2019.5.29
ESSAY

関取花 連載第1回 角度が変われば

HIROBA はじめての「よそのひと」による連載を関取花さんにお願いすることになりました。
1度か2度くらいしかお会いしたことがないのに、その豊かなユーモアと、その裏に見え隠れする聡明さと、「味方になったら、ぜったい楽しいひと(敵になっても面白い悪口言ってくれそう)」感が溢れ出ていて、いつかどこかでご⼀緒できたらと思っていたところ、今回の連載の運びとなりました。
彼女の素晴らしい歌とともに、このHIROBA での連載も楽しんでいただけたら幸いです。

水野良樹

角度が変われば

角度が重要なのである。と言うと、なんだかためになる話でも始まりそうな感じがするが、全然そんな話ではない。体重計に乗る時の体の角度の話である。
もちろん私だってわかっている。体重計に乗る時は体をまっすぐにして立つべきだということくらい。そうすることによってより正確な数値が計測できるということくらい。しかし、もうどうにも現実を受け入れたくない日だってあるのだ。

私は一年ほど前から毎朝体重計に乗ることを日課にしている。最近では起きた時の身軽さやむくみの感じから、大体の体重を予想できるようになってきた。前後3キロくらいの変動であれば誤差の範囲と思いながら、普段は割と気楽にその数値を眺めている。

しかし、日々生きていると当然いろんなことがある。仕事が上手くいかなかったり、プライベートでやるせないことがあったり、疲れているのにどうも眠りが浅かったり。そんなことが続くと、どうしても気分がどんよりしてくる。おまけに体重が増えていようものなら、まあ落ち込む。一日の始まりがこれだと大体ろくな日にならない。
だったらそういう日は体重計に乗らなければいいじゃないかという話なのだが、それはそれでちょっと悔しい。現実から逃げた自分に罪悪感を感じたまま一日を過ごすことになる。

ほどよく現実も受け入れつつ、前向きになれる方法はないものか。いろいろ考えたのだが、結局のところ「いかに体重計に乗るというイベントを楽しむか」というところに落ち着いた。そんな時に重要になってくるのが、体重計に乗る角度なのである。

まずはきちんと体重計に乗り、実際の体重と向き合う。しかしこの際決して真正面からその数値と対峙してはならない。とにかく薄目で、視界がぼやけるくらいに薄目で。顎を30度ほど上げ、上半分白目をむきながら体重計に視線を落とす。女性の方はマスカラを塗るときのあの顔と思っていただければ良いだろう。直視はしないけど認識はするくらいの心持ちで見るのが吉である。

そして他人事のようにぼんやりとその数値を認識したら、あとはもう悪あがきタイムである。いかに画面上の数値を減らすかに命をかける。私VS体重計の、絶対に負けられない戦いが始まる。(ここで脳内BGMオン。サッカーの、ほら、あれよ)

足の裏は体重計につけたまま、体だけを前後左右さまざまな方向に動かしていく。すると、体の角度によっては現実よりも300グラムくらい軽い数値を叩き出せたりする。そこからはもういよいよ自分との戦いである。腰に手を当ててみたり、腕を上げてみたり、重心を外に逃がしてみたりと、とにかくあらゆる手を尽くす。この微調整でさらに100グラムくらい減らすことができたりするのだ。(暇かよ)
こうして私はさまざまな体の角度を試していくなかで、平均的に優秀な数値を叩き出してくれる三つのポーズを編み出した。それぞれにポーズネームもついている。「マイケル」「フカワ」「ダビデ」である。

まず、「マイケル」について説明しよう。これは、マイケル・ジャクソンの『ゼロ・グラビティ』というあの有名なパフォーマンスを真似たものである。

これね。

もちろん私はマイケルのような体幹は持ち合わせていないので、ここまで綺麗な体勢はとれない。しかし、これを意識した角度をつけて体重計に乗ると、割と好結果を残すことができる。入念に微調整をしている間にじんわり汗をかいてきたりもするので、多分この間に痩せている。さすがマイケル。

次に紹介するのは、最近私が最もはまっているポーズ「フカワ」である。これは、芸人のふかわりょうさんの「小心者克服講座」というネタの中でやられていた動きにヒントを得ている。

こんな感じのポーズである。

白いターバンがトレードマークで、エアロビクスの動きをしながらシュールな一言を放つこのネタが私は大好きだった。私もたまたま最近洗顔をするとき用に白いヘアバンドを買ったので、それをつけながらこのポーズをとるとなかなか気持ちが入る。それに、一応エアロビクスの動きをしているのだからきっとエクササイズになっているはずである。いや、絶対なっている。なっているに違いない。

最後に紹介したいのが「ダビデ」である。これはその名の通り、ダビデ像のポーズである。

そうです、これです。

片足に重心を置き、もう片方の足は無造作に。両腕はぶらんと下げていても良いのだが、せっかくなので片腕は上げておこう。肩のあたりに手を持って来るイメージで、ついでに首の角度も完コピと行こうか。これもなかなかの好結果を残してくれる。
そして重要なのは、いかにダビデ像になりきるかということである。心からダビデになることで全身の筋肉に自然と力が入り、あの引き締まった肉体を手に入れられる気がするのだ。
ちなみに私の場合は洗面所の鏡の前に体重計が置いてあるのだが、風呂上がりに全裸で必死にこのポーズをとっている自分を見たときは、かなり笑えた。思っていた以上のドヤ顔で、ダビデ像になりきっている149センチの女がそこにはいたのだ。バカだ。バカすぎる。

しかしこんな感じのことを本気で必死にやっていると、なんだか実際の体重なんてどうでもよくなってくるのだ。正確に言うと、体重計に乗るということを全力で楽しんでいるうちに気持ちが前向きになり、まあ何事もなんとかなるさと思えてくるのである。体の角度を変えていくうちに、物事も違う角度で捉えられるようになったのだ。ビバ角度。ありがとう角度。

……さて、連載第1回目から長々とくだらない話を書いてしまったが、あらためて最後に少しだけ自己紹介を。

関取花と申します。歌を歌っています。それ以外は寝るか食べるか飲んでるか。
ちょうど1カ月ほど前、水野さんからTwitterでダイレクトメッセージをいただき、この度コラムの連載をさせていただくことになりました。(なんでも、ブログなどを読んで下さっていたそうで……)ざっくりとした文字数以外は内容などもご自由に!とのことだったので、早速こんな感じで書いてみましたが、大丈夫ですかね。

でもここはHIROBA、入り口も出口も遊び方も自由な場所だと思います。それなら少しでもここに訪れた方々が楽しい気持ちになるようなものがお届けできればな、と思っております。日常で起きた些細なことやどうしようもないことも、角度を変えて見れば案外面白かったりするので、そんなことを肩の力を抜いて書いていけたら、と。

そんな感じで、これからよろしくお願いいたします!

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。
昨年はNHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演を経て初のホールワンマンライブを成功させた。
2019年5月8日にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
<最新情報>
6/2(日)20:00〜20:55 TBSラジオ 特番「関取花のどすこいちゃんこラジオ」
関取花弾き語りツアー「60分一番勝負2019」
関取花ライブハウスツアー「梅雨だくツアー2019」
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