2019.9.9
TALK

街角のドラマ、海をわたる。 ~NHK「ドキュメント72時間」海外版 上映&トークショー~ Part 1
絶対に破らない3つのルール

ひとつの場所に3日間密着して、
そこで偶然出会う人々の姿を記録する「ドキュメント72時間」。
毎週金曜日の夜にNHK総合で放送されている人気ドキュメンタリーです。

同番組のフォーマットが中国に販売され、
2018年から中国で配信がスタートしていることは
あまり知られていないかもしれません。

「街角のドラマ、海をわたる。 ~NHK『ドキュメント72時間』海外版 上映&トークショー~」が
8月21日に都内で開催され、水野良樹がゲストとして登壇。
番組の魅力や制作の舞台裏、番組のコンセプトやノウハウを販売するフォーマットビジネスについて、
チーフ・プロデューサーの植松秀樹さんと中身の濃いトークを展開しました。
進行は、チーフ・プロデューサーの森あかりさん、ディレクターの髙田理恵子さん。

このトークショーの模様を全3回にわたってお届けします。

Part 1 絶対に破らない3つのルール

水野よろしくお願いします。
植松よろしくお願いします。番組チーフ・プロデューサーの植松と申します。本日は、イベントにお越しいただきまして、ありがとうございます。派手さがない、どちらかというと地味な番組ですけど、こんな素敵なスペースでイベントをやらせていただくなんて、ほんとにプロデューサー冥利に尽きるなと思って、感動しております。

2017年に、中国版の「72時間」のフォーマット販売を始めました。「72時間」のつくり方、番組が大切にしている価値観も含めて、中国のコンテンツ配信サービスの企業に販売させていただきましたが、ノウハウを伝えるに当たって、今まで自分たちが無意識のうちにやってきたことを言語化する作業が必要になりました。そのなかで、私たちがこれまで気づかなかった、新たな発見といったものを、みなさんに包み隠さず、ご紹介できればいいなと思っています。

それと同時に、今これだけ多くのコンテンツがあふれているなかで、我々はこれから、どういったものをつくっていくべきか、どのように広めていったらいいかといったことを、水野さんと一緒に考えていきたいと思っています。よろしくお願いします。
今回は、番組を見ていない方も含めて参加いただけるイベントの場をつくりたいと思って、水野さんにオファーさせていただきました。水野さんは番組のどんなところに興味をお持ちですか?
水野Twitterでも書きましたけど、「72時間」入門者なので、そんなに詳しくはありません。ただ、つくられていない物語が、街なかにはこんなにあふれているんだなということを、当たり前のことですけども、あらためて実感させてくれる番組ですよね。舞台上に立っている人間とか、エンタメで楽しんでいただく仕事をしている人間は、飾り立てたストーリーであるとか、ドラマティックなストーリーのほうが、みなさんに楽しんでいただけるはずだという、先入観みたいなものがあります。一方で、人それぞれ、みなさんも僕自身も、大切な家族がいたり、もしくは、今までの人生でいろんな出来事があって、その人にしかわからない物語が必ずあります。そういった物語に、一瞬、パッとスポットが当たると、なんだか、ものすごく惹かれますよね。
期待に応えられるように頑張りたいですね。
植松水野さんに全部言っていただいて。
水野いやいや。

水野さんは今年、HIROBAというプロジェクトを立ち上げられて、音楽活動以外にもいろいろと発信されています。
水野はい。いきものがかりというグループをやっていますが、それ以外にも、何か自分で人に出会う場所であったり、インプット・アウトプットするような場所をつくってみたいなという気持ちで始めました。今回のイベント出演のお話をいただき、事前の打ち合わせで「72時間」について詳しく伺うと、HIROBAとリンクする部分もありました。
 
例えば、いきものがかりを離れて、僕一人で表現をするときは、周りからは、単純なソロ活動だと見られがちです。そうすると、「僕一人だけの物語」を楽しんでいただけるかどうかという話になってしまって、すごくつまらないなと。ただ、場所を用意すると、これまで小田和正さんや高橋優さんと曲をつくったように、いろいろなクリエーターや、全然違う分野のアーティストに来てもらえるようになります。他者と出会い、違う物語と出会うと、自分では出会えない何かに、ぶち当たれるような…もしかしたら、そこが楽しくてやっているのかもしれないなと思い始めたところです。他者との出会いがリンクするポイントの一つかもしれませんね。

ありがとうございます。いろいろな共通点などもお聞きしたいと思います。私たちも番組をつくるなかで、気づくことがたくさんあります。このイベントをとおして、みなさんに共感していただいたり、生活や人生につながる部分があればと思っています。
水野よろしくお願いします。
最初に番組について、2分程度のVTRで簡単にご紹介させていただきます。

(VTR上映)

番組は2013年にスタートし、毎週金曜日の夜に放送しています。植松さんは、どのあたりがお好きですか?
植松僕は2年前に番組プロデューサーになりましたが、当然、どの回にも思い入れがあります。ひとつ印象的な回を挙げるとすれば…日本ダービーという、年に一度の競馬のイベントがありますけど、そのレース本番の1週間くらい前から、競馬ファンが場所取りのために並ぶんですね。その行列を3日間、取材した回というのが、僕としては印象深いですね。「競馬に対する先入観がずっとあったんですけど、この番組でそれが180度変わりました」と視聴者の主婦の方から言っていただいて。誰でもいいからここで、一緒に並んでつながりたい人。奥さんを亡くされたけれども、奥さんと一緒に並んだ思い出のシーンがよみがえってくると語る人。年に一回しか会わないけど、そこでの友情がある人。いろんな人がいて、ギャンブルという側面とはまた違う、その時間、その瞬間を共有している感じが、行列から見えて非常におもしろかったですね。
水野さんは、番組をご覧になって、ご自身のお仕事にもつながる部分を感じられますか? 
水野はい。僕は歌をつくるときに、あまり書きすぎないということを大事にしています。状況を細かく書きすぎると、ある一定の人にしか届かなくなってしまうのではないかという恐怖感がいつもあって。番組のコンセプトにもつながりますが、みなさんがそれぞれに持っていらっしゃるご自身の人生のほうが、3〜4分のポップソングよりも、はるかに膨大な情報量を持っている。そこにつながるようにということを考えています。番組と同じで、膨大な情報量から、どこまで選ぶかということが難しさでもありますね。
植松さんは、大事にしていることはあります?

植松今、水野さんがおっしゃったことに近いですが、こっち(=制作サイド)が、「この人はこういう人だ」ということを言いすぎるつくりになっていないかということは、注意深く見ています。この番組で一番大切にしているのは「我々は何も知らない」ということです。その現場に行って初めて、偶然出会った人たちと話をするなかで、徐々にその人をわかっていく。そういう経過を大事にしていて、こちら側で語りを増やさない、入れすぎない、決めつけないということは、大事にしています。
水野ナレーションの量も絶妙ですよね。ナレーションを出し始めるタイミングであるとか、映像の使い方も、いろいろ工夫されていると伺いました。
そうですね。番組で大事にしているルールがあるんですよね。
植松こんな気持ちで、「72時間」をつくり始めましたというか。
ちょっと歴史的な話をすると、「クローズアップ現代」の制作メンバーが、「72時間」を立ち上げたという背景があるんですね。「クローズアップ現代」はもちろん、NHKの看板番組ですが、それとは違うスタイルで現代社会を描けないかということを模索した先輩方が、編み出した手法なんだと思います。そのときに大事にしていこうということが大きく2つあります。

「普通のひとの人生にあるドラマ
こぼれ落ちてしまうリアルをすくいとりたい」
「世の中にはまだ知らないことが沢山ある」

これは何かというと、ドキュメンタリーというのは、いわゆる、目の前にある現実を取材者が切り取って、その断片を再構築して、リアルな現代を描くという映像表現です。ともすれば、新聞の一面に載るような、大きな事件とか、社会的な課題とか、あと、人物であれば、イチローや大谷翔平みたいな、誰もが認める卓越した人物に焦点を当てがちです。そうすると、つくる側は、それで満足したりもするんですけど、見ている側とすると、どこか自分とは遠い話だったり、共感できなかったり、ちょっと置き去りにされてしまうこともあると思うんですね。

そうしたときに、現代社会を構成しているのは、ほとんどが普通の人たちじゃないですか。その普通の人たちに話を聞いてみると、一人ひとりが、それぞれ事情を抱えていて、例えば、会社が倒産したとか、恋人と別れそうだとか。そういう普通の人たちの事情を、一瞬の短い時間でも切り取って物語を紡いでいったほうが、大きなテーマから現代社会を見るよりも、リアルに描けるのではないかという思いが、出発点としてある。そこが一番大事なところです。
リアルを撮る上で、番組で大事にしている、「絶対に破らない3つのルール」があります。

①「72時間で撮影を終えること」
「いいものが撮れるまで撮影して番組にしたい」という気持ちがどうしても出てきてしまいがちですが、72時間で撮影を終えます。

②「時系列を崩さずに編集すること」
おもしろいと思うような順番に並べたり、最後に感動的なシーンを持ってきたくなりますが、感動的なラストでなくても、そのまま、時系列で見せます。

③「偶然の出会いで勝負すること」
事前に伝えて取材に行くと、常連さんに会ってしまったりするので伝えません。「このときに、この人に来てほしい」って思ってしまうような人も、なかにはいますが、事前に伝えることは絶対にしません。

水野いやぁ、すごいですよね…。
我慢する。それで、なんとかして自分たちが知らないリアリティにたどり着く。こういうルールをつくって、日々撮影しています。
水野番組などの制作をされていない一般の方からすると、これは何か特別なことなのかと思ってしまいますが、つくる側からすると、めちゃくちゃ勇気が必要なことですよね?やっぱり「楽しくしたい」「おもしろくしたい」ということだと、いいものが撮れるまで我慢する、どこまで耐えられるかが勝負みたいな部分もあったりするでしょう。時系列を崩さずというのも、みなさんがご覧になっているほとんどのテレビ番組は時系列ではないでしょうし、音楽でさえ、5分の曲を聴いていただいても、ダビングといってたくさんの音が別々の時間軸で録音され、同じタイミングで全部の楽器が演奏されている曲というのは、今はほとんどないですからね。編集されているわけです。一定のタイム感で何かを制作するのは、ライブで見せることと同じですから。偶然の出会いで勝負することも…出会えない可能性だってあるじゃないですか…本当にすごいことですよ。
最初はものすごく怖かったという逸話もありますよね。
植松今までのテレビ番組のつくり方であれば、基本的に一つのテーマに関して、ディレクターが事前に取材を重ねて、どうすれば伝わるかということを構成し、ロケに挑む。この人に話を聞くと決めておく。撮影の前にする準備がすごく大事ですが、それと逆のことをやっているということは、「72時間」の特徴です。
そうですね。最初にロケに行ったディレクターの先輩は、撮影前に1,000人に話を聞いて、この場所でいけるという手応えを得たというエピソードもあります。
水野それぐらい下調べしないと、怖くてできないということですよね?
今日もいい人に会った、今日もいい人に会った。じゃあ、いけるかもしれないということで始まったと聞いています。
水野それは、すごいですね。

(つづきます)

「ドキュメント72時間」
毎週金曜日 夜10:50からNHK総合で放送中
番組の放送予定、最新情報はこちら
番組HP
番組Twitter

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

同じカテゴリーの記事