2019.9.24
TALK

水野良樹×小杉幸一 Part 2
人とのコミュニケーションによってアウトプットが変わってくる

Prologue from Yoshiki Mizuno

HIROBAのロゴやサイトのデザイン、
音楽作品「YOU」「僕は君を問わない」のジャケットワークなどを
担当してくださったアートディレクターの小杉幸一さん。

相手が伝えたいと思うことを形にしていく。
普段、デザインというアウトプットをされるなかで、
どんなことを意識しているのか、お話を伺ってきました。

Part 2 人とのコミュニケーションによってアウトプットが変わってくる

水野小杉さんのそういうコミュニケーションの取り方、視点、デザインを話し合っていく上での手法というのは、それは培っていくものですか?それとも、もともとご自身に備わっていた能力ですか?アートディレクションの世界に入っていこうとされたのは、なぜでしょう?

デザイン関係の仕事では、自己表現がしたい、自分の内面を形にしたいというタイプの人も多いような気がします。でも、そういう仕事ばかりでもないじゃないですか。自己表現だけではなく、基本的には受けた仕事に対してどう応えていくか。そういう姿勢はどの段階で身についていくんでしょう?
小杉僕はそこが明快で、子どものころは、実は描きたいものがなかったんです。でも、人のリアクションを見るのが好きだったんですよね。手先が器用だったので、すごくリアルな絵を描くと美術の先生が褒めてくれて。
水野なるほど。
小杉ドラゴンボールの悟空を上手く描くと、同級生が喜ぶ。おばあちゃんの誕生日に、おばあちゃんをデフォルメした似顔絵を描くと喜ぶ。結局、自分が描きたいものはなかったけど、人のリアクションを見ることが好きだったんですよね。それを最大限にコントロールできるものが、たぶん、絵だったのかなと思って。
水野おもしろいですね。そもそもコミュニケーションツールみたいなことなんですね。
小杉そうですね。まさに。
水野誰かを喜ばせるときに、歌を歌う人もいれば、絵を描く人もいる。小杉さんは絵で、しかも、その人に合わせて考えて描かれていた。
小杉どうすれば喜んでくれるか。
水野素敵だなぁ。
小杉もしちょっとでも音楽の才能があったら、それを手法にしていたのかもしれませんね。
水野それは、おもしろいですね。
小杉美術の大学に入るときに、そういうものはデザインだって初めて概念がわかって。それで、進んでいったんですね。
水野アートじゃなくてデザイン。
小杉そうです、デザインであると。
水野でも、話し合っていくのって技能が必要じゃないですか。それは社会人になってからですか?
小杉アートディレクターは、出来上がったものだけが力量じゃなくて、それはたぶん、音楽のほうが純粋だと思うんですけど、その人の経験だったり、それを完成させるまでのプロセスのほうが重要じゃないですか。

例えば、ひとつのポスターをつくるにしても、そこで印刷会社の方も関わる。ポスターだと、プリンティングディレクターという方がいらっしゃって、その人とのコミュニケーションによってアウトプットが変わってくる可能性がある。

そういう話を師匠から聞いて、自分の行いのすべてがこの1枚になっていくっていう意識を植え付けられたんです。

水野なるほど。
小杉電話のタイミングが悪い人といい人がいるじゃないですか(笑)。
水野わかります(笑)。
小杉忙しいなかで、誰かに電話しなきゃいけないタイミングを一日のうちのいつにしようかというのも、その人のセンスというか。そういうことも含めてのコミュニケーションで、全部を大切にしていかないといいものができないというのが、僕の師匠の教えで。
水野いやぁ、おもしろいですね。コミュニケーションを経たストーリーの総和というか、最後にたどり着くまでに、全部影響を受けているんですね。創作物って一人の人がいて、ディレクションする人、つくる人がいて、その人の技術や意思だけがその結果に直結しているかのように思えるけど、そうじゃなくて、周りとの会話、空気感、全部のコミュニケーション、物語すべてが、最先端につながっている。
小杉そうですね。ようやくそこで表面ができるような。さっきのプリンティングディレクターで例えると、僕からすると、印刷会社に頼むときはオリエンなんですよね。
水野はい。
小杉だいたい、デザイナーって詳しくなっちゃうんですよ。紙の種類とか。「紙はMr.B(ミスターB)、インクはスーパーブラックで、こういうふうにしたい」みたいな。そこを例えば、「今、Mr.Bとスーパーブラックで考えているけど、もっと荒々しくしたいんだ」と言ったら、プリンティングディレクターが、「それなら、晒竜王(さらしりゅうおう)という紙がありますよ」と。そこでコミュニケーションが生まれて、さらに良くなっていきますよね。まさにオリエンのように、「これ」と言わずにイメージを伝えてもらったほうが、いくらでも提案できる。だから、オリエンのようなコミュニケーションは、日常どこにでもあるんですよね、きっと。
水野それは大事ですよね。HIROBAのコンセプトとして、そのまま使いたい(笑)。

(一同爆笑)

小杉実際にHIROBAのコンセプトも、そこに通じるものがありますよね。HIROBAのコンセプトを聞いておもしろいなと思ったのが、今の時代、新しいことがいきなりできるのって無理じゃないですか。「デザインあ」っていう番組があるじゃないですか。あの「あ」って、最初聞いたとき、あいうえおの、あ行の一番最初の「あ」だと思っていたんですけど、デザインで何かと何かをくっ付けた新しい概念が出るときの、「あ」っていう発見でもあるんですよ。

注釈:「デザインあ」。NHK Eテレで放送中の番組。こどもたちの未来をハッピーにする「デザイン的思考」をはぐくむことをテーマに、身の回りにあるものを、斬新な映像手法と音楽で表現。子どもはもちろん、大人も楽しめる番組として人気を博している。

水野あ!なるほど。あ、今言っちゃった(笑)。
小杉言っちゃいますよね(笑)。例えば、このモチーフとコップを一緒にして、こういう新しいコップができるかもしれないっていう、その視点が意外と大切というか。だから、いきなりゼロから1のものは無理で、1をどうやって100に、さらに100以上にするとかということの組み合わせが重要な時代になると思います。HIROBAのコンセプトはまさにそうですし、そういう場なのかなって、最初に聞いたときに思いました。
水野複合的な要素は大事ですよね。作品というものは、いろんな人とのコミュニケーションがあって、いろんな人が関わっていて、いろんな人の意思決定が入っていて、その空気感も含まれていて、複合的な要素で出来上がって…そこに、たまたま作者としているみたいなことも多くて。

HIROBAをソロプロジェクトと言わないという…すごくひねくれたことを言っているんですけど、ソロプロジェクトじゃないというのは、要は、複合的な産物がどんどん生まれていくということです。ある1人の人格が、あるひとつの作品と直結しているだけの関係性でアートが生まれるわけでもないだろうということが、ひとつの視点としてあるのかなと。

今の世の中、これが正義だとか、これが正しいとか、ひとつの答え、ひとつの軸だけで世の中を捉えようとするけど、実際は縦軸、横軸、いくつもの軸がある。デザインを考えるなかで大事にされていることを伺ったときに、自分とリンクする部分がたくさんありました。
小杉水野さんを見ていると、そういう部分も共感するときがあります。
水野共感していただけるから、僕も、同じように共感できるんでしょうね。
小杉うれしいです。
水野たぶん、小杉さんにお願いしたら、それこそ僕の想像を超えたものを見せてくれる。想像を超えているけど、求めていることと違うことではない。一緒に同じ方向を見て遠くまで行こうとしていて、自分ができない行き方や、行くことができないところまで連れて行ってくれる。
小杉うわ、うれしい!
水野そういうことを、あらためて感じました。
小杉顔に出たりとか…「いやいや、ちょっと」っていうことがあるから、また考えられるというか、そこを軸足にして進めていける。そういうリアクションをしてくれるのは意思があるからですよね。何でもいいっていう方もいらっしゃるんですよ。ただ、好き嫌いで決めちゃうような。そこに意思があるから、言葉にできなくても何か出ちゃったりする。そういうところはデザイナーとしてキャッチしていかないと、いいものができないんじゃないかなと思っています。
水野いやぁ、素晴らしいですね。ありがとうございました。
小杉こちらこそ、ありがとうございました!

(おわり)

小杉幸一(こすぎ・こういち)
クリエイティブディレクター/アートディレクター。
武蔵野美術大学卒業後、博報堂に入社。
ブランディング、イベントのほか、空間、
テクノロジーを使った従来の型にはまらない
広告のアートディレクション、アパレルブランドとの
コラボレーションなど幅広く活躍。
小杉幸一Twitter

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa
Hair & Make/Yumiko Sano

同じカテゴリーの記事