2019.6.8
TALK

水野良樹×前川清×糸井重里 Part 2
このあたりで遊びたいなという気持ちはありますね

Prologue from Yoshiki Mizuno

糸井重里さんからお誘いをいただき、前川清さんの新曲づくりに参加させていただきました。
出来上がった楽曲は「ステキで悲しい」「修羅シュシュシュ!」というタイプの違った2曲。
「修羅シュシュシュ!」の作詞を担当してもらったのはHIROBA TALKにも登場してくださった高橋久美子さん。
水野と高橋さんの2人にとっても、挑戦的な楽曲になりました。
果たしてこの歌たちは前川さんに気に入っていただけたのか。
曲がリリースされた今、あらためて前川さんの感想を伺いたくて、
前川さんと糸井さんのもとを訪ねました。

Part 2 このあたりで遊びたいなという気持ちはありますね

前川「ステキで悲しい」をつくるときに、糸井さんが矢沢さんをお好きで「矢沢さんみたいな雰囲気もちょっと出ればいいよね」ってお話したじゃないですか。
糸井はい。
前川でも、ああいった話って…言わない方がよかったのかなって。
水野はいはい。
前川そう言わずに、「お任せします!」って言えば違う曲になるんでしょうね。
水野なると思います。
前川そこなんですよね。
水野いろんな巡り合わせですね。ちょっとした一瞬の言葉のやり取りだったり。そこで結果が変わりますから。
前川やっぱり、そうですよね。

水野実は「修羅シュシュシュ!」も、高橋久美子さんは2つ歌詞を送ってきていたんですよ。

参照 HIROBA TALK 水野良樹×高橋久美子 Part 3「これは絶対いいぞ!」って思えるものに出会えるまで、書くね

前川そうなんですか。
水野もうひとつの方は、本当にきれいな歌詞だったんですけど、普通といえば普通というか。
糸井フフフ。
水野「修羅シュシュシュ!」があまりに強いカラーを持っていたんですけど、彼女は出すことを迷っていて。怒られるんじゃないかって(笑)。
前川はい。
水野でも、一歩踏み出した方がいいと思って提出してくれて、僕も彼女の気持ちが分かったから「やっぱり、こっち(「修羅シュシュシュ!」)で前川さんに投げてみようよ」となって。
前川ええ。
水野いろんな言葉の掛け合いによって、本当だったら踏み込んでいないところに、踏み込めるようになっているというか。その結果なんですよね。
前川「もしかしたら踏み込み過ぎて、失礼かもしれませんが」って手紙ももらいましたよね。でも、僕なんかからすると、もっとやってもらってもいいのかなって。
水野ああ、本当ですか!
糸井「次の曲出すときに、どうしようかなって考えているんですよ」って前川さんから僕のところに連絡が来て。僕は自分でやりたいことしかやらないので、(もう一度歌詞を書くにしても)似たようなことをしちゃうだろうなって思って。年代も一緒だし、お客さんの想像もつくし、そうなると、また「初恋〜(作詞:糸井重里)」をつくっちゃうんですよ、きっと。
前川うーん。
糸井それはなんか違うなって思ったんで。「何でそんなことしたの?」ってことをやらないと、前川さんも変わらないなと思ったし、変わらないとやっぱり退屈するので。
前川はい。

糸井何か全然違うことを僕からはできなくなっているなと思ったので、水野くんがコンサートにも来てくれたし、「水野くんに頼めたら、頼んでみるのはどうですかね」って話をしたのが発端なんですよね。「何でそんなことしたの?」って言われる必要があるなと。

注釈 2018年6/10に恵比須ガーデンホールで行われた、前川清50周年 ほぼ日20周年 記念コンサート。

水野ハハハ。
糸井今回、「糸井重里がプロデュース」って言われるんだけど、プロデュースというよりは“邪魔して”ですね。
水野ハハハ、そうなんですか。
糸井川の流れを変えるのに、爆弾をひとつ放るみたいな。「修羅シュシュシュ!」を出したのは、やっぱりよかったですよね。話し合ってつくっているので、前川さんが何を考えているんだろうということも分かった気がするんですよ。今までは、新しいことを言う機会がなかなかなかったのかもしれない。前川さんと水野くんが打ち合わせで喋っているのを隣で見ていて。いろんな曲が例に出てきて「ああ、前川さんも自分で聴く曲があったり、歌ってみたい曲があるんだ」ってことが分かって。
水野矢沢さんの曲のフレーズを歌ってくださった瞬間があって、「あ、合う!」って。僕らが知らなかった一面を知ったというか。
糸井「ああ、面白いな、年の差で生まれることっていいな」って思って。
前川ちょっと新鮮なものをやってみたいなって気持ちはあるんですよね。ただ、新鮮なものも勘違いするとよくないわけで。お客さんがついて来てくれる範囲での新鮮さですよね。矢沢さんや桑田さんのように、誰からも分かってもらえるようなものじゃないと。それは何だろうなと思いますよね。今回の2曲は歌っていても、今までにない世界観ですもんね。
糸井やっぱり他人にお願いしている部分が多いのが、前川さんの悩みのタネかもしれませんよね。この間、永ちゃんとお話していて、「俺は歌“も”やっている、それでいいんだ」って言ってたんですよ。
前川歌もやっている?
糸井うん。歌以外のところで「矢沢」をどう見せるかというのを考えているって。
前川ああ。
水野すごいですね。
糸井ライブも自分のプロデュースなんですね。そのなかで2曲しかやらないけど、オーケストラをバックに隠しておく曲がある。その曲になったら、パーン!って後ろの幕が下りて、クラシックの演奏が始まったところで、俺が歌うと。それは俺が考えて、俺がお金を出していることだから、演出のどこでどうお金を使うとか、全て自分で好きに言えるわけ、と。
前川うーん。
糸井「歌手の矢沢を生かすために、どうしたらいいだろう」ということを自分で考えているから、やりたいことができるんですよね。歌手の俺を生かすために、もうひとりの俺がものすごく頑張っているんだと。
前川それは分かりますね。
糸井それがやれるんだということを、永ちゃんはずっとフリーでやってきて信じていて成功させてきたのでしょう。
前川僕の場合、どういうふうに登場しようかとか、あまりイメージが湧かないんですよね。階段からこうやって降りようとか、そのくらいでね。
水野シンガーなんですね。
前川矢沢さんはシンガーでありながら、自分のカッコよさも見せて、いろんなものを自分で演出していますよね。僕なんかはね、その演出は何もないです。スタイルが全然違いますよね。
水野素の矢沢さんはいらっしゃるんですか?
糸井素の矢沢さんも、矢沢さんです。
水野やっぱりそのままなんですか?
糸井はい。ただ、ステージで見せているよりは三枚目だと思います。面白いことを考える人じゃないと、あの二枚目ぶりはできないですよね。
水野そうですよね。
糸井どう見せたら面白いかを分かってるでしょうから。
前川ああ。
糸井水野さんもそうだと思うんですけど、どういう会場で、何をテーマに、どう見せるか、ということにコストをかけるじゃないですか。それができるということは、失敗できるということなんですよ。自分でやりたいことをやって失敗したら「チクショウ!」って思えるんだけど、前川さんの場合は「こちらに御膳がすべて揃っております」というところに座らなくちゃいけないわけだから。その違いは大きいよね。
前川水野さんみたいな若い方でも、そういうことを考えているんですね。
水野不器用に考えてますね(笑)。本当は、僕は曲だけをつくっていたいんですよ。そういう人間なんです。HIROBAなんて全く矛盾していることをしているから、なかなか理解されないんですが(笑)。飾りたてて、よく見せて、面白いものにするといったことよりも、曲自体の良さで勝負したいというか。それがなぜか今は説明ばかりしている。いろんなことが、いろんな巡り合わせでこんがらがってしまって、たまたまグループで世に出て。自分で曲をつくっているけど歌い手は違うとか。しかも、いろんなことを考える立場にいるというか、なってしまったというか…(笑)。自分でもよく分からないなかでずっといる感じなんですよね。
前川分かるってことは永遠にないですよね。
水野はい。
前川それは音楽でも、人生においてもね。どこが最後なんだろうって。だから…考えないのが、いちばんいいんでしょうね。
水野ハハハ。
前川考えすぎてもよくないし、考えなさすぎるのもよくないし…。自分でも刺激が欲しいというか…。
水野うーん。
前川やっぱり、このあたりで遊びたいなという気持ちはありますね。
糸井分かります。やっている最中が楽しいことをやりたいんですね。
前川ええ。
水野なるほど。
前川それは感じましたね。
水野結果ではなく、この今に没頭するということですね。
糸井「あれだけ面白かったんだから、俺はもう満足だよ」っていうね。
前川はい。
糸井それは、すごくよく分かるなぁ。
水野最近、講談師の神田松之丞さんのCDを聴いていたんですけど、ボーナストラックが付いていて、33歳のときの神田松之丞さんが講談について喋っているんですね。

注釈 「松之丞 講談 -シブラク名演集-」 「渋谷らくご」での高座から3席をCD化。ボーナストラックには、自分自身について自由に語る「松之丞 ひとり語り」を収録。2017年6月リリース。

前川はい。
水野70代の高名なお師匠さん格の方に言われたことで、「自分の芸は、今がいちばんいいと思っている。」と。ああ、そうなのかと。「いい芸というのはお客さんから見ると遊んでいるようにしか見えなくなる。それがいいんだよ」と。神田松之丞さんは、その言葉にすごく憧れて今頑張っている、というような主旨のことをおっしゃっていたんですが、その話と前川さんの“遊びたい”という話がつながって、「確かに、そういうことか!」と。ただ、どういう理屈でそれが“遊ぶ”という言葉になっているのか、僕にはまだ分からないですけど。

前川“遊ぶ”ということは“ゆとり”なんですよ。例えば、美空ひばりさんだったら、軽やかに歌うでしょ。僕だったら、そうはいかないですよ。遊んでるというのは、いろんな経験をしたからこそ、そういうふうに見えてくるというか。最初からゆとりや遊びを見せるのは無理ですよね。
糸井そこに行こうと思っても行けないですよね。
前川行けないですね。
水野ああ。
前川そういった時期に来たときに、そうなるんでしょうね。それはすごくよく分かりますよ。一生懸命にやっていても、適当に見えるようなときがきっと来るんでしょうね。
糸井一生懸命やっているのが見えちゃうのってね、「勝ち負けは、お客に関係ない」って気持ちになるんですよ。
水野なるほど。それは、関係ないですもんね。やっているほうのことなんて、こっちには。
前川糸井さんを見ていると「絶対遊んでるよな」って思うことがあるんですよ。でも遊んじゃいないんですよ。いろんなことを考えられて。いろんなことをやってきたから、自然にその雰囲気が生まれてくるんでしょうね。だから、その神田松之丞さんのお話はよく分かりますね。
水野そのボーナストラックのなかで「70代の自分に会うのが楽しみだ」みたいなことを、おっしゃっているんですよ。
糸井なるほどね。でもたぶん、そんなにガツガツ会いに行かないほうがいいんだろうな。
水野ハハハ。
前川気持ちは分かりますよね。

(おわり)

前川清(まえかわ・きよし)
1948年生まれ。歌手。
1969年に、内山田洋とクール・ファイブのボーカルとして
「長崎は今日も雨だった」でデビュー。
その後リリースした「そして、神戸」「東京砂漠」などが大ヒット。
1987年よりソロ活動を開始。
2018年2月にデビュー50周年を迎え、現在51周年に突入。
前川清オフィシャルサイト
前川清Twitter
糸井重里(いとい・しげさと)
1948年生まれ。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。
コピーライターとして一世を風靡し、作詞や文筆、ゲーム制作など
幅広いジャンルでも活躍。
1998年にウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げる。
糸井重里Twitter
ほぼ日刊イトイ新聞

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

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