2019.6.7
TALK

水野良樹×前川清×糸井重里 Part 1
与えられたものを歌って、僕自身を変えてもらう

Prologue from Yoshiki Mizuno

糸井重里さんからお誘いをいただき、前川清さんの新曲づくりに参加させていただきました。
出来上がった楽曲は「ステキで悲しい」「修羅シュシュシュ!」というタイプの違った2曲。
「修羅シュシュシュ!」の作詞を担当してもらったのはHIROBA TALKにも登場してくださった高橋久美子さん。
水野と高橋さんの2人にとっても、挑戦的な楽曲になりました。
果たしてこの歌たちは前川さんに気に入っていただけたのか。
曲がリリースされた今、あらためて前川さんの感想を伺いたくて、
前川さんと糸井さんのもとを訪ねました。

Part 1 与えられたものを歌って、僕自身を変えてもらう

水野今回は、糸井さんに「前川さんの楽曲を書いてみないか」とお誘いをいただいて、「ステキで悲しい」「修羅シュシュシュ!」という2つの楽曲をつくらせていただきました。「修羅シュシュシュ!」は高橋久美子さんという僕と同い年の作詞家と一緒につくったのですが、けっこう挑戦的な歌詞を書いてしまったので、「これは(前川さんに)怒られるんではないか」とも思ったんですが。まずは、曲を聴いたときの率直な感想を伺えますか。
前川ある程度、譜面通り、忠実に歌っているんですけど、僕にはちょっと難しい感じがしましたね。
水野ああ、そうですよね。
前川今まで歌ったことがない感じで、70代・80代の方々が聴いたときに、どうなるのかなと思ったり。それと、今難しいのは、テレビの歌番組に出たときに歌の尺が2分半くらいと決まっているんですよ。そうすると水野さんの歌は長いんですよ。
水野はい。よく言われます、ごめんなさい。
前川「ステキで悲しい」はエンディングで半音上がるので、そこにキーを合わせないといけないんですよね。しかもエンディングのサビの前に、違うメロディが入ってくる。これは歌謡曲みたいなジャンルにはあまりないことでね。今までにないものだったので、不安な自分と新鮮な自分がいましたね。
水野J-POPというジャンルで育った僕らはよく「大サビ」という言い方をするんですけれど、大サビというものが歌謡曲のスタイルでは少ないかもしれないですね。
前川少ないですね。テレビだと、いきものがかりの曲なんかは長く歌われますよね?
水野いや、でも、けっこう短く切りますよ。
前川あ、そうですか。でも、僕なんかの場合はもっと扱いがひどいんですよ。
水野いやいやいや。
前川ただ、そのテレビの尺を考えて曲をつくるというのも面白くないですしね。
水野そうですよね。
前川「ステキで悲しい」はテレビで歌うには難しい曲だなと思いましたね。
水野ごめんなさい、短く書くべきでしたかね…(笑)。
前川いやいや、それは…。水野さんに書いてもらう前に、糸井さんには以前「初恋 Love in fall」という曲を書いていただいたんですが、やっぱり浸透するのに時間がかかりますね。

注釈 「初恋 Love in fall」 糸井重里の作詞・プロデュースによる前川清の50周年記念シングル。2018年5月リリース。

水野ああ。
前川糸井さんの詞の曲が終わって、しばらく経って水野さんの曲になるっていうときにやっと「(「初恋 Love in fall」は)いい曲だね」ってなるんですよ。
水野ハハハ。
前川今、言われても…ってね。もっと早く気づいてくださいよって(笑)。
水野長いスパンで聴いてもらえているってことじゃないですか。
前川今は歌謡番組は少ないですし、難しい時代になっていますよね。
水野長く聴かれた方がうれしくないですか?J-POPといわれるジャンルは本当に短い期間にどんどん新曲を出して、どんどん移り変わっていくみたいなペースで聴かれていたので、そう考えると、同じ曲を20年、30年歌われていてお客さんもそれを聴き続けるということがうらやましいし、僕は憧れるんですよね。
前川今は新曲を歌うと視聴率が上がらないということがあるんですよ。
糸井ああ、なるほど。
前川懐メロなんかは視聴率がいいんですよ。新曲を歌うと「待ってました!」というお客さんもいるけど、やっぱり今までのヒット曲を聴かせてくれという人が多くて。今はどういったものがいいのかというのは、僕にも分からないんですよね。

水野前川さん自身は「こういう歌が歌いたい」というお気持ちはあるんですか?
前川うーん、どうでしょうね。面白いなと思うのは、この間、福岡でフェスに出たんですけど、「長崎は今日も雨だった」を歌っていて若い人たちが騒ぐんですよ。

注釈 「CIRCLE’19」 2019年5/18(土)、19(日)に福岡県海の中道海浜公園 野外劇場で開催された音楽フェス。前川は5/18(土)に出演した。

水野みんな知っているんですね。
前川いや、知らない人もいると思うんですよ。たぶん、歌を楽しんでるんですよね。歌って難しいですよね。「この歌で騒いでください!」って言うのもおかしいし。
糸井ハハハ。
前川オールディーズなんかをやると、お客さんも手拍子する。この次やることって何なんだろうなって思うと…例えば矢沢(永吉)さんとか、桑田(佳祐)さんとかの歌は、年寄りの人たちでも聴けるリズムなんですよね。分かりやすいんですよね。
水野新曲の打合せのときにも、レファレンスとして矢沢さんの例を出されてましたもんね。
前川若い人もカッコいいと思うし、僕らの年代の人でもカッコいいと思う。かといって、リズム的に同じような曲をやってお客さんがついてくるかといえば、そういうわけでもない。
糸井うーん。
前川自分でやりたいというものは…ないんですよね。だから「雪列車」にしてもそうですけど、与えられたものを歌って、僕自身を変えてもらう。水野さんにこうして新しいものをつくってもらって、変えてもらう。そういうことしか…ないんですよね。

注釈:「雪列車」 1982年10月リリースの前川清のソロデビューシングル。糸井重里作詞、坂本龍一作曲。

糸井役者さんのようですよね。
水野そうですね。
糸井刑事だったり、泥棒のときもあったり。そういうことですよね。
前川そうそうそう。一緒かもしれない。
糸井似てますよね。
水野でも、前川さんの肉体と声を通さないと成り立たないじゃないですか。仮にすごく器用で上手く歌える人がいても、前川さんが出す世界と同じにはならないじゃないですか。同じセリフであっても役者さんによって、全然違うものになるのと同じで。
前川そうですね。
水野それを高橋久美子ちゃんとも話していて。
例えばちょっとふざけたことを言ったり、今回の歌詞もギリギリのところを攻めているけれど、これを違う人が歌うとコミカルになりすぎてしまったり、言い方が乱暴ですけど下品になってしまったり。でも「前川さんだから大丈夫だろう」「前川さんという人を通せば、聴く人みんながユーモアにしても、温かみにしても、スッと受け取れる。自分たちがイメージしたものになるね」と。それは前川清という人じゃないと成立しないんだなということを、今回すごく感じました。
前川「面白いね」っていわれるのは「修羅シュシュシュ!」の方ですよ。
糸井そうですよね。
前川それがいいかどうかは、僕にも分からないですよね(笑)。
水野すみません(笑)。
前川僕自身、歌詞をすごく理解して、その世界にグッと入り込むということはないんですよ。でも「いい歌」というのは必要ですね。
水野それは世の中にとって?
前川世の中というよりもね…何年も経った売れもしなかった曲が「あの歌、いい歌ですよね」って言われることがあるんですよね。「えっ!」と思うんだけど、あらためて歌ってみると「ああ、いい歌だ」とか。あとカラオケだと、字幕で歌詞が出ますよね。そうすると「あ、こんないい詞なんだ」って。

糸井ハハハ。
水野なんか、前川さん、そういうエピソード多いですよね。「ステキで悲しい」も3年後くらいに前川さんがカラオケで歌ったときに「あ、やっぱりいい曲だな」って言ってもらいたいな(笑)。
前川でも、それはちょっと寂しいですよね。
糸井商売を兼ねているわけですからね。
前川そうなんですよ。あとから分かっていただくのも、うれしいんですけどね。やっぱり今ね。
水野そうですかね。でも僕思うんですけれど、今、ストリーミングの聴き放題のサービスがたくさんあって、新曲だけじゃなくて、5年、10年前の曲がずっとランキングに入っていたりするんですね。
前川はい。
水野だから、ずっと聴かれてスタンダードになった曲は、ずっと売れ続けるというか、商売という意味においてもずっとお金が入ってくるという。今までのように数カ月のヒットで、その期間にテレビやラジオで流れて、そこでCDが売れて、お金を回収してということではなくて。とにかく、いい曲でずっと聴かれ続ければ、みんなご飯も食べられるということになると思っていて。むしろ歌謡曲のように長く愛されている曲の方が、今後多くの人がハッピーになるというか。
この曲も「CDが何枚売れた」「どこのテレビ、ラジオで流れた」ということばかりに目がいってしまうんですけど、ずっと何年間も、誰かの生活に根付いたり、カラオケであったり、誰かのちょっとした楽しみの瞬間に流れるといったことがすごく大事なんじゃないかなと思うんです。その上で、前川さんが歌うときに「この曲、いいな」って思って、さらに「愛されているな」って感じてもらえる瞬間があれば、僕は成功なんだと思います。
前川そうなってくれたらいいんですけどね。なかなかね。
水野ハハハ。
糸井これだけネガティブなことばかりを、ずっと言い続けているのに、働き者だっていうのは、すごいですよね。
前川働いていないと安心できないんですよ。
糸井あ、そうなんだ。
水野前川さんって、ネガティブなのか、僕はたまに分からなくて。
糸井そう、分からない。癖みたいなもんで(笑)。
水野僕らの世界は、みんないいこと言うんですよ。「売れなくてもいい作品だよね」って言ってしまえば、何でもオブラートに包めちゃうのも事実で。でも、前川さんがおっしゃっていることってシビアなことで、よくよく考えてみると希望的観測ではなくて、ただの実寸を言っているという。だからネガティブというよりも、僕はフラットに物事に向き合っていらっしゃるんだなと思いますね(笑)。
糸井ずっとネガティブなことを言っているなかで、自分を救うかのように「いい歌は必要ですよね」って言うじゃないですか。
水野ハハハ。
糸井本人もそういう気持ちがちょっとあることが分かるから、なんか、ホッとするんだよね。切ない歌ばかりなんだけど、「頑張れよ」って言われているような気持ちになったり。暗い絵の具で、明るい絵を描くというかさ。港に灯りがついているみたいなさ。これはもう…持ち味なんじゃないかな。いっぱい売れてたときも同じようなこと言ってたんじゃないですか?「こんな人気は続かないよ」みたいな。
前川ああ、思ってましたよ。
糸井やっぱりね。
前川思ってましたね。
水野天狗になる瞬間はなかったんですか?
前川ないです。ずっと不安です。それは、自分で(曲を)つくってないから不安なんですよ。
糸井ああ。
前川僕は現場で歌わないと、現場で仕事をしないと、食っていくことはできないんですよ。
糸井うーん。
前川フェスなんかもドキドキして「まいったな、どうしよう」みたいになりながらね。
糸井うまくいったんでしょ?
前川はい。終わったときは「何だろう、このうれしさ」って。
糸井9曲やったんですよね。
前川はい。糸井さんが選んだ曲なんですよ。そのなかには正直、僕が好きではない曲も2曲あったんですよ。
水野わざわざ、言わなくてもいいじゃないですか(笑)。
糸井ハハハ。
前川みなさん、喜んで聴いてくださるんですよ。ただ、「売れる、売れない」のことに関しては、難しい時代ですよね。

(つづきます)

前川清(まえかわ・きよし)
1948年生まれ。歌手。
1969年に、内山田洋とクール・ファイブのボーカルとして
「長崎は今日も雨だった」でデビュー。
その後リリースした「そして、神戸」「東京砂漠」などが大ヒット。
1987年よりソロ活動を開始。
2018年2月にデビュー50周年を迎え、現在51周年に突入。
前川清オフィシャルサイト
前川清Twitter
糸井重里(いとい・しげさと)
1948年生まれ。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。
コピーライターとして一世を風靡し、作詞や文筆、ゲーム制作など
幅広いジャンルでも活躍。
1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げる。
糸井重里Twitter
ほぼ日刊イトイ新聞

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

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