2019.5.24
TALK

岡田宣×有住朋子 【後編】
自分のトライを全うしようとしていることが伝わってきて、離れたところから見ているお父さんとしては、グッときた

「あの曲を最後まで書いて、ひとりで歌って、完成させます」

小田和正さんとの楽曲制作のなかで、完成間近まで行って、小田さんの判断もあって、ストップしたあの曲。HIROBAをスタートさせる水野良樹の覚悟とも受け取れる思いが込められたその曲は「I」と名付けられた。

「I」の世界をより深く探るべく、制作に携わった3人のスタッフがそれぞれの視点で語る短期連載。最終回は、HIROBAディレクターの有住朋子さんが登場。いきものがかりディレクターの岡田宣さんを迎えたダブルインタビューを前後編でお届けします。

【後編】自分のトライを全うしようとしていることが伝わってきて、離れたところから見ているお父さんとしては、グッときた

──有住さんがHIROBAについて初めて聞いたのは、どんな場面だったんですか?
有住岡田さんから「やってくれないか」と言われて、「俺はいないけれども、ちょっとした分身のような人間が水野のそばにいるといいんじゃないか」という感覚なのかなと思っているんですけど。新しいことをやるということに、純粋に面白さを感じましたね。
岡田これは今日の話の核心かもしれないけど…水野良樹はHIROBAでやりたいことはいっぱいあると思うんだけど、そのなかの裏テーマのひとつが「親離れ」だと思うんだよね。長年ディレクターとして見てきた俺を親だとするならね。HIROBAを始めるってなったときに、制作のサポートをする人間が必要だと思って考えたなかで、有住がいいかなと思ったんだよ。俺ととんでもなく違う考えは言わないだろうし、でも水野にとっては新鮮なはずだし。
有住私、いきものがかりを1ミリも知らないから。
岡田そうだよな。
有住水野くんの歌声を初めて聴いたのが、さっき話したソロライブだったんです。

──そのとき初めて聴いた歌声は、どんな印象でしたか?
有住「くどいなぁ、水野くん!」と(笑)。今回のレコーディングでも、「YOU」は小田さんのディレクションだったので抑えていましたけど、私がディレクションを担当した「I」はどうやって抑えようかというのがミッションのひとつでしたね。
岡田軽く歌えばいいのに熱唱しちゃうんだよな。
有住そうなんです、曲の頭から。

いきものがかりは聖恵ちゃんが歌いますよね。今回は、水野くんが自分の言葉を自分で歌うと。そうすると、歌詞の言葉の選び方がけっこう違うものだなという印象でした。「I」をいちばん最初に聴いたときは水野くんのピアノと歌だけのデモだったんですけど、「ああ、水野くんっぽい曲だな」と思いました。ただ、歌詞の部分で、少しフィクションが入っているような感じがしたんです。自分が本心で歌うものではなくて、何かフィルターを通しているというか。でも、すごくいい曲でした。大阪に向かっている途中、新幹線のなかで聴いたんですが、グッとくるものがありましたよ。「I」に行き着くまでは、7〜8回歌詞が変わっていて、水野くんのなかでいろいろ模索しながら完成させたんですよね。

──今回、初めて水野さんと制作するにあたって、特に意識したことはありましたか?
有住水野くんのボーカルを録り終わってからセレクトして、水野くんに聴いてもらうんですけど、基本的にNGということはなかったですね。そこは任せてもらっていたというか。たぶん、水野くんも歌うということが客観視できない部分もあったと思うし。だから、それは人に任せた方が良さを引き出してもらえると考えたのかもしれないし。
岡田もしかしたら、それが水野の不思議なところかもしれないんだけど、「ここは自分がやらない方がいい」というものが所々にあるんだよ。それは、チームとしてはつくりやすいよね。スタッフそれぞれが、自分の役割がどこにあるかというのが分かるから、そこに力を注げるんだよね。もちろん、役割ではないことをお互いに言うこともあるよ。でも「どの部分を誰が中心に動くのか」ということは、水野のなかで役割表をつくっている気配があるんだよね。

──有住さんは、これまでの岡田さんのやり方を参考にしたり、意識したりはしたんですか?
有住いっさい、ないですね。これまでのやり方を参考にしたり、何か下調べをしてしまうと、特にHIROBAの場合はつまらなくなってしまうかなと思って。

「I」は、水野くんが自分の声で届ける曲なので、「言葉を届けられるものに仕上げよう」ということを意識しました。水野くんにとっても「どう歌っていいか」「どう表現していいか」ということは明確ではなかったと思うので、うまく引き出せるようにしたつもりではいます。水野くんは器用で、何でもできちゃうので、「こうやって歌おうか」と言うと、その歌い方がすぐにできるんです。ただ、すごく柔軟だけど、それだけではダメだと思うんです。自分で届けるために、彼にとって何か譲れないポイントが見つかるといいなと思います。その譲れないポイントを持ちつつ、小田さんとのやりとりでもあったように、異なるアプローチや、水野くん自身が「違うな」と思うことを提示されたときに、どう向き合うかということも大事なことだと思いますね。

参照 HIROBA MUSIC HIROBA Part 3 「シンプルに」という難問

岡田正しいかどうかということではないんだけど、「本人から出てこないプランを提示してあげる」ということだよね。それは選択肢が増えることになるわけだから。それでも自分が言っていることが譲れないなら、それでいい。水野は、自己表現の場をいろいろ試しているわけだ。自分の歌というものに対する自分探しをしていると。そのときに彼自身から湧き上がってくるもの以外も提示することは、彼にとっては絶対に悪いことじゃないよね。それを「いやいや、要らないです」と振り払われたとしても、また、「どう?これ、どう?」って差し出して。
有住そうそう、その繰り返し(笑)。
岡田でも、あんまりはねのけられ続けると、「もう、いいわ」ってなるけどね(笑)。
有住ボーカルをセレクトするときに、水野くんが1回だけしか歌わなかったものを意識して選んでいたんです。何回か歌っているものは、水野くんが自分でいいと思っているものだから、あえてそれとは違うものを提案しようと。結果、それが採用されているんですよね。

──岡田さんは「YOU」と「I」を聴いた印象は、いかがですか?
岡田何度も聴いたわけではないけど…小田さんとのレコーディングドキュメンタリーの映像を見たんだよ。

注釈:「レコーディングドキュメンタリー映像」 2019年4月リリースの「YOU (with小田和正)【初回生産限定盤】」に特典DVDとして封入。

あれは、すごくよかった。何がよかったかというと、水野が真剣に取り組んでいることがよく分かった。小田さんに勝負を仕掛けているじゃん。基本的には逆らえない相手に対して、自分の望みをちゃんと伝えようとしているということと、最終的に小田さんを立ち上がらせたということ。小田さんの手のひらの上なのかもしれないけどね(笑)。小田さんも、どこで立ち上がろうかと思ってたくらいかもしれないけど。音源の仕上がりとか、歌がどうだかという以前に、自分のトライを全うしようとしていることが伝わってきて、離れたところから見ているお父さんとしては、グッときた。

有住確かに、それはすごく印象的だった。小田さんと水野くんの会話をずっと横で聞いていて。小田さんが立ち上がった瞬間に、水野くんと目を合わせて「よし!」と、お互い心のなかで拳を握りしめたような感じで。それで小田さんの歌声を聴いたら…「キター!」って。もう…圧巻でしたね。
岡田「YOU」はものすごく抑えているよね、あれは小田さんのサジェスチョンだと思うけど。辛抱強く言えば、あれくらい抑えた歌い方ができるんだってことを知ったね(笑)。さっき、熱唱と言ったけど、人との会話でも大きい声で圧のある話し方だけをしていると、相手は受け取ってくれなかったりするでしょ。そのために、トーンを変えたり、優しい言い方をしたり、強い言い方をしたりすると。同じように、歌のなかでもその構成を変えていけると、違う聴こえ方になるよね。

──最後の質問です。おふたりが推測する「水野良樹の未来像」を教えてください。
岡田いろんな自己表現のトライアルをしていって…やっぱり原点に戻るんじゃないかな。彼がブレていないことのひとつが、「曲をつくることが好き」ということだ。音楽によって人生を変えられた人間なわけだよ、水野良樹は。だから「自分の音楽によって、人の人生を変えたい」と思っている。そのために、今、何をすべきかを探しているのかもしれないね。最終的にどうなるかというと、やっぱり曲をつくるということに戻ってくる、それはいきものがかりの曲なのか、他の歌手の曲なのかは分からないけど。その“自分の在り方”というものが今はないんだけど、その在り方がある人になる。難しいんだけど。そして、アーティストの側面よりも作家の側面の方が強くなるかもしれないね。いきものがかりでも、もちろん作品をつくる人なんだけど、お客さんから見れば、どこか「よっちゃん」って感じがあるわけじゃない。それは、アーティストとしての佇まいもあって、3人でひとつということだから当然で。いきものがかりをやっている以上は、そういう側面を持ち続けるんだけど、彼の内面は、どんどん作家性が強くなっていくんじゃないかなという気がするね。その水野良樹っぽさみたいなものを、いろんな手段で、今つくっているんだと思う。彼に、そういう意識があるかどうかは分からないよ。無意識かもしれないし。水野良樹像というものがどうあるべきかというのを探しているんじゃないかな。

自分のやり方というものに限界を感じると曲が書けなくなるんだけど、今は自分のやり方に制限を設けず、「ここに限界があるなら、これをやってみる」というように、違う曲の書き方を試したり、文章を書いてみたりしていると。そうして、さまざまなことをやってみると「限界はないんだな」って思い始めるわけだ。曲の書き方にしても「これが正解かもしれない、あれが正解かもしれない」と、いろんな歌い手の曲をつくりながら、結局は自分を探しているんだよ。題材は他人なんだけど。

小田さんとやってみて「ああ、これかもしれないな!」と見つけた気になっているかもしれないけど…それでもまだない。作家性が強くなるというのは、それが分かるときなんだ。だから、俺は、「今、彼は探しているんだな」って思いながら見ている。俺は今、水野を“放牧”しているんだよ。
有住水野くんはストイックだから、結局自分で経験しないと納得しないんだよね。
岡田もうひとつ、すごく簡単に言うと、考えすぎなんだよ。もうちょっと適当にやる部分があると楽になるんだけど、責任感が強い分、全部を塗りつぶしていかないと気が済まないんだよね。
有住人とつながるということを、水野くんが今まで、やらなかったのか、できなかったのか、それは分からないけど、やっと小田さんとやったことで体現できたんじゃないかな。音楽を通してつながるということが経験できて、すごくよかったなと思う。

メディアを通してのいきものがかりのイメージで、水野くんって聖恵ちゃんみたいに社交的で、誰にでも飛び込んで行ける人だと思ってたんだけど…真逆でした(笑)。そこは慎重というか。
岡田水野は用心深いよね。山下ですよ、それができるのは。誰とでも仲良くなっちゃうんだから。「つながることをしたい」ということは、「つながるということが足りない」ということだよね。山下穂尊は「つながる」というテーマでは活動しないですよ(笑)。
有住つながりたいと、水野くんが言っているわけだから、その手助けをすることが私の役割です。これから、いろんな「つながり」を提示していきたいと思います。

(おわり)

岡田宣(おかだ・ひろむ)
EPICレコードジャパン
チーフ・ゼネラルマネージャー。
初期から、いきものがかりの担当チーフディレクターを務め、
大半の楽曲の制作に携わってきた。
メンバーが最も信頼を置くスタッフのひとり。
有住朋子(ありずみ・ともこ)
EPICレコードジャパン
制作部 ディレクター。
これまでに数多くのアーティストを担当し、
HIROBAの立ち上げにあたり、ディレクターとして制作を統括。

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa

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