2019.5.15
TALK

HIROBA Part 3
理想とする活動は、自分のレギュレーションでなければ、実現することはできない

HIROBAの立ち上げから約1カ月半が経過。
本人による楽曲制作の過程を振り返る原稿や、
さまざまなクリエイター、ミュージシャンとの対談、
制作スタッフのインタビューなどを通して、
少しずつその輪郭が見えてきたが、
このタイミングであらためて「HIROBAとは何なのか」ということを
分かりやすく説明する必要があるのではないだろうか。

HIROBAとしては初となる水野良樹のインタビューというかたちで、
理解を深める全5回の短期連載。
第3回は、リスクを取って挑戦することについて語る。

Part 3 理想とする活動は、自分のレギュレーションでなければ、実現することはできない

──そういった自由なやり方を試すことで、どういった反応があるのかを見てみたいということですよね。HIROBAの編集としての立場で言うと、水野さんが自分で原稿を書いてフィルターを通さずに発信することは、ものすごく意義のあることで、他のメディアにはできないことだと思います。表現したいことに合わせて、文章であったり、音楽であったりと、アウトプットの仕方を変えるということは自然なことですよね。「『HIROBAとは何なのか』を表現する言葉は見えてきましたか?」という質問をしようと思ったのですが、これまでの話を踏まえると、表現する言葉があることによって、逆に柔軟性や自由を失ってしまうのかもしれないとも思いました。
水野そうですね。「何なのか」ということの名前を付けることは大事だと思っていて。だけど、それを間違えると、言葉によって限定されてしまって、狭くなってしまいますよね。その危惧はあります。ただ、いつかは付けられるようになったらいいなとは思っているんですよね。

インターネットだって、ホームページだって、最初は何だかイメージできなかったと思うんですよね。今は名前もついているし、みんななんとなく理解しているけれど、最初は「それは結局、何なの?」って。 SNSだってそうですよね。僕は最初に触れたSNSがmixi(ミクシィ)だったんですが、mixiを初めて知ったときに「会員制のサービスでね」って言われて、「怪しいやつ!?」って(笑)。「日記を見たら“足あと”がついてね」「“足あと”って何ですか?」「お金取られるんですか?」「いや、無料なんだよ」「うーん、どういうこと?」みたいな。最初はイメージが何もないので分からないんですよね。

HIROBAで言うと、いきものがかりのコアのファンの方たちからすると、「いきものがかりのメンバーで、曲を書いていて、ああいうキャラクターで、ライブでこんなことをしゃべっていて」というトータルイメージがあって、そこからしか想像できないと思うんですよね。ソロ活動とか、今までにある言葉で理解していくことになるので。そうするとすごく狭いものになってしまうんですけど、そうではなくて、あるひとりの人間が自分の特性を生かしてメディアもやるし、コンテンツづくりもするし、総合的な表現をしていく。その活動の場でさまざまな人とも出会い、インプットもその場で行い、さらにそのインプット自体もコンテンツ化して見せていくと。クリエイターとして拡張し、成長していく姿がすべてそこにあって、それが他社のメディアの影響や介入を受けずに独立して存在していて、世の中に届けられるというシステム。それが完成すると、僕程度のつたない才能では大きくならないかもしれないけど、もし、すごい才能を持ったアーティストがそういうシステムで活動できたら、もっといろんなチャンスを掴めるかもしれないし、もっと面白くなるんじゃないかなと。

少し話が変わるんですけど、レーベルや芸能事務所といった組織があって、そこで育成や支援をしっかりとしてもらえて、さらに表現を世に届けるうえで必要な仕事もしてくれて、成り立っていますよね。その分、アーティストは失うものもあって、例えば意志決定の権限であったり、もちろん尊重もされるけど、シビアにはそうではない場面もある。ただ、CDが売れなくなったり、パッケージというかたちにこだわらなくてもいいという流れになってくると、媒介物を扱うノウハウや資本がいらなくなるから、相対的に組織の人の力が弱くなって、「じゃあ、自由にやろう」となったところに、今後はサブスクリプションやプラットフォームビジネスの人たちが間に入ってくるようになって「Apple Musicに入れましょう、Spotifyに入れましょう、AmazonのラインアップにCDが入ります」と。

でも、そのプラットフォームを例えば大きなショッピングモールと例えるなら、僕らはそのショッピングモールのレギュレーションに従わないといけないわけですよ。人気のプレイリストに入りやすいフォーマットにして成功する人もいて、それは面白い発想ではあると思いますけど、結局はそのレギュレーションに影響を受けることになるんですよ。大衆音楽の歴史はそのレギュレーションに影響を受けてきた歴史そのもので、レコードの尺に合わせて音楽をつくる、ラジオで放送できる尺や聴こえやすい帯域に合わせた音楽に収める、テレビが台頭してきたら、そのテレビに合う構成にすると。もちろん、それで進化してきた部分も大いにあります。

「今はもうクリエイターの時代で、組織に頼る必要はない」と先鋭的な人は言うかもしれないけど、仮にレーベルや芸能事務所がなくなったとしても、違う巨大な組織が現れるだけで、何も状況は変わっていないと。「なぜ、サブスク解禁しないんですか?」って、まるでアーティストが後進的かのように言う人もいるけど、結局はレーベルからサブスクに移動しているだけで、影響力を受けていること自体は同じで。プラットフォーム側もそれは分かっているから、コンテンツを奪い合う戦いになるんですよね。そうすると今度はコンテンツを奪い合うことから、コンテンツを自分たちでつくるようになって、同じ構図になっていくと。レコード会社がプラットフォームに変わるだけで。そうすると強くなるのはやっぱり作り手の人たちですよね。これから技術が発達して個人がお金や信用のやり取りをもっと自由にできるようになっていくと思うんですけど、そうするとプラットフォームもメディアも必要ない時代が絶対に来るはずで。それを踏まえると、自分の城というか家というか、そういったなかで独自の表現活動のフォーマットをつくることができるような試行錯誤を今のうちにしておいた方がいいということなのかもしれないですね。

これを作家の人がやってもいいと思うんです。そういうことに気づき始めている人は、例えばnoteみたいなサービスを使っているだろうし。noteのようにクリエイターに還元できるようなサービスもできてきていますよね。その流れが押し進められていくなかで、アーティスト側からそういうことに挑戦する人が、実は少ないと思うんですよ。そういったことを考えることよりも、目の前にあるものをつくりたいという人がほとんどですし。あとは、お金を稼ごうとか成功しようとすることに対して、特に日本は、マイナスイメージに捉えてしまう風潮があるので、なかなかやりづらいんですよね。ものづくりにお金が必要になるのは当たり前なのに、そこを回収しようとするアクションは、前面に出ると嫌われるというか。だからこそ、アーティスト発でやってみたいという思いもあります。

例えば、僕が自分で書いた原稿や対談コンテンツをnoteのようなサービスに出したら、少ないながらも売り上げも上がって、金銭的な負担はわずかに減るとは思いますが、そうするとそのサービスに甘えてしまうことになるので、そうではなくて一度自分でやってみて、失敗も成功も経験して、要素を洗い出しておくと。そこが大事だと考えています。

──HIROBAを運営する費用は、水野さんが負担しています。
水野自己の責任のもと、リスクを取るという視点が大事で。儲けようとは思っていないじゃないですか。正直、儲からないし(笑)。今までのやり方を否定するときに、例えば、レーベルや芸能事務所のやり方を否定することって楽なことなんですよね。誰かを悪者にしてね。でも、彼らは全然、悪者ではないし。レーベルや芸能事務所は投資をして、しかも成功確率がかなり低い投資ですよね。アーティストと対峙することは大変なことですし、通常のビジネスでは考えられないような感情的負荷のかかる場面も多々ありますし。そういった難しい状況のなかで、投資をして、権利を取って、ビジネスをしているということは、すごく真っ当となことだと思うんです。だからそこを否定することはまったくなくて。自分の作品に対して、自分でお金を出していれば権利は自分のもので、それは当たり前のことですよね。契約の問題があるので、公にはできないですけど、HIROBAの音源の権利を僕は100%は持ててはいないです。それは契約上のことなので、誰が悪いわけでもない。正当なかたちで自分の権利を主張していくという姿勢はこれからみんなが持たなければいけないと思うんですよね。

自分が理想とする活動をするには、やっぱり自分のレギュレーションでなければ、その理想を実現することはできないので。そのためには、記事や楽曲の権利を自分で持たないといけないという意識があって、自分で負担しているということなんです。それを声高に主張するつもりはないですし、当たり前のことですよね。自分で負担すると、スタッフのみんなと向き合うときにも「僕はこういうことがしたいんです」という主張が正当にできますよね。それに対して、みんなも考えていろんなアイデアを出してくれて。自分以外の誰かが負担していると、自分の発言に説得力が出ないというか。そのときに交渉するのも自分以外の人になってしまいますし。それは今までのシステムと変わらないですもんね。

──HIROBAのサイトの見せ方にしても、イラストにしても、すべて水野さんの理想に基づいてかたちにしていったものになります。
水野理想の表現を実現することは…やっぱり難しいですね。でも、スタッフのみんなは僕の理想に共感して、それを実現することに喜びを感じてくれているのがすごくうれしいですよね。本当に名前付けは大事で、仕事というと急に苦役のような印象にもなってしまいがちだけど、みんなの楽しさが集まるような場所になるといいなと思います。僕は金銭的なリスクを背負っているだけであって、関わる人それぞれが考えて試行錯誤するといった、向上心や積極性のようなものが渦のようになっていくと、絶対にいいものができると確信しています。共感してくれて、少しずつ仲間が増えていくのは本当に面白いですね。RPGみたいな感じで(笑)。

(つづきます)

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

同じカテゴリーの記事