2019.10.30
ESSAY

関取花 連載第12回 マリモとパリピ

先日、広島FMにてお昼の生放送番組の代打パーソナリティを2日間務めさせていただいた。行きは品川から新線線に乗るなり爆睡して気付いたら広島に到着していたのだが、帰りは放送後のアドレナリンが出ている状態で乗車したため、なかなか寝付くことができなかった。

マリモとパリピ

先日、広島FMにてお昼の生放送番組の代打パーソナリティを2日間務めさせていただいた。行きは品川から新線線に乗るなり爆睡して気付いたら広島に到着していたのだが、帰りは放送後のアドレナリンが出ている状態で乗車したため、なかなか寝付くことができなかった。
それなのに、こういう時に限って持ってきた本は前日にホテルで読み切ってしまっていたし、Bluetoothのイヤフォンのバッテリーも切れてしまっていた。だからと言ってスマホでネットサーフィンをすると目がギンギンして家に帰ってからも余計に眠れなくなる。これから約4時間も新幹線に乗るというのに、完全にやることがなくなってしまったのである。

唯一やれることと言えば何か食べることくらいだったのだが、あいにく持ち合わせているのは広島駅構内で自分へのお土産に買った牡蠣のオイル漬けの缶詰のみだった。お酒もないのに食べる気分にもなれなかったし、だいたい箸も持っていなかった。さてどうしようと考えた結果、私は一人でしりとりをすることにした。

しかし、いざやろうと思うと案外難しいものである。簡単すぎてもつまらないので、それなりの難易度を設定しなければならない。しりとり→りんご→ゴリラ…といったありきたりなやつではきっとすぐに飽きてしまう。そこで私は“言葉のアクセントが同じもの縛り”というルールを設けた。例えばタレント→トレンド→ドラム→ムカゴ…こんな感じである。いまいちピンとこないという方は、ぜひ実際に声に出して連続で言ってみてほしい。なんとなくのニュアンスはわかっていただけると思う。

そんなわけで私の一人しりとりが始まった。スタートの言葉は『広島』である。広島→曼荼羅→ランバダ→団子屋→ヤンママ→マラカス→寸劇→金八→ちんかめ→面取り→リゾット…え、リゾット?リゾットってどんなアクセントだったっけ?と言った具合に、進めていくうちにどんどんわけがわからなくなっていった。これがなかなか面白くて、予想以上にしりとりは盛り上がった。(一人で)

すると自分でも無意識のうちに「あちゃー」とかなんとか小さな声が出てしまっていたようで、隣の席に座っていたパリピ風の男性から舌打ちをされてしまった。私はすみませんと謝りながらも、頭の中はアクセントのことでいっぱいだった。そしてすぐに、よし次は『パリピ』からしりとりを始めようと思ったのだが、パリピ→ピンドン(ピンクのドンペリ)という超アゲアゲエンドルートしかどう頑張っても思いつかず、泣く泣くしりとりは諦めることにした。
しかし、しりとりというのを気にしなければパリピと同じアクセントの言葉はたくさんあるような気がしたので、そっちを考えてみることにした。マリモ、つくね、毛虫、めざし、けじめ、ミスド…しりとりでだいぶ鍛えられたようで、どんどん言葉が浮かんできた。不思議なことにこうやって並べるとなぜかパリピのイメージとは程遠い言葉ばかりである。そんな感じで他にもないだろうかと考えているうちに、私はいつの間にか眠りについていた。

あっという間に数時間が経ち、新幹線は品川に到着した。そこからJRを乗り継いだりして、間もなく私は自分の最寄り駅に着いた。牡蠣のオイル漬けに合うお酒でも買って帰ろうとコンビニに立ち寄ったのだが、レジに並んでいる最中に現金を持っていないことが発覚した。しかし今は便利な時代である。現金がなくてもさまざまな支払い方法を選択できる。そして私はお会計の際、いつも通りの調子で「あ、パスモで」と店員さんに言った。

…つもりだった。

しかしその時私の口から出た『パスモ』のアクセントは、完全に『パリピ』と同じになっていた。新幹線の中でやっていた一人遊びが、どうやら知らない間に染み付いてしまっていたようである。またしてもぜひ実際に声に出してみていただきたいのだが、その言い方で「あ、パスモで」と言うと、マジでパリピ風の喋り方になるのである。とはいえ言い直すのもなんだか変な感じがしたので、そのままドヤ顔でなんとか押し切った。今思い返すと超恥ずかしい。

そんなわけで私は逃げるように家に帰り、牡蠣のオイル漬けをつまみに寂しく一人パーティーをしたのだった。ちなみにお酒はシャンパンでもピンドンでもなく、発泡酒でした。

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。
昨年はNHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演を経て初のホールワンマンライブを成功させた。
2019年5月8日にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト
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