2019.9.25
TALK

水野良樹×小杉幸一 AFTER TALK with
KOICHI KOSUGI

小杉さんは、よく頷いてくれる。

はじめて会ったときから。
とにかくよく、話を聞いてくれるひとだった。

AFTER TALK with
KOICHI KOSUGI

小杉さんは、よく頷いてくれる。

はじめて会ったときから。
とにかくよく、話を聞いてくれるひとだった。

デザインにせよ、アートディレクションにせよ。
そのお仕事の内実は、当然、門外漢の自分からはわからないところが多い。

観客席にいる僕らは、言ってしまえば乱暴に
「ホームランを打ってくれ」と願う。
プロの野球選手は「はい、わかりました」と期待に応えて
「ホームラン」という結果を残す。

相手のピッチャーの配球を読んで、
球場の風向きの具合を確かめて、
バッドは直径何センチの、芯がちょうどこのあたりにくるタイプのものを選んで、
体重移動をかくかくしかじかこんなふうに行って、
マウンドから向かってくるボールに対してタイミングはこのようにとって、
バットの軌道が自分の身体からもっとも効率的な円を描くようにスイングして、
打ち込んだボールが逆回転して上昇していくようなイメージで

…とおそらく、バッティングの技術、工夫については、
それらは当然、本職のひとたちが語りだせば
一晩、二晩ではとても語り足りつくせないくらいの
膨大な、あれやこれやが、あるはずだ。

それを一から百まで説明してもらっていたら
時間が足りないし、おそらく専門的すぎて、
よくわからないことがほとんどだろう。

だから僕らは、
プロが見事に打ち放つ、もはや説明のいらない
気持ちのいいホームランだけを見させてもらって
「わぁ、すごい」と喜んで、両手を高くあげるのみだ。

あのときの小杉さん。
やたら頷いていたけれど、何を考えていたのだろう。

数週間前の打ち合わせのときの小杉さんは、
とにかくたくさん頷きながら、
僕らが話すイメージの断片を丁寧に聞き取ってくれていた。

時が経った。

いま、テーブルの上に乗せられた1枚のデザインシート。
それを目の前にして。考え込む。

こんなイメージを考えてきました。
そう言われて見せられたデザインシートは、
もうとっても気持ちが良くて、違和感もなくて、
自分の頭のなかにあったことが、すっきり表現されていて、
つまりはそういうことなんですよ、小杉さん!
と叫びたくなる(のを我慢して、いつも冷静にそれっぽい顔をしている)ものだ。

そう、つまり、見事なホームランだ。

いつもおしゃれなメガネをかけている、この格好いいお兄ちゃん。
どうやってこのホームランを打っているのだろう。
と思うのだけれど、とうの小杉さんは、
最初の打ち合わせのときよりも、少しだけ不安そうな顔をしている。

「ありがとうございます。すばらしいですね」と言うと
「あぁ、良かったです」とほっとした顔をして、やっと笑顔になる。
なんだよ。いいひとすぎか。素敵すぎか。

不思議なのは、見事なホームランを見せられて、
じゃあ、突き放されてしまった感覚があるかというと、そうでもないことだ。

どの分野だってプロというひとたちは凄いものだ。
あまりに見事な結果を目の前にすると、
その迫力とか、輝きに圧倒されてしまって、常人では触れがたいというか、
なんだか少し遠くに感じてしまったり、
もしくは打ちのめされてしまったりするようなことも、たまにある。

どうも、その嫌な意味での、遠さがない。
「いや、水野さん。これは最初からあなたの心のなかにあったものなんですよ」
と、まさに語りかけてきそうな、
自分の心持ちに近いところにあるデザインが、そこに置かれている。

うむ、あの格好いいお兄ちゃんの術中にハマっている。

あの頷きに、なんの秘密があるのか。

小杉さんとの打ち合わせ。
小杉さんの会心の頷きが拝める、あの打ち合わせだ。

なにがあるのかといえば、
「ああ、一緒に考えてくれているのだな」
と思える瞬間がある。

いや、そりゃあたりまえだ。
打ち合わせているのだから、存分に、打って、合わせて、
両者言葉を投げあいながら、
一緒に考えていることに偽りはないのだけれど。

なにを言いたいかといえば、
小杉さんは、向き合わない。

念の為に言うけれど、比喩だ。
たとえテーブルを挟んで、カラダは向き合っていても、ココロは向き合っていない。
ということだ。

小杉さんは、向き合うというよりも、横に並ぶ。

僕らの正面に立って、大上段から、
答えを投げつけてきたり、押し付けてきたりなどしない。

なんなら「ちょっとすみません」と遠慮そうにやってきて、
ちょこんと、となりに席をとり、横に並んで、
こたえを出さなければならないデザイン上の課題を、
クライアントである僕らと同じ場所から一緒に眺める。

あーでもない、こーでもない。
ときに脈絡もなく出てきてしまう僕らの言葉にも、
うんうんと、小杉さんは頷いてくれる。
課題を解くヒントを、僕らの言葉からさぐりだして、みつけだして、
ひたすら課題を、一緒に眺めてくれる。

ああ、一緒に考えてくれているのか。
そう思えてしまうと、うっかり、信用してしまう。

「じゃあ、あとは、そんなかんじで」
と、ほとんど何もリクエストしていない、
信じられないほど見事な丸投げの言葉を、
最後には、うっかり、小杉さんに渡してしまう。

「じゃ、がんばってみますねー」と
小杉さんは、笑って、その場を去っていく。

「ホームラン打ってください」
「はい、打ってきますねー」

と言わんばかりに。

そして、気がつけば、
バックスクリーンの右端に、
ライナー性のがめつい当たりではなく、
ふわっと、大山を描くような、それでいて心地の良い大飛球が、
いつも飛んでいるのだ。

Text by YOSHIKI MIZUNO(2019.9)

Photo/Manabu Numata
Hair & Make/Yumiko Sano

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