2019.8.15
TALK

HIROBA Part 2
「凪」という表現が、高橋さんの個性。僕では絶対に出てこない。

HIROBAの音楽作品第2弾となる「僕は君を問わない/凪」。
同世代のアーティストである高橋優さんとのコラボレーションが実現しました。
高橋さんと制作することになった経緯や過程について
水野良樹が語るインタビューを2回に分けてお届けします。

Part 2 「凪」という表現が、高橋さんの個性。僕では絶対に出てこない。

──「僕は君を問わない」は亀田誠治さん、「凪」は森俊之さんのプロデュースです。お二人にお願いした意図を教えてください。
水野「僕は君を問わない」はポップスとして成立するものにしたいと思っていて、高橋さんも亀田さんとのつながりがあるので、そこは安心してやっていただけるだろうと思って、亀田さんにお願いしました。

この曲は、不安定な緊張感や乱雑さが自分のイメージとしてあるので、自分がつくった最初の粗いデモも、そういった不協和音的な感じというか、テンションコードが入っているような感じでした。北野武さんの映画「その男、凶暴につき」のワンシーンで、刑事が遠くからこちらに向かってただ歩いてくる場面があるんですね。そこで久米大作さんがアレンジしたエリック・サティの曲が流れるんですが、あれがかっこよくて。「あんな感じ!」って言って、打ち合わせで映像を見てもらったりして。今聴くと、乱暴な説明だし、だいぶ違うんですけれど(笑)。

ただ、高橋さんと僕でやるので「基本的にはポップスの範囲内にしたい」「ちゃんとシングルとして成立させたい」という意図を亀田さんに伝えました。それで出来上がったのがあのサウンドで、もう…「はい!」みたいな感じですよね。爆発しそうなサウンドですが、しっかりポップスの感じになっていて、最後のセリフっぽいところも、あれは完全なエンタメですよね(笑)。

「凪」をお願いした森さんも、熱い人で。一度、いきものがかりで「LIFE」という曲をプロデュースしていただいたんですね。「LIFE」は鍵盤を基調としたサウンド構成なんですが、そのときのピアノも本当に繊細な和音の積み方で。しかも、ただ繊細なだけじゃなくて、フレーズごとにメロディが必要としている温度感を、丁寧に足していくような素晴らしいサウンドをつくっていただいて。だから「LIFE」が僕は大好きなんですよ。

そのときのイメージがあって、この「凪」という楽曲の、感情を抑制したような難しい表現をどう成立させるのかと考えたときに、森さんのことが浮かびました。この温度感を説明したらすごく理解してくれて。もちろん、それをさらにブラッシュアップしてくださるだろうなって思って、実際に期待以上になりました。サウンドは「僕は君を問わない」のほうが激しいですが、「凪」のほうも挑戦的な作品になっているかもしれませんね。

──そうですね。「凪」はずっとあのサウンドで、6分を超えていますしね。
水野ドラムが延々とキックを打つんですね。ほとんど他が出てこないというか、スネアとキックだけでいけるところまで、みたいな。(玉田)豊夢さんじゃないとできないですね、あれは。この感じを最初からイメージしていて、デモの段階から伝えていました。とにかく、ミニマムで、でも、打ち込みではなくて、鼓動のようなもの、生々しいんだけど一定で、というイメージがあって。森さんと打ち合わせしたときも、とにかく盛り上がりゾーンをつくらない。ずーっと続いているんだけど、感情が放出しそうで、しない。コップに水がたまっている、表面張力のようなイメージですね。張っていて、もうこぼれるぞっていうのが分かることで、盛り上がりが感じられるみたいなことを、全体の数分間のなかで表現できればいいなと。

──「凪」では水野さんがギターを弾いています。音色も含めて、非常に繊細です。
水野 いや、ひどいもんですよ、あれは(笑)。「歌っている人が歌っている呼吸で弾かないといけない。上手い、下手ではなく、その呼吸に合わせて弾いているということが大事だから、これは水野くんがやるしかないよ」と森さんに言われて…。確かにそうしないと成立しないなと。言わんとされていることは理解していて、頑張りますって言って弾いたんです。だから、とてもポップスとして成立しているギターではないし、すごく下手くそなんですけど、ただ、確かに温度感というものは共有しているから、あれが成立するというか、許してもらえるというか。

それとやっぱり、支えてくれているサウンドが凄すぎるんでね。もともと極限まで音数を少なくしているので、演奏者の技術が問われる楽曲なんです。一音一音の長さであったり、ダイナミクスであったり。だからリズム隊(ドラム/玉田豊夢さん、ベース/松原秀樹さん)と森さんの鍵盤、あの御三方がどれだけすごいことをしてくださっているかということですよね。途中でわずかにシンセが入ってくるんですけど、その入り方も絶妙です。生々しさを大切にするというところが実現できて、すごく満足しています。

──高橋さんと一緒に制作してみて、水野さんの想像を超えることがたくさんあったと思います。
水野はい。歌詞の「問わない」っていうのは素晴らしかったですね。上手い!その構造のつくり方が上手くて、君をみんなが責めているなかで、自分は君を責めない、問わない、何か自分が知っている事実じゃない人生を相手が持っていたとしても、それも受け止めるみたいな、かなり強い意志を感じさせます。それを書くときに「何でもいいよ」とか、わりと一歩目のことを言いがちなんですけれど、そういう歌詞にはなっていなくて。歌詞の上手さや構造の上手さがちゃんとありながら、それが技巧的なことだけに終始していないということもすごくて。あと「凪」という表現はすべてを言い表しているような気がします。ビンビンきましたね、イメージが湧いたというか。「凪か!」と。

言葉のチョイスが素晴らしいですよね、にじみ出させるのが上手いというか。僕なんかは特にそうだけど、安易にそのものを言っちゃうので。いつも反省するんです。

「面倒臭ぇ!」ってずっと言いつづける、高橋さんの「ボーリング」という曲があるんです。ずっと言いつづけて、歌詞の表面上の意味だけじゃなくて、さらに奥の部分の感情がにじみ出てくるんですよ。だから、感動するというか、引き込まれる。

「凪」という表現も、まさしくみんながまだ言葉にできていない、みんなが感情として持っているのだけれど、うまく言い表せていないような部分で。人間なんてみんなそうだと思うんですけど、取り繕う部分があったり、バランスをとる部分があったり。バランスをとることによって、鬱積しているものがあることは、説明すればみんな分かるけど、それを「凪」という表現にしたのが、高橋さんの個性。僕では出てこないですね。絶対に出てこない。僕が書ける歌詞ではないと思いました。

──HIROBAを始めた理由の一つに、自分の思いを自分の言葉で表現したいということがありました。今回の高橋さんのように、自分とは違う詞の書き方ができる人に、同じ思いを共有してもらい、表現するということは面白いことだと思います。そう考えると、2曲できたこともそうですし、誰かと一緒にやることの意味は、大いにあったということですね。
水野そうですね。自分の思いや、深いところを作品にダイレクトに反映させて表現するって、今までやってきたこととは矛盾するものですよね。その矛盾をどう成立させるかというのがすごく大事で、だから、他者と一緒にやろうとしたり、自分のなかでのジレンマと向き合っているのかもしれないですね。

自分の言葉、自分の思いを表現する、とか言いながら…2曲とも高橋さんの言葉ですからね。でも高橋さんのその言葉たちは、最初の僕との会話が無いと生まれてきてはいないものでもあって。高橋さんが僕と会話したことによって、それを咀嚼し、作品化してくれたわけですね。互いの出会いが、新たな物語を生んでいるとも言える。誰かとつながって、誰かとやることの意味が出ているのかもしれないですね。

今、面白いなって思い始めているのは、矛盾するものをどう成立させるか。新しい答えを見つけていくというか。たぶん、そこが新しくて、大事なんだと思います。他者同士が、ひとつのものをつくるって、もう矛盾していますからね。高橋さんも何かの矛盾を超えてくれているんですよね。ご自身だけで考えたことではないから。「水野くんと会話して、こんなことが浮かんできました」というのは、僕と出会った物語を、彼が次の表現につないでくれたということだと思うんで。そうやっていくと音楽にする意味があるというか、要は、ものをつくる意味がある。そこがないと面白くならないのかもなと、僕は今の段階では感じているんだと思います。

(おわり)

Text/Go Tatsuwa

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