2019.10.2
ESSAY

関取花 連載第10回 こんな鳩はいやだ

鳩が怖いのである。
はじめてそう思ったのは小学生の時で、あるシーンを見てしまったのがいまだにトラウマとなっている。

こんな鳩はいやだ

鳩が怖いのである。
はじめてそう思ったのは小学生の時で、あるシーンを見てしまったのがいまだにトラウマとなっている。

真夜中にベランダから変な声がしたので兄と二人で懐中電灯を手に見に行くと、室外機の裏で鳩が産卵をしていた。暗闇に浮かび上がったあのぬらりと濡れた身体と開いた瞳孔は、忘れようにも忘れられない。鳩も鳩で必死だったのだとは思うが、当時の私にはそれがどうにもおぞましく見えてしまった。

そして最近、鳩に対して再び恐怖を覚える出来事があった。

東京駅の地下に、“びゅうスクエア待ち合わせ場所”というところがある。この階にはお弁当やお惣菜を扱うお店がずらりと並んでいて、皆新幹線に乗る前に買ってそこで食べていたりする。私も新幹線を利用する際にはよく時間を潰させてもらっている。

先日も私はそこのベンチに座ってお弁当を食べていた。すると、ふくらはぎのあたりに何かがぶつかる感覚がした。何か落としたかなと思い下を覗き込んでみると、そこには鳩がいたのである。
私は思わず「うわ!」と声を上げながら足をジタバタさせてしまった。しかしその鳩は普通の鳩とはどうやら違うようだった。もう、まったくと言っていいほど動じていないのである。「ここ俺の庭ですけど何か?」みたいな顔をして、やけに落ち着き払ってそこにいるのである。

その“もう慣れっこですよ”みたいな表情からは、こんなセリフが聞こえてくるようだった。

「東京駅から新幹線乗るたびにいまだにワクワクしちゃってんすか?俺なんて毎日ここ来てるから飽き飽きしてるっすけどね」
「ていうかなんでそんな質素な弁当選んだんすか?もっとパーっと良いやつ食いましょうよ、俺そういうの見てらんないっすよ」
「ていうか早く飯くださいよ」

完全にナメられていると思った。怖い。都会の鳩怖い。わけのわからない自信に満ちあふれているその感じ、マジで怖い。
そんなわけで、なぜか私の方が肩身の狭い気分になってきたのでそそくさと立ち去ろうとしたのだが、椅子を動かしても何をしてもやはりヤツは微動だにしなかった。
人間が少しでもアクションを起こしたら逃げたり飛んで行ったりするのが鳩の習性だと思っていたが、もはやそんな常識はもう古くて、実は私が遅れているだけなのかもしれないとさえ思った。いやもうなんかごめんなさい。
出発まではまだかなり時間があったが、居場所も自信もすっかり失くしてしまった私はさっさと駅のホームに向かった。

ホームでボーッとしていたら、また別の鳩を見かけた。でもその子は人間が来たらちゃんと早足になるいわゆるステレオタイプ的な鳩だったので、少し安心した。それに比べてさっきの鳩は…と考えていたら、ふと疑問が浮かんでしまった。

なぜさっきの鳩は地下に来ることができたのだろう。ホームは建物の外でもあるから全然わかるのだが、地下はどうだ。窓もないし、他に直接入ってくる入り口もないはずである。私はあそこへ行くのにいつもエスカレーターか階段を使っているが、まさかあいつもそれを利用して地下までやって来たというのか。

え、だとしたらめちゃくちゃ怖い。そんな鳩いるのか。実は中に人が入っているとか、もしくは何らかの調査で訪れた地球外生命体の仮の身体とかなんじゃないか。いずれにしても、こんな鳩はいやだ。

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。
昨年はNHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演を経て初のホールワンマンライブを成功させた。
2019年5月8日にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
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