのレコーディングに参加。
近年はmiwa、moumoonなどのライブツアーでバンドマスターを務め、
アーティストの目線に立ったライブを創り上げている。
2015年よりフリーランスで活動中。
eji オフィシャルサイト
eji Twitter

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa

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