2019.9.18
ESSAY

関取花 連載第9回 君が笑ってくれるなら

突然だが、私は口がでかい。

初めてそのことを自覚したのは中学一年生の時である。
大河ドラマの「新選組!」で、あの近藤勇は口が大きく拳を入れられるほどだったということを知った。

君が笑ってくれるなら

突然だが、私は口がでかい。

初めてそのことを自覚したのは中学一年生の時である。
大河ドラマの「新選組!」で、あの近藤勇は口が大きく拳を入れられるほどだったということを知った。それはすごいと思って試しに入れてみたところ、すんなり入ってしまったのである。
とはいえ口を大きく開けた時の自分の顔を客観的に見る機会もなかったので、特に気にも留めていなかった。しかし最近、どうも口のでかさが気になるのである。

我々ミュージシャンは、仕事上写真に撮られることも多い。
アーティスト写真なんかはある程度キメたカットなのでそんなこともないのだが、ライブ中の写真となると完全に無意識そのものである。歌を歌うときは当然口を開けているし、全力であればあるほどそりゃもう大全開になる。
そういう写真を見ると、たまに自分でも驚いてしまう。待て待て、まるで恐竜じゃないかと。思っていたよりだいぶ口がでかいぞと。

だからと言って、常に口のことを気にしながら歌うのは何か違う気がする。せめてこの口のでかさが役に立つことでもあればいいのに、と常々思っていた。

先日、地元の大親友と久々に会った。そろそろ一歳になる彼女の娘ちゃんも一緒にである。
少し見ない間にすっかり大きくなっていて、まだ会話はできないもののなんとなくコミュニケーションがとれるようになっていた。
今はアンパンマンに夢中だということだったので、アンパンマンの映像をスマホで流して見せてあげたところ、キャッキャと嬉しそうに笑ってくれた。それがとにかくかわいくて、私はキュンキュンしてしまった。と同時に、アンパンマンに負けたくない、なんとかこの子を自力で笑わせたいと強く思った。

踊ってみたり歌ってみたり、擬音的なものを口から出してみたりといろいろやってみたのだが、思っていた以上に11カ月の子供は手強かった。キョトンとした顔でこちらを見るばかりで、なかなか笑ってはくれない。
そうなると当然こちらのメンタルもやられてくるわけである。すべり続けるとはこのことかと、心が折れてしまいそうだった。

このままではダメだと思い、私は自分の小さい頃を思い返してみることにした。
そこでまず頭に浮かんだのは父のバカでかいオナラだった。あの不意打ちで来る破裂音は、今でも割と鮮明に覚えている。私の場合は大号泣だったが、たしかに毎回必ず反応していた。
なるほど、言われてみれば小さい子供にはもっとわかりやすいアクションでアプローチしてみなければならない。それに、少しでも恥じらってしまったらすぐにバレてしまう。
飲食店にいたのでさすがにオナラはできなかったので、私は自分が持ちうる一番でかいもので勝負しようと思った。そこで私は、ここぞとばかりに口を大きく開けて全力で「ンパッ!」をやってみることにしたのである。

すると、さっきまで無表情だった娘ちゃんが満面の笑みを浮かべてくれたのだ。
なんともいえない達成感と喜びが私の全身を駆け巡り、心がじんわり温かくなるのを感じた。
ありがとう神様、ありがとう父母。私、口がでかくてよかったよ。一人の女の子を笑顔にすることができたんだ。私は心の底から感謝した。

そのあとなんだか心まで大きくなってしまったのか、私は娘ちゃんに何か買ってあげたくて仕方なくなってしまった。
いいよいいよと遠慮する親友を振り切り、いろいろお店を見て回った挙句、かわいい帽子を見つけたのでプレゼントしてあげた。後日その帽子をかぶった写真が送られてきて、今は暇さえあれば見返してニヤニヤしている次第である。

まあそれ以外はこれと言って口のでかさが役に立ったことは今のところないのだが、あれから口がでかいのも悪くないかなと思えるようになった。いやはや、子供の笑顔は本当に偉大である。

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。
昨年はNHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演を経て初のホールワンマンライブを成功させた。
2019年5月8日にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト

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