2019.9.10
TALK

街角のドラマ、海をわたる。 ~NHK「ドキュメント72時間」海外版 上映&トークショー~ Part 2
その場所から見ることによってどういうテーマが浮かび上がってくるか

ひとつの場所に3日間密着して、
そこで偶然出会う人々の姿を記録する「ドキュメント72時間」。
毎週金曜日の夜にNHK総合で放送されている人気ドキュメンタリーです。

同番組のフォーマットが中国に販売され、
2018年から中国で配信がスタートしていることは
あまり知られていないかもしれません。

「街角のドラマ、海をわたる。 ~NHK『ドキュメント72時間』海外版 上映&トークショー~」が
8月21日に都内で開催され、水野良樹がゲストとして登壇。
番組の魅力や制作の舞台裏、番組のコンセプトやノウハウを販売するフォーマットビジネスについて、
チーフ・プロデューサーの植松秀樹さんと中身の濃いトークを展開しました。
進行は、チーフ・プロデューサーの森あかりさん、ディレクターの髙田理恵子さん。

このトークショーの模様を全3回にわたってお届けします。

Part 2 その場所から見ることによってどういうテーマが浮かび上がってくるか

そろそろ、今日の本題である中国版の話に移りましょう。
実は、「72時間」は以前から中国でも人気があることは我々も聞いていました。いいことではありませんが、YouTubeで違法にアップロードされたものに中国の字幕がついて視聴されていたり、堂々と「ドキュメント72時間」という名前を使ったパクリ番組もたくさんあるというなかで、中国のTencent(テンセント)という大手IT企業から「本物をつくりたい」とお声掛けいただいて、番組のフォーマット権を販売することになりました。テンセントの動画配信サービスで、中国版の「72時間」をつくって、2018年9月から配信されています。シーズン1の視聴数が2憶4,000万という…。
水野郷ひろみさんもびっくりですね。

(会場、じわじわと笑いが広がる)

では、その予告編をご覧ください。

(VTR上映)

見たときに、我々がいつもやっている感覚と何か似ているなと(笑)。
水野そうですね、いろいろと…。でも、フォーマットを勝手に、いわゆるパクるというか、似せてつくったものは、どれも何か違う。何か本物っぽくない。でも、スタッフの方々も、その違いは何なのかと考えたときに、先ほどの大事にされていることであるとか、取材での声のかけ方であるとか、そういった細部が「72時間」のリアルさを出しているということを改めて思ったと伺いました。
そうですね。フォーマット化に当たって、自分たちが自然にやっている当たり前のことを、すべて言語化して、伝えなければいけないという状況になり、番組のバイブルをつくることになりました。

番組コンセプト、場所選びのポイント、失敗しがちな場所やパターン、ロケのスケジュールの組み方、音楽を流すタイミングなど、どういったことに気をつけるかをすべて細かに。マニュアルというよりも、自分たちが大切にしている精神という部分が大きいかもしれませんね。

水野実際に拝見しましたが、制作の技術的なことやノウハウ的なことも含めて、ほんとに細かく書かれていて。そのすべてが、先ほど提示された、3つのルールであったり、制作コンセプトとして大事にしなきゃいけないところに立ち返るものなんですよね。
水野さん、どのあたりが気になりましたか?場所選びとか、インタビューの聞き方とか。
水野どの場所でやるんだろうということが、わかりやすい興味じゃないですか。みんな場所にフォーカスしますけど、打ち合わせで「場所を捉えるのではなく、時間経過を捉える」と伺ったのが印象的で。もしかしたら、「72時間」という番組でさえ、僕らは先入観を持って見ていたのかもしれないなと気づかされて、時間を追うというのは、どういうことなのか聞きたいなと思っていました。
植松定点観測で、一つの場所でじっくり見るということが、基本のスタイルとしてはあるんですけど、「72時間」というタイトルなので、定点観測が絶対ではないんですね。ときには移動しながら見るわけですけど、結局は「その場所から見ることによって、どういうテーマが浮かび上がってくるか」ということを一番大事にしています。だから、1日目よりも2日目、2日目よりも3日目と、テーマがどんどん深まって、3日目を見終わったときに、何か共感を得てもらいたいと思っています。

「72時間」は、たまたま出会った人が抱えているさまざまな事情に寄り添って、しばしの間、他人の人生に寄り添う番組です。だから、きっとこういう人が来るんじゃないか、こんなドラマが見えるんじゃないかというシミュレーションを重ねて、いろんな事情や背景を抱えている人と出会えそうな場所は、どこかということを考えます。
水野題材に対する視点の置き方によって違うんだなということを、すごく感じます。視点を変えるというのは、すごく大事なことだと思わされました。
そうですね。72時間という時間のなかで、我々がどこを切り取るかという意識も重要になってきますよね。
植松インタビューベースの番組ですけど、インタビューばかりだと、ちょっと画面的にもおもしろくないので、話の広がり、人の魅力を増すために、携帯電話でいろいろ当時の写真を見せてもらったりとか、ご家族の写真を見せてもらったりということをやってみたりします。そうすると、その写真を見せることによって、取材を受ける方も、思い出がどんどんよみがえって、臨場感の波のようになるんですね。あとは、歌とか、ダンスを披露してくださる方が時々いて、話だけじゃなくて、そういう一生懸命やってくださる姿をとおして、その人の魅力がアップするというのもよくあります。
水野そうですよね。「そういうことか!」と思ったのは、例えば、おじいちゃんが「孫がかわいいんだよ」って言う。見ている側は「かわいいんだろうな」ってイメージするじゃないですか。でも、実際に「これ、見てよ」って、スマホの待ち受け画面に、お孫さんの顔があって…それがものすごい変顔だったりする。お孫さんの写真ひとつとっても、おすましした七五三の写真を選ぶか、そうではなくて、めちゃくちゃ笑っている顔にするか。どの写真を選んでいるかによっても、おじいちゃんが何を大事にしているかというのが、言語化しなくても、情報として伝わるじゃないですか。

全部のことを言語化することは不可能だと思うんですよ。それをどう拾うか、どの情報を拾うかということを、制作スタッフの方は、いろんな経験によって、感じていらっしゃるんだなと思いました。
まさに経験で感じてきたことを、一つひとつの行動に落とし込んだり、作業に落とし込んだりすると、どういうことなのかを考えることが、中国の人に伝えるときに必要になったんですね。大切にしていることや価値観を言葉にすると、何かいやらしく見えてしまう瞬間もあるんですけど、「自分たちがやってきたことって、こういうことなんだな」と見えるようになったのは、新鮮なことでした。
植松インタビューでは、ほかの番組だったら決して採用されないであろう言葉も、その人らしさを表現していると判断すれば、あえて積極的に使う。そういうところが出せれば、よりリアルに近づけるだろうと思っています。あとはちょっとした「間(ま)」も大事ですね。インタビューは誰だってできるけれども、「72時間」で大切にしていることを、中国のスタッフの方に伝えることが、ほんとに難しくて。ケースバイケースではあるけれども、「最低限、ここは守ろうね」という部分を、一つひとつ伝えていきました。
水野細かいことの積み重ねが、すごく大事ですよね。このフォーマットを使って、72時間、定点観測をすれば、おもしろいものが撮れるだろうと思うのは、大きな間違いで。ほんとに細かい部分にまで意識を向けているということを、強く思いました。

(つづきます)

「ドキュメント72時間」
毎週金曜日 夜10:50からNHK総合で放送中
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Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

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