2019.9.11
TALK

街角のドラマ、海をわたる。 ~NHK「ドキュメント72時間」海外版 上映&トークショー~ Part 3
何を歌っているかではなく、その歌が、どのように物語とつながれるか

ひとつの場所に3日間密着して、
そこで偶然出会う人々の姿を記録する「ドキュメント72時間」。
毎週金曜日の夜にNHK総合で放送されている人気ドキュメンタリーです。

同番組のフォーマットが中国に販売され、
2018年から中国で配信がスタートしていることは
あまり知られていないかもしれません。

「街角のドラマ、海をわたる。 ~NHK『ドキュメント72時間』海外版 上映&トークショー~」が
8月21日に都内で開催され、水野良樹がゲストとして登壇。
番組の魅力や制作の舞台裏、番組のコンセプトやノウハウを販売するフォーマットビジネスについて、
チーフ・プロデューサーの植松秀樹さんと中身の濃いトークを展開しました。
進行は、チーフ・プロデューサーの森あかりさん、ディレクターの髙田理恵子さん。

このトークショーの模様を全3回にわたってお届けします。

Part 3 何を歌っているかではなく、その歌が、どのように物語とつながれるか

それでは、そろそろ、中国版をご覧いただきましょう。
「長沙・年越し深夜食堂」「昆明・カモメが見える都市公園」「北京・未来郵便局」「青島・海鮮市場」「撫順・串焼き屋」「婺源・ネットカフェ」など、13本配信されています。個人的には「北京・マクドナルド」が意外とおもしろくて。
植松雲南省とか、さまざまな省で撮影されていますよね。
そうですね。中国は広いので、地域による格差や文化の違いなどを、どう描くかということを、スタッフがものすごく考えていると聞きました。そもそもフォーマットを買った理由も、中国の今を描きたいという思いからだったそうです。
水野なるほど。
もっとリアルに描いて、若い人に見てもらえるドキュメンタリーをどうつくるかを日々考えていると。今日は、そのなかから、「カモメが見える都市公園」を、15分ほどのダイジェストでご覧いただきます。

(VTR上映)

植松時期は未定ですが、フルバージョンを日本語ナレーションで放送する予定です。
水野さん、ご覧になっていかがでしたか?
水野その場の空気を感じられるのはなぜでしょう。きっと、そこもおもしろさの一つですよね。僕は全国ツアーのときに、各地のチェーン店の喫茶店に行くことが楽しみなんです。お土産さんとか、その土地の名物料理の店とかではなくて、チェーン店。というのは、その土地の、その場にしかない日常の空気がそこにあるからで。例えば、接客で東京のお店と同じ受け答えをしたとしても、店員さんの言葉にはその土地ならではのイントネーションがあったり、そこに暮らしているおばちゃんたちの、その土地だからこその会話であるとか、その空気感が、その土地に来たという感じを受け取るヒントになっています。

今、中国版を拝見しても、言語は中国語で字幕があるので、普段見ている日本の「72時間」よりは、もうちょっと距離感があるのは確かに感じました。だからといって、つくられた映画を見ているような感覚ではなく、日常がそこにある感じがする点に、惹かれます。相互理解になりますよね。最後に出てきたリハビリされている男性のように、そこに生活があって、そのなかで、彼の倫理観や背景の物語が見えてきて、親近感を抱くというか…不思議な時間でしたね。
植松さんは、つくり手側として、印象的だったことはありますか?
植松最初に見たときから感動しました。非常によくできていると思います。
昆明という場所は中国の南にあって、ミャンマーと接するような、気候としてはちょっと温暖で、中国全土からいろんな人が移り住んでくる土地らしいんですよね。定年後、昆明で過ごそうと移り住んでこられる夫婦とか、昆明で働いている息子を頼りに移住してきた農村部の女性とか、あるいは、奥さんが仕事で忙しくて、娘さんと一緒に旅行に来ていた、男性と娘さんの二人組とか。いろんな家族の形があって、池の前でそのありようが、静かにつまびらかになっていく感じが、「72時間」的だなと思って。

しかも、冬の間、カモメが暖かい公園で過ごすんですけど、シベリアのほうに戻っていくという、そのタイミング。そのカモメを眺めながら、みんなが家族を思う様子…場所の選び方、ロケ時期の選定といったことも、非常よくできていると思いました。
水野農家だとおっしゃっていた4人家族のおじいちゃんが一言もしゃべらない。最高ですね。一人だけ警戒感を外さずに後ろにいて、娘さんは社交的にちゃんとインタビューに応えてくれて、その家族関係まで見えるようで(笑)。

また、「息子夫婦に、なかなか子どもができなくて」ということを話す男性がいました。笑顔でいるけども、何かそこに切なさを感じさせる、表には出さないけど本当は孫がほしいとか、そういう気持ち。それでも、息子夫婦のことを尊重しているという…今、整理すると、全て言語化できるんですけど、それがあのシーンの一瞬でわかるというのが、すごいなと思います。
ナレーションが多いほうが、中国の人にはウケがいいとか、中国に合わせるための工夫もたくさんあるようです。
水野フォーマットをベースにして、工夫が重ねられているんですね。
植松家族の話だったり、年老いた両親の話だったりとか、いろんな悩みを抱えている様子を見たときに、僕たちとそんなに変わらないなと感じますよね。
そうですね。実際に中国に行ったときに、雑誌記者の方とお話ししましたけど、「普通の物語を見せてくれるものがなかったから、すごく新鮮だった」と言われました。メディア規制で表現が限られてしまったり、街頭インタビューができなかったりと、今まで描くことができなかったことが、できていると。それは、日本とは違う中国ならではの視点だと思いました。

水野やっぱり自分の物語を立ち上げるのは、すごく難しいというか…みんな、TwitterやInstagramで、きれいに形づくることは得意になってきていますよね。でも、本当に感じている悲しみとか、持っている物語を自分で語ることは、すごく難しい。やっぱり自己紹介って難しいんですよね。でも、その瞬間にこそ、その人らしさが出るから、おもしろい。

中国の人たちにとって自分の物語を語ることは、おそらく、日本人の感覚と違った意味での難しさもあると思います。でも、当たり前ですけど、みんな生きているから、物語を持っていて、それが立ち上がったときに、人はその人を理解する。その人を理解すると、自分にも同じような物語があるということで自分を理解する。他者と他者が出会い、ちゃんとコミュニケーションができる。そのときに、いろいろ感じるのと同じで、この番組をとおして他者と出会っているのかなというふうに思いましたね。
国が変わっても、同じ価値観を共有できたということですよね。水野さんが考える「変わらないもの」というのは、どういったものでしょうか?
水野僕は「上を向いて歩こう」という曲に、強い憧れを持っています。曲をつくった人間も歌った人間も亡くなって、つくり手の思いみたいなものは物理的にはなくなっているけど、「上を向いて歩こう」って歩くことが、まるで前向きなことかのように誰もが思っていますよね。それが、例えば、大切な人を亡くしたときの言葉にできないほどの悲しみにも寄り添えるし、仕事で失敗したけど明日頑張ろうというような、ちっちゃな悲しみにも寄り添える。その歌で何を歌っているかではなく、その歌がどのように物語とつながれるかという広さを持っていることが、大事な気がします。

「72時間」が、国を越え、文化を越えるのは、例えば、有名人の成功物語を伝えるだけだと、それは多くの物語にはつながらなくて、場所であったり、時間であったり、日常であったりという、みなさんの物語につながるものを提示することによって、もしかしたら、中国だけじゃなくて、ロンドンでもできるかもしれないし、アフリカでもできるかもしれないし、もちろん、僕らが住んでる街のコンビニでもできるかもしれない。つまり、誰かの物語を見たいとか、聞きたいとか、そこに視点を置くことによって、自分の物語も確かめたいということにつながっているのかなと思います。

僕も歌をつくっていて、自分のことを伝えたいのではなく、自分がつくった歌が誰かの物語につながって、誰かの人生の役に立っているとか、誰かの喜びのBGMになっているとか、ちょっとしたプラスになってほしという気持ちでいるので、そことリンクしているように思いました。
私たちも、バイブルをつくって、言葉にしてみたことによって、その価値を異国の人と分かち合えて、さらにその人たちが新しいものをつくってくれました。自分たちが大事にしている価値観が広がっていくということは、とても素敵な体験でしたし、ほかの国の方々にもぜひつくってほしいなと思っています。
水野本当に素晴らしいことですよね。今日はありがとうございました。
植松ありがとうございました。

(おわり)

(写真左から)植松秀樹さん、森あかりさん、
水野良樹、髙田理恵子さん

「ドキュメント72時間」
毎週金曜日 夜10:50からNHK総合で放送中
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Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

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