2019.7.15
TALK

日本大学藝術学部 著作権講義 HIROBA編集版 Part 1
音源をパッケージで売ることは趣味文化以上のものにはならない

著作権や芸能関係を専門分野とする弁護士で、日本大学藝術学部客員教授を務める福井健策さんが教鞭をとる総合講座「著作権と文化・メディア契約」(共同担当:青木敬士教授)。6月3日の『音楽ビジネスの最前線とミュージシャンの未来形』に水野良樹がゲストとして登壇。2017年の登壇に続いて2回目となる今回、音楽を取り巻く環境の変化や今後について、自身の経験をもとにリアルな意見を語った。その模様をHIROBA編集版として2回にわたって公開します。

Part 1 音源をパッケージで売ることは趣味文化以上のものにはならない

福井今日は水野良樹さんに、音楽アーティストの在り方、音楽ビジネスがどのように変化していて、これからどう変わっていくべきなのかについて、じっくりと伺っていきたいと思います。
ということで「水野良樹に聞きたい10の質問」、早速伺っていきましょう。
水野よろしくお願いします。

──デビュー前やその後、音楽をあきらめようと思ったことはありますか?
水野うーん、たぶん、ないんですけど…「苦しいな」と思った瞬間は何度もありました。デビュー前にレコード会社の育成期間というものがあって「デビューシングルをどんなものにしようか」「タイアップを獲得するために何が必要だろうか」といったことを考えながら、制作するんです。新人でまったく知名度がない状態からスタートするので、タイアップを獲得するにはいくつものハードルがあって、何十曲もつくるということを約1年くらいしていました。そのなかで、初めて大人たちにいろんな意見を言われて「自分たちの音楽性は何だろう」と悩んだこともありました。何も結果が出ていないので、より不安も大きくて。当時、まわりの仲間たちが就職活動をしているなかで「自分はこの道で食べていけるのだろうか」という不安はありましたね。
福井苦しかったときは、どうやって自分を奮い立たせていたんですか?
水野苦しいから投げ出したくなる気持ちもあったんですが、「じゃあ、投げ出したからって何ができるんだろう」と思って。結局は、目の前のことを頑張ることしか当時はできなかったですよね。それで、最終的にはタイアップなしでデビューするというかたちになったんです。タイアップがついていないので「好きなように曲をつくっていいよ」と言われてつくったのが「SAKURA」という曲なんです。そうしたら、そのあとに、すごく運が良かったんですけど、NTT東日本の電報のCMタイアップが決まって、たまたまWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)という野球の大会の放送の合間に、そのCMが流れたことで話題になって名前が知られるきっかけになったんですよね。特にWBCの準決勝と決勝はものすごく視聴率が高くて、多くの人に注目してもらえて、もうそれは本当に運ですね。

注釈:「SAKURA」 2006年3月リリースのいきものがかりのデビューシングル。NTT「DENPO115」NTT東日本エリアCMソング。

福井なるほど。育成期間は不安でもあるし、今振り返っても苦しい時期であったと。そんななか、デビューシングルでタイアップが付き、注目を集めたわけですが、次の質問はこちらです。

──メジャーデビューって実際のところどんなことが起こりますか?(ビジネス・契約含めて)
水野僕は神奈川の海老名・厚木というところの出身なんですが、デビュー前はラジオで曲が流れるといっても地元のFMヨコハマとかだったんですが、デビュー後は全国のラジオ局で曲がかかるようになりました。今は多様なインターネットメディアがありますけど、2006年当時はラジオ・テレビが中心で、そのメディアとの強い関係性をレコード会社や事務所が持っていて、その枠組みのなかで、いろんなメディアでの宣伝ができるようになるという変化が生まれたんです。
福井ある朝起きたら、世界が変わっていたような?
水野いや、そこまでは変わっていないですけど(笑)。一夜にして、みたいなことはアーティストによってはあるかもしれないですけど、僕らの場合はなくて、徐々にという感じでしたね。
福井当然、マネージャーさんも付いていらしたんですよね。
水野はい。現場マネージャーと「寝食を共にする」というのは誇張でもなんでもなくて。みなさん、メジャーアーティストの全国ツアーというと、新幹線や飛行機に乗って、いいホテルに泊まって、スタッフにケアされて、ということをイメージされると思うんですけど、そうなるまでにはすごい時間がかかるんです。最初は、ワゴン車1台に機材を乗せて、メンバーとマネージャーの数人で福岡まで十数時間かけて移動してライブをしたり、北海道に行くのも茨城県の大洗からフェリーに乗って苫小牧まで行くという。そういう日々を過ごすので、本当に寝食を共にするんですよ。デビューして3年くらいはそういう感じでした。学生の頃に抱いていた将来への不安は良くも悪くも消えていて「この道で食べていかないといけない」という覚悟のなかにいるので、むしろ楽しかったですね。

──CD不況、ライブ活況と言われる中、音楽ビジネスはどんな方向に進むと思いますか?
水野音源をパッケージで売ることは、趣味文化以上のものにはならないというか、ビジネスとしては、もう無理だと思います。もちろん、音源におけるビジネスの可能性はずっとあって、サブスクリプションサービスのように定額で聴き放題というかたちが徐々に定着していくと思うんですよね。一方でこれまで、特に日本で顕著ですが、パッケージ商品はある一定の時期にしか消費されない商品になりがちだという構造がありました。いきものがかりを例にすると、1年間にシングルを5枚、アルバムを2枚出してという時期もあって、どんどん次の商品を出していかないと、みなさんに飽きられてしまうというか。物理的に店舗の棚の取り合いもありますし。そして商品を出したら、初週でどのくらいヒットしているか、ランキングはどうなのかといったことが重要で。スタンダード化してロングテールに入るごく稀な作品はのぞいて、ほとんどの作品は一瞬でムーブメントが過ぎてしまうので、活動を継続していくためには、とにかく球を打って、なるべく多くメディアの遡上に乗せて、商品が常に出ている状態をつくらないと少なくともビジネスとしては難しいというモデルになっていたんですね。
サブスクになるとどうなるかというと、ランキングを見ても分かるように、1年前にリリースされた曲や、場合によっては10年前、20年前にリリースされた曲が上位にあったりすると。そうなると、「今、売れなくてもいい」というか、むしろ「少しずつでも10年間売れ続けるほうがいい」と。つくる側からすると、今のムーブメントに合わせて曲をつくるのではなく、いいものを、ずっと長く愛されるものをつくるという方向性になって、ロングタームでどれだけ作品を受け入れてもらうかという考え方になっていくと思うんですね。

福井なるほど。音楽ビジネス全体がライブにシフトしているということにもつながる話だと思うんですが、「どの曲の収入が多かったか」というランキングをJASRACが毎年発表しているですよね。それは、つまり、どれだけ人に聴かれたり歌われたりしたかということになるんですが、かつてだとCDが売れた曲が上位だったんですね。ところが、このところはカラオケで歌われた曲、カバーされた曲、「歌ってみた・踊ってみた」で使われた曲といった、人々が自分で歌いたくなるような曲が上位にくる傾向が強いと思うんですよ。一気に売れた曲よりも、じわじわ浸透して、みんなに歌われるような息の長いものが上位になるということにつながる気がしました。

注釈:JASRACが、使用料分配額が多かった上位3作品をカテゴリー別に毎年発表している。

水野そうですね。そういう方向になっていくと思いますね。あと、ライブ活況と言われているんですけど、限界があるような気がしていて。ライブをやるのは人間じゃないですか。いきものがかりがライブツアーをやるとして、物理的に一日に10公演やることは不可能で。やれる本数、届けられる人数というものが限られているからこそ、希少価値が高まるんですが、人的資源を使わないと成り立たないというものはビジネスという面では限界があると思うんですよね。もちろん、ライブビューイングやVRなんかも増えてはいて、さらにそれらを拡張する技術も発達してきてはいるけれど、まだまだ難しい面もあって。音楽がビジネスとしてどうあるのがいいかを考えると、人的資源がなくても稼働できるようなもの、つまり音源といったものがすごく大事になるとは思うんですね。
福井なるほど。ライブ活況には限界があるから、それ以外のところで、パッケージとしては売れないとしても、つくった曲をいかに広めていくかということが大事になるということですね。
水野ライブに行ったことはあっても、10アーティスト以上のライブに行ったことがある人となると、かなりハードルは高いと思うんですよ。つまり、一般的なことではないということを認識しないといけないですよね。ライブ活況と夢のことのように言われてはいますが、かなりニッチな世界ですよね。
福井先ほどVRのお話も出ましたが、3Dホログラムでのライブなんかはどうですか?
水野どうでしょうね。やってみたいですけど…みなさん、楽しめるんでしょうか?

福井では、学生に聞いてみましょうか。「3Dホログラムで、その場に実際にはアーティストはいないけれども、ライブがあったら行ってみたい」という人、どのくらいいますか?
(150名以上のうち、手を挙げた学生は数名)
福井ああ、ほとんどいないか…。「やっぱり、その場にアーティスト本人がいることに魅力を感じる」という人は、どのくらいいますか?
(先ほどよりも挙手が増えて)
福井うーん、やっぱりこっちか。
水野その違いは何でしょうね?難しいですね。
福井こういったライブ活況の時代でも、水野さんは音源の普及にも可能性を見出していると。ただ、かつてのように宣伝をしてCDを売ることとは違いますよね。
水野はい。
福井そうするとメジャーデビューは何の意味があるのかということで、次の2つの質問にいきますね。

──今の時代にメジャーデビューすることに何の得がありますか?
──仮にいま全くの新人だとしたら、どんなかたちで自分たちの音楽を世に広めようとしますか?
→大きなお金をかけなくても、DTMで全部できるってほんとですか?
→YouTubeにアップすれば、音楽は広がりますか?

水野うーん、難しいですね。あくまで僕らがデビューした頃の状況で話をしますね。音源をつくる能力と照らし合わせて考えても、やっぱりメジャーレコード会社の力は必要でしたね。ひとつは、音源を制作するための資金は僕らにはなかった。商品として聴かれるようなCDというのは、1曲あたりにもけっこうな金額がかかっているんですね。これを何も成功していない個人がリスクを背負うのは難しいので、原盤権をレコード会社に持ってもらって、費用を負担してもらってつくる。これがすごく重要でした。もうひとつは、今のように個人が発信できるメディアが全然なかった時代なので、テレビやラジオといったメディアとのネットワークやプロモーションのシステムであったり、全国のCDショップとの流通網を持っているメジャーレコード会社や事務所の力を借りなければ、そもそも届けることができなかったんですね。でも、みなさんも予想していると思うんですけど、それらが必要ないんじゃないかという感じになってきましたよね。そもそもパッケージが売れないんだから商品にする必要がなくて、音源を聴いてもらえればいいんじゃないかと。そこにはショップとの関係性も不要で流通のコストもかからない。AppleやSpotifyといったプラットフォームとどう交渉するかというだけの話で。音源の方はDTM(デスクトップ・ミュージック)で、制作予算がだいぶ少なくてもかなりのクオリティでつくれますし、自分ひとりでつくれる人も大勢出てきている。そうすると予算もそれほど必要なくなって、権利を自分で持って自分で発信してという考えになる人が増えること自体は、すごく理解できるなと。
福井メジャーデビューするということは、そのメジャーレコード会社などに自分の著作隣接権をあげることになるんですよね。権利をあげる代わりに宣伝をしてもらって大規模に売るということだったんですが、従来のように宣伝して大量に流通させる必要がない時代に、あえて権利をあげてまでメジャーデビューする必要があるのかと。AppleやSpotifyと交渉するためにメジャーレコード会社は必要ないじゃないかという考え方もある。
水野考え方としてはあるんですが、実際に巨大プラットフォームと個人が交渉するのはかなり難しいと思いますね。現実的じゃない。あとは制作をする上で、セッションミュージシャンの方とつくっていく、いろんなプレーヤーの方と関係性を築いていくとなると、権利の問題だけではなく目には見えない信用の問題もあって。プロのミュージシャンに、誰だか素性の分からない人間が「俺の曲でギター弾いてくださいよ」って言っても絶対に弾いてもらえないわけですよ。プロのミュージシャンの方々はレコーディングしたもののギャラがもらえないなんてことになれば生活に関わりますし。そこに信用関係があるということはすごく大事なことなんですよね。
福井分かります。組み上がったものの信用というのがあって、不自由で窮屈な面もあるかもしれないけど、それだけのノウハウや技術、プロの方たちのエネルギーがそこには注ぎ込まれている。
水野そうですね。そこはとても大事ですよね。長い歴史のなかで培われた信用とノウハウというのは、なかなか目に見えないところですが重要です。
福井なるほど。「YouTubeにアップすれば、音楽は広がりますか?」という質問は、水野さんからヒントをいただいて挙げたもののひとつなんですが、どう思われますか?
水野インターネットで作品を上げたからといって、見ていただけるまではすごく遠いんですよね。「ネット上で作品を発表できるから、メディアの力を借りなくていいじゃないか」というほど甘くはないです。僕はTwitterをやっていて、フォロワーが約18万人いるんですけど、1回のツイートで平均して4〜5万人の方に見ていただいているんですね。例えば、僕が作品を出したことをツイートしたとしたら、すごく乱暴な言い方かもしれないですが、4〜5万人の方にチラシを渡しているようなもので。
福井はいはい。
水野けっこうな数ではあるんですが、そこから音源を買うといったアクションにつながるかというと全然つながらないんですよ。まだ何も知名度がない人が同じようにやってバズるかといったら、それはかなり難しいですよね。もちろん成功している人もいますが、そんなに簡単ではないです。
福井継続も大事ですよね。1回バズるのと、一定のレベルでずっと発信を続けるのは全然違いますもんね。
水野そうですね。

(つづきます)

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

同じカテゴリーの記事