2019.7.16
TALK

日本大学藝術学部 著作権講義 HIROBA編集版 Part 2
「いいものをつくる」、そして「そのいいものを守るために何が必要か」ということを、しっかり学んでほしい

著作権や芸能関係を専門分野とする弁護士で、日本大学藝術学部客員教授を務める福井健策さんが教鞭をとる総合講座「著作権と文化・メディア契約」(共同担当:青木敬士教授)。6月3日の『音楽ビジネスの最前線とミュージシャンの未来形』に水野良樹がゲストとして登壇。2017年の登壇に続いて2回目となる今回、音楽を取り巻く環境の変化や今後について、自身の経験をもとにリアルな意見を語った。その模様をHIROBA編集版として2回にわたって公開します。

Part 2 「いいものをつくる」、そして「そのいいものを守るために何が必要か」ということを、しっかり学んでほしい

──著作権で悩んだり苦労したことはありますか?(差しさわりのない範囲で)
水野ここにいる学生のみなさんは福井先生の授業を受けて、一般の方よりは知識が増えるじゃないですか。これから芸術活動に関わる仕事をしていくと思うんですけど、そのときに権利の構造を知っていても、どうしようもないパワーバランスで話し合いが行われるといった瞬間が何度も訪れるんですね。通常の取り分の相場は何パーセントと知っていて、それをもとに「このくらいにしましょう」という主張をしても、跳ね返されて、それを飲まざるを得ないという状況がいくつも生まれてくる。
福井そうですよね。
水野アドバイスするとしたら、パワーバランスが強い人に向き合うときに「自分にとって何を大事にするかを決めておく」ということです。「これ以外はいいが、ここだけは譲りたくない」といったポイントを決めておかないと、社会に出て10個すべてが思い通りになることはないので「10個のうち、この2つだけは!」ということを決めておかないと難しいのではないかと。そこから何か成功を手にしていくと、2つが3つになり、やがて「思い通りにしたいんだ!」という調整ができるようにもなってくるので、強さをもってやっていく必要があるのかなと思いますね。
福井現実と向き合って、妥協も必要だが、「自分にとって絶対に譲れない一線は何なんだ」ということを持っておくということは、契約交渉全般に通じることだと思いますね。

──他のアーティストへの楽曲提供やコラボの良い点、大変な点を教えてください
水野いきものがかりで名前と顔を出してやるときは、自分たちでコントロールする、つまり、先ほど話した「何をいちばん大事にするか」を決めてやるんですけど、楽曲提供させてもらうときは、そのアーティストがやりたいことのお手伝いをするということが基本的な姿勢ですよね。「ファンのみなさんとの関係性をすごく大事にしたい」というアイドルの方だったり、「今までバラードを歌ってきたけど、アップテンポなものが歌ってみたい、自分の新しい一面を伝えたいんだ」という方だったり。大事にしていることがアーティストによって全然違うので、「ああ、そういう考え方もあるんだ」といった気づきがすごく多くあるんです。新鮮な気持ちで、自分ではなかなか動かさなかった筋肉を使って曲をつくるというような感覚で、本当に勉強になっています。

──「歌ってみた・踊ってみた」でユーザーが動画をアップすることをどう思いますか?
水野ひとりでリコーダーでいきものがかりの曲を演奏している方がいて、すごいなと思ったことはありますね。僕はポジティブに捉えていますけどね。こういうのは難しい言い方をすると二次創作になるんですよね。
福井ある種の、そうですね。
水野いきものがかりだって、そもそもはゆずの二次創作みたいなものだと思うんですよ。僕たちが高校生のときに、路上ライブのムーブメントが日本全国に一気に広がって。山下とふたりで真似をして、ゆずの曲を歌っていました。そういうところからスタートしているので、二次創作のムーブメントを否定する気もないですし、「どうぞ、どうぞ」といった気持ちですね。
福井曲を大きくいじってしまっても大丈夫?
水野僕は大丈夫ですね。もちろん、アーティストによって考え方は違うと思うんですけど。スタートラインはどうであれ「やってみた、真似してみた」という文化から、いつの時代にも新しい人たちが生まれてきたと思うんですよね。

──チケットの買い占めや高額転売問題をどう思いますか?
水野まずは、転売によって引き上げられたお金が、反社会的勢力に入っているのではないかという問題がありますよね。それから、転売を防ぐコストを、僕らアーティストサイドであったり、高い値段で買わなくてはならない消費者であったり、転売をしている人ではない他の人が背負わなければいけないという不合理性がありませんか?
福井そうですよね。
水野転売対策として本人IDの確認といったことをすることは、ファンの方にとっては手間がかかることで不利益だと思うんです。運営側はその不満を一手に受け止めなくてはならないわけですよね。反社会的勢力に対しても一社や個人で本気で向き合うということは不可能に近くて、もっと大きな組織で政治の力も借りながら対応していかないといけないと思うんです。やっぱり適正価格で多くの方に見ていただくことを守るのはすごく大事ですよね。

福井転売問題の前に、買い占め問題がありますよね。買い占められているためにチケットが買えない。よって、どうしても行きたい場合は転売されているチケットを高額で買わなければならないと。それは「どちらかといえば、やむを得ない」と思う人はどのくらいいますか?
(数名の学生が挙手)
福井ああ、やはり数名程度ですよね。さすがに水野さんの前では手を挙げにくいということもあるかと思いますが。
水野そうですね(笑)。
福井「高額転売は迷惑であり、やめてもらいたい」という人はどうですか?
(多数の学生が挙手)
福井まあ、そうですよね。
水野お客さんがやむを得ない事情でライブに行けなくなってしまった際の救済措置は必要だと思いますし、公式のリセールシステムをつくったほうがいいのではないかという主張もまったくその通りなんですが、そのコストを音楽業界で負担するということも大変なことですよね。
福井公式のリセールの仕組みも、そう簡単ではないですからね。でも、やらなければならないことだとは思いますけども。
水野そうですね。
福井では、最後の質問になります。

──音楽分野で活動したい学生達に、今、この年齢でやっておくべきことをアドバイスするとしたら、何ですか?
水野ちゃんと作品をつくることですね。2年前にもこの講義で話をさせてもらいましたけど、2年前と今で状況も変わりましたよね。みなさんが卒業して第一線で活躍するようになるときには、さらに状況は変わっているはずで。そのときに大事なことは「いいものをつくること」です。今後は、コンテンツと呼ばれる中身のほうが重要視される世の中になって、個人で信用と流通をできる時代になっていくと思うんですね。信用というのは、金銭のやり取りを個人間でできるということです。流通の面ではメディアやプラットフォームなど中間媒体があまり必要ない時代がやってきて、レコード会社や事務所に入ることがなくなって、どのプラットフォームで出すか、どのメディアで出すかが重要ではなくなる時代が、遠くない将来に来るだろうと。そのときに「内容がどうであるか」ということがすごく重要で。なので「いいものをつくる」、そして「そのいいものを守るために何が必要か」ということを、こういった福井先生の講義などでしっかり学び、自分の磨くべき技術にしっかりと向き合うということ。それが重要だと思います。
福井「作品づくりこそ、今やっておくべきことである」という言葉を最後にいただきました。
ありがとうございます。では、最後に質疑応答に移りましょうか。

──これから活動する上でチャレンジしたいことはありますか?(女性)
水野目の前にあることがチャレンジですからね。とにかく曲をつくりたいという思いが強くあって、ひとつでも多く作品を残したいですね。ひとつでも多く残すためには、いろいろな努力をしなくてはならなくて。常にそこに向き合っていますね。

──流通の形式であったり、音楽の質であったり、何でもいいんですが、今面白いなと思うアーティストはいますか?(男性)
水野中村佳穂さんですね。お話して面白かったのは、作品は固定化されてずっと聴かれてほしいと思うのが普通なのかなと僕は思ってしまっていたんですが、彼女にはそういう概念がないというか。ライブでもリアルタイムでどんどん変わっていって「見てほしい作品は自分だ」といった趣旨のことをおっしゃるんですね。動的なものとして音楽を捉えているところが、今の時代に合っていると思いますね。

──音源だけはなく、ミュージックビデオがあることで何か違いは生まれますか?(女性)
水野音楽を音楽だけで聴く機会のほうが実は少なくて、映像と一緒に見ているということが多いので、ミュージックビデオというのはすごく大事なツールになっています。映像とセットでひとつの作品として、みなさんが捉えている傾向が強いですよね。ただ、ミュージックビデオの制作は、音源以上に費用がかかりますし、なかなか難しいことだとは思いますね。

──いきものがかりのよっちゃんを離れて、水野良樹としてHIROBAで活動する際に、いきものがかりらしさについてはどう意識されていますか?(女性)
水野いきものがかりらしさを引きずるということは考えていなくて…すごく難しいんですけど。いきものがかりという「箱」に参加していて、そこを離れると僕なんですね。HIROBAという「箱」があって、そこにいきものがかりを離れた僕が入ると。ただ、いきものがかりを離れた水野良樹として表現をしているわけではないんです。この説明が本当に難しいんですけど。HIROBAという「箱」にいる僕は「箱」のなかにいる人であって、それぞれの「箱」に応じて、自分が今やりたいと思っていることをやっていると。いきものがかりとHIROBAは、もちろん同じ人間がやっていることなので、どこかで連動はしていると思うんですけど、そこに強い連続性があるわけではないんですよね。でも、世の中の人はそうは思わない。「いきものがかりの水野良樹がソロで何かやっているんだな」と見られるので、そこを崩していかないといけないなと思っています。つくる側としては別個のものとしてやっています。

──今まで多くの作品をつくってこられて、いちばん思い入れの強い作品は何ですか?(女性)
水野ああ、難しいですねぇ…「帰りたくなったよ」を挙げることは多いんですが。「さよならだよ、ミスター」という横山だいすけさんに提供した曲があるんですが、これは自分の息子に書いたような曲なので、そういう意味ではすごく思い入れがありますね。自分の思いが入った曲というのは、どうしても愛着が湧いてしまうものですね。

注釈:「帰りたくなったよ」 2008年4月リリースのいきものがかりの9thシングル。
注釈:「さよならだよ、ミスター」 映画「くまのがっこう&ふうせんいぬティニー」主題歌となった、横山だいすけの1stシングル。水野良樹作詞作曲。2017年8月リリース。

福井今日は、いきものがかりのリーダーでメインソングライターの水野良樹さんに、2度目の登壇をいただきました。みなさんのさまざまな活動にとって、きっと大きな糧になる時間だったと思います。水野さん、ありがとうございました。
水野ありがとうございました。

(おわり)

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

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