2019.5.13
TALK

HIROBA Part 1
何か表現活動をして世の中に届けるというフォーマットは、ひとつだけではない

HIROBAの立ち上げから約1カ月半が経過。
本人による楽曲制作の過程を振り返る原稿や、
さまざまなクリエイター、ミュージシャンとの対談、
制作スタッフのインタビューなどを通して、
少しずつその輪郭が見えてきたが、
このタイミングであらためて「HIROBAとは何なのか」ということを
分かりやすく説明する必要があるのではないだろうか。

HIROBAとしては初となる水野良樹のインタビューというかたちで、
理解を深める全5回の短期連載。
初回は、HIROBAを始めた経緯と今の心境について語る。

Part 1 何か表現活動をして世の中に届けるというフォーマットは、ひとつだけではない

──HIROBAの立ち上げから約1カ月半経ちましたが、今の率直な心境はいかがですか?
水野いやぁ、どうしていきましょうね(笑)。思っている以上に大変だし、でも静かに反応も出ているので、それに希望を感じつつ、どこまでやれるかなという感じですね。派手にいろんなニュースを出せるとか、ビッグイベントが起きるみたいなことは、もとから想定していなかったので、予想通りといえば予想通りですけど、ここからどう広げていこうかなという気持ちでいます。

──具体的にはどういったことが大変ですか?
水野やっぱり作業量ですね。スタッフのみんなに助けてもらっていますけど、例えばテキストコンテンツをつくるにしても、進行スケジュールを立てて、原稿を作成して、校正して、写真を選んで、対談であれば相手の方に確認をすると。そういった一連の作業は大変なことですよね。

──スタッフからすると、水野さんの作業の方が大変じゃないかなと思いますよ。
水野いやいや。僕は好きでやっているだけですから。自分で原稿を書くのも楽しいですし、対談原稿をまとめてもらって、あらためて読むと「この人が言っていた意図はこういうことだったんだ」と、そこで新たに気づく瞬間があって。それは楽しいですよね。楽しい分、どんどん作業量も増えちゃうし、「これもこうしたらいいんじゃないか」というアイデアが次々と出てくるから、それを実現するにはどうしたらいいかと考えて進めることは大変といえば大変ですよね。でも、楽しい悩みみたいな感じですね。

──対談原稿もそうですが、甲斐さんやejiさんのように対談ではないインタビューでは、水野さんは原稿が出来上がって初めてその内容を知ることになります。それはまた新しい感覚で楽しかったんではないでしょうか?
水野いやぁ、それもまた面白くて、自分のコントロールにないところにあるからこそ、客観的に見えて面白いんですよね。僕がその場にいないからこそ、忌憚なく言っていただいた部分もあるでしょうし。それはすごく新鮮なことですよね。

僕自身の表現活動というところだけではなく、僕にまつわるところで、僕ではない主体の人にインタビューをすることなどで、僕が把握していないものが広がっていくというのもHIROBAの在り方だと思うので、どんどんやっていきたいですね。アイデアレベルで言うと、あるひとつのテーマについて複数の方々にお話を伺っていく企画であったり、同じような志を持った方に連載を担当していただいたりと、本当にいろんなやり方があると思うので、かたちにしていきたいですね。

──HIROBAの今後について話を進めていく前に、HIROBAを立ち上げたきっかけや経緯をあらためて振り返っていただけますか?
水野幸運なことに、僕はいきものがかりというグループで世に出ることができて、ひとつのグループが世の中に知られていくという過程を一通り経験することができました。

メディアの方々との関わりにおいても、最初はなかなか声をかけていただけるような立場にはなくて、こちらからお願いをして取材していただくといった状況で。でも、だんだんと興味を持っていただけるようになり、関わり方も密になって。ひとつの音源をつくるにも関わる人が増え、ツアーをやるにしても最初はスタッフとメンバーだけの7、8人で全国をまわっていたのが今では100人近いスタッフが帯同するようになりました。

そういった全ての段階を一通り経験することができて、そのなかで、やっぱり音源でも文章でもライブ演奏でもいいんですが、何か表現活動をして世の中に届けるというフォーマットは、ひとつだけではないんじゃないかなということはすごく感じていて。もっと自由に柔軟に、複合化していてもよくて。それを試すことができる場所が欲しいなということはずっと思っていましたね。いきものがかりの放牧をある種の契機とするなら、放牧に向かうまでの数年間もずっと思っていました。

作り手としての視点と、それを届ける際の視点のふたつがあって。そのどちらに対しても何か違和感や疑問を感じていて、もっと新しいかたち、もっと柔軟なかたち、もっといいやり方があるんじゃないかって思ったんですよね。つくる方としては、グループで求められる役割があって、グループが目指そうとしているところがあって。ただ、それに安住していると作り手として死ぬなという思いがすごくあるんです。同じことを繰り返してしまったり、求められることに応えていれば基本的には存在を認めてもらえるので、そうすると作り手として刺激を求めなくなってしまうというか。それはよくないとかなり前の段階から思っていて。もちろん、いきものがかりでやってきたことを否定する気持ちはまったくなくて。そうではなくて、外を知らないと、ここ(いきものがかり)の良さも分からないから、外を知りたいという気持ちがすごく強かったんですよね。

ただ、外に出ていくときに「水野良樹のソロ活動です」という文脈でいくと、それはいきものがかりというグループがあって、そのサイドストーリーでしかなくなってしまうので、結局いきものがかりでやっていることと変わらないので、それは意味がないなと。失敗して小さく終わってしまうでしょうし。だから、ソロ活動ではなく、まったく違う城を一度つくるんだと。そういったことを考えていろんなアイデアを出すなかで、今のHIROBAにつながって、なかなか一言では言い表せない試みで…プロジェクトという言い方をしていますけど(笑)。

いろんなアーティストと曲をつくる以外にも、今考えているのは、コラボレーションするアーティストを最初から決めることに囚われず、まず曲をつくって、歌ってくれる人を、それこそもっとオープンに探してみようとか。ありそうでなかったことをちょっとずつやっていきたいなと。

ただ、それを「新しいことです」「今までとは違うことです」と声高に言ってしまうと、どうしても今まであるものを否定するところから始めなくてはいけなかったり、もしくはセンセーショナルなものにしたくなってしまったりして。なぜかと聞かれると困ってしまうんだけど、そういうふうにはしたくなかったんですよ。センセーショナルなものにしたり、激しい言葉を使って「今までの既成概念を壊して新しいものをつくるんだ」ってなると、壊すことにかなりのエネルギーを削がれてしまうし、壊すこと自体がエンタメになってしまうので、それは非常につまらないなと思うんです。

だから否定から始めるのではなく、静かに、声高に言わず…すごくシャイなやり方だと思いますけど(笑)。それはすごく大切にしたいなと思っているんですよね。

こうやって過程を話したり、音楽畑の人間が原稿を書いたり、作品や記事などのすべてのコンテンツをなるべく自分の権利のもとに置こうとして、可能な限りリスクを自分で背負うというのは、センセーショナルに書こうと思えば書けると思うんですけど、そうではなく、なんか当たり前のこととしてできたらいいなと。成功するかどうか分からないですけど、仮に10年続けられたら、なんとなく見えてくるんじゃないかなと思いますね。

──そういった思いで実際に始めてみて、何か考え方や行動に変化はありましたか?
水野うーん、そうですね。HIROBAを強くしたいというか、ブレないものにしたいという気持ちが強いですね。そこを大事にすることは地味に見えることかもしれないですけど。

4月に「YOU」をリリースしましたが、それを世の中に届けることってすごく難しいことじゃないですか。小田さんは名前のある方で、当然みんな知っていて。今までのいわゆる宣伝というやり方であれば、小田さんのお名前があったらワイドショーで取り上げていただけるとか、僕がラジオキャンペーンに出たりとか、そういうこともできるんだけど、わりと断ってしまって。それはレーベルの宣伝担当者からすると「CDを売りたいんじゃないの?」「作品の良さを届けたいんじゃないの?」ってなると思うんですね。でも、今までの手法ではなく、作品の持っている品というか力強さといったものを自分のコントロールできる範囲で伝えていきたいなと。今までだと、すでにあるメディアの力を借りて、雑誌でもテレビでも宣伝していただけるのでノーギャラで出て、ある程度決まった質問に答えてということに対して、誰も疑問に思ってもいないですよね。もちろん、それはまったく否定することでもないですし、今でも僕らはやっているので。

でも、そこではないところで活路を見いだしていかないといけないし、だから自分でメディアを持って、小田さんに聞いた言葉をもとに自分で原稿を書いて「こういうことがありました」「こういう思いでつくりました」ということを伝えているわけで。確かに他のメディアに比べたら届く層が狭いし、自分から情報を取りに来てくれる人じゃないと読めない記事だし、本職のライターさんが書いたらもっと分かりやすく伝えられるかもしれないところを、僕が書くと遠回りをしてしまうかもしれないけど、でもそこに意味があるんじゃないかと思っているんですよね。

もし、テレビ局の方が興味を持ってくださって「小田和正といきものがかりの水野良樹がコラボレーションします」みたいな、わりと分かりやすいニュースにはなるとは思うんですけど、本質はそこにはなくて。もちろん、小田さんも本質はそこにはないと思っていて、それこそ「YOU」のレコーディングで「水野が一人で歌った方がいい」って言うくらいですから。「俺と一緒にやることでCD売れよ」なんて、つゆほども思っていないですよね、当たり前ですけど。出会って13年経って、僕がいろんなことを考えて悩んでいるということを横で見てくださっていて、今回初めて一緒に曲をつくるということに応えてくださった。小田さんが思う何かしらをやり取りのなかで伝えてくださったということに意味があり、僕はそこにぶつかっていったことに意味があるから。それをなるべく、フィルターを通さず、ブレずに伝えたいというのが今やっていることなんですよね。

──それに対して、いきものがかりのメンバーだったり、近しいスタッフであったり、周りの人の声というのは何か聞こえてきましたか?
水野いや、まだ…全然理解されていないですね(笑)。でも、何人か興味を持ってくれて「あの対談ってどんな感じだったの?」とか、僕に直接聞いてくれる人もいますし。例えば「I」のアレンジをしてくださったejiさんは、いきものがかりのレコーディングでも何曲も演奏していただいたり、アレンジでもお世話になっていて、いきものがかりの水野良樹として接していたと思うんですよ。でも、制作のなかで、そことは違う部分に気づいてくださって、すごくうれしいことに共有できた部分がたくさんあって、たぶん僕に対する意識は変わっていると思うんですよね。なので、そういう人が出てくると、だんだんと理解者や仲間が増えていくんだろうなと思いますね。

(つづきます)

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

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