2019.12.7
TALK

【大野先生に聞いてみました】
HIROBA with 大野雄二
第2回
「合わせる」んじゃない、「合っちゃう」んだよ。

12月6日に全国ロードーショーで公開される映画『ルパン三世 THE FIRST』。
「ルパン三世」では史上初となるフル3DCGアニメーション作品ということでも話題を集めています。監督は山崎貴さん。そして音楽はもちろん、大野雄二さん。
今作のエンディングテーマ「GIFT」の作詞を、大野先生からご指名いただき、水野が書かせていただくことになりました。
今回の「大野先生に聞いてみました」は、映画公開を機にリリースされる『ルパン三世 THE FIRST』オリジナル・サウンドトラックのブックレットで行われた特別対談のアフタートークとして、水野がいろいろな疑問を大野先生にぶつけてみた、おしゃべりの模様です。
お話は、当初、ジャズプレーヤーとして自由な即興演奏の最前線にいた大野先生が、制約の多いCM音楽のお仕事を始めて、さまざまな気づきがあったというところから始まります。すべての音楽家、音楽ファンに読んでいただきたい、楽しくて、発見に満ちた大野先生のお話です。

第2回 「合わせる」んじゃない、「合っちゃう」んだよ。

水野偶然性を演出するというか、演出しすぎたらあざとくなっちゃうし。

大野うん。そうそう。だから、そこがちょうどいい、すごくうまくいってるときというのは、流れるようにできあがるよね。
例えば、曲の話でいうと、僕みたいなタイプの人は曲頭からしか作曲できない。サビっていうのは、曲頭ありきでサビになると思っているから。サビっていうのはイントロがあって、Aがあって、A’があって、展開していって、そこで初めてサビがくるわけ。

水野はい、文脈があると。

大野最近の曲でときどきびっくりするのはね、ほとんどサビから始まっている曲があって。

水野ごめんなさい。僕、そういうの、いっぱいつくってます(笑)。

大野そのサビの後の落ち込み方で、落差がありすぎるのはあんまりね。本当だったらAメロが頭のはずなんだから「え、こんな低いところからこんなメロで始まってたの?この曲」って。僕なんかの感覚でいうと、ほんとはあり得ない。
「これがあって、ちょっとこうなったのがあって、だったら、サビはこう行ったらどうだ?」みたいストーリーというか、流れがあるはずじゃない。

水野ハイライトシーンから始まるみたいなことなんですかね。

大野わざとやることはあるよ。文章もそうだろうけれど、わざと驚かせるためにサビ頭からやる。あえて。でも、基本は流れだよ。いい曲ができているときって、イントロとかすぐできちゃうから。ここに入るために何か必要なのかってことでしょ。アレンジのイントロっていうのは。
あるいは、僕が一番悩むのは、イントロ要らないでしょってときがあるんだよね。みんな、しょうがなくてイントロを付けてるじゃん?

一同 (笑)

水野そういうこともありますね(笑)。登場感をくれって。

大野でも、無くていいんじゃない?っていうものもあるよね。

水野ははは。もう、曲が完成されていれば、いいわけですもんね。

大野あとは、これは悩みだすとずっと悩むんだけど、ストリングスとかを使うときも、どこから出そうかなって。サビから出すか、サビの前にちょっと薄く出しておくか。これが、うまくいってるときっていうのは、全然悩まずにスーッと書ける。

水野考えなくても流れで?

大野うん。わざとらしくやると、やっぱり、わざとらしいんだよ。

水野わざとらしく見えるのってなんでなんですかね。無駄なんですかね?

大野わざとらしく見えるのは、自分がわざとらしくつくってるってこと。

一同 (笑)

大野“知らないあいだに”だけどね。

水野そうか。今、話題の神田松之丞さんって講談師の方が、ご自身の講談のCDのなかでしゃべっていたことがあって。大ベテランのある高名なお師匠さんが「60歳、70歳って年齢を刻んでいくと、芸っていうのはすごくうまくなるんだけれど、パッと外から見たときには、まるで遊んでいるようにしか見えなくなる。それが究極の姿だ」みたいなことをおっしゃっていたと。すごく面白い話だなと思って。結局、それはどういうことなんだろうっていうのをずっと考えているんですね。
今、大野先生のお話を聞くと、わざとらしくなっては駄目なんだけれど、でも、偶然性はつくり出していかなきゃいけない。まさに禅問答なのですが、そのお話が、経験を積んで芸が究極に至ると「遊んでいるように“見える”」というお話と、どこかつながるのかな、みたいな。
ある程度の究極まで至るというか、何かを積んでいったり、何かを磨いていったりすると、無駄なものを削ぎ落としていった先に、スッと、作為と偶然との間ぐらいで、曲が書けるようになるっていうことなのかな、と。

大野うん、なるほどね。それを言うとね、僕はもともと現場でリアルジャズを弾いていた人間なわけでしょ?。そうすると、サウンド的にはテンションノートとか普通の人より難しい音が入っているんだけど、その難しい音をどのくらい易しく聴かせるかが、たぶん、うまくなっていったからだと思う。CM音楽いっぱいやったおかげでね。

水野なるほど。

大野ものすごく難しいコードを使っているんだけど、メロディックに聴こえるでしょ?

水野はい、ほんとに。覚えやすいのに、譜面を見るとびっくりするっていう(笑)。

大野ね。コードのうえに数字がいっぱい書いてあったりしてね。
でも、なんでそれが易しく聴こえるかというと、ものすごく多くのCM音楽をやっていたからさ。その経験があるからだね。
CM音楽の世界ではスポンサーっていう人が一番偉いわけで、何を書いて行っても「このCMはこの商品のためのものであって、うちの会社からすれば音楽的にいいとか関係ないから」って言われちゃうわけ。そういうとき自分がどう対処するのかって問題に直面して、ほんと最初のうちは「ばかやろう」と思ってたわけ(笑)。

一同 (爆笑)

大野なんでわかんねえんだよって(笑)。でもね、ごもっとも!ってなる時期が来る、1年ぐらい経つと。お金を出しているのはあの人たちだしねって。

一同 (笑)

大野そこからなんだよ、奮起するのは。どうやって、ギャフンと言わせてやろうか、と。
やっぱり、人より5倍、6倍は考えなきゃ駄目なの。CMなんて、例えば30秒のなかで「途中のこのキッカケまでに4カ所ぐらい音を変えてくれ」とか無理なことを言われる。そんなことやったら音楽的に無理だろ!って感じのね。
だから、つくっているときは挫折をしょっちゅうしているわけ。「最初のここの難関は突破したけれど、あと、これだけの秒数で、ここでまた違う感じにしなきゃいけない。それは無理だよ!」みたいなね(笑)。でも、5回ぐらい挫折しながら考えつづけると、最後にはできるんだよ。ちゃんと考えれば、できる。

水野この対談、いろんなミュージシャンが冷や汗をかきますよ(笑)。

大野さっき、プレーヤー同士がアドリブをやっているときに、何となくひらめいて暗黙でわかる人たちみたいな話があったでしょう。あれも偶然じゃないからね。けっこう必然だから。
だから、僕がいつも言っているのは、練習すれば難しいことなんかいくらでもできるわけ。キッカケなんかも、練習すればそりゃいくらでも合うさ。アマチュアだって、譜面に書いてあって、そこをスパッとやるのは練習すれば合わせられるでしょ?
でも「合わせる」んじゃなくて、大事なのは「合っちゃう」こと。
あれ?弾いていたら、合っちゃったって。これはお客さんから見たらびっくりするんだよ。なんで合っちゃったの?って。でも、優秀なミュージシャンたちって「合っちゃう」ことがしょっちゅう起こるわけ。

それはどうしてかというと、素晴らしいミュージシャンは、もう全員が他の人の音を嫌ってほどに聴いてるんだよね。聴いていて、その時々で主役になろうとする人がオーラじゃないけど信号を送るわけ。あとでこう弾きたいから、その前にこういう感じで弾いているんだ、みたいな信号を。その信号をいち早く察知すると、素晴らしい演奏家たちは、その瞬間から何小節かの間にいろんな事をものすごく考えている。次どうなるんだ?と。それで、だんだん確信に変わっていくんだよね。「あ、こいつ、絶対こう来るな、こう来て、ここでこうキメるなって」で、音が、タイミングが、合っちゃう。

水野はい。

大野でも、それ、1回目はびっくりするけど、2回続いちゃうと同じじゃんってなるんだよね。聴いてる方も、もう、わかっちゃうから。でもね、僕のトリオなんかを聴きにきている人は、できれば毎回同じ曲をやってもらいたいっていう人が多いの。僕のトリオの演奏は毎回違うから。定点観測みたいに毎回同じ曲を聴いていると、前回はこうだったけど今日はこうだった、みたいに違ってることに気付くんだ。なんで同じ曲なのに毎回違って感じるんだろう、って。でもそれはね、その時その時の僕の気分が違うからなんだけどね(笑)。

水野そうですよね(笑)。どこでピークが来るかはその日によって違いますよね。

大野そうそう、違う違う。同じなわけがない。でも、毎回違うものになってしまうものをメンバーで合わせるというのは、これは全員が能力を鍛えている人同士じゃないとできない。

水野はい。

大野うちのルパンティックの7人編成のバンドでも、本番の日とかリハーサルしないから。

水野出た。

一同 (笑)

大野リハーサルすると、みんなつまらなくなっちゃう。だから、線(配線)がちゃんとつながっているかのチェックしかしないの。
だから、その日にやるレパートリーは一切やらない。

水野でも、これはほんとに、レコーディングで素晴らしいセッションミュージシャンの皆さんに集まっていただくときとか、あまり無駄に多くのテイク数を重ねないほうがいいんだなっていうのは、経験的にも思います。むしろ、その場の空気とか、テンションをどう素敵なものにするかのほうに気を使うというか。
そもそも演奏は完ぺきにされる方々なので、そこについては何も不安はないんですよね。でも、演奏する手前の何秒前かとかにパッと声をかけて「これ、こういう曲なんですよね」って一言残すかどうかで、できあがりの空気が全然違うとか。そういう経験は、僕みたいな未熟なレベルでもあります。すごいセッションミュージシャンの方々ほど、そのときの温度感を忠実に受け取ってくださるというか。

大野これはね、人間ってすごいんだよ、人って。感じとる。
機械は絶対そんなことをしてくれないからね(笑)。
人間って、それがたとえ決めフレーズでもわかるの。同じフレーズでも、やっていると、あ、今日違うな、ってわかる。たぶん、熱量が出てる。互いにそれを感じとるんだよね。で、ジャズの世界でいうと、感じとって、じゃあどうするのかってなる。熱量を感じて、単純にクレッシェンドするだけじゃなくて、お前がそう行くんだったら、逆におれはちっちゃく叩くわ、みたいな。上に行くか、下に行くか、斜め下に行くか。いっぱい対応の仕方があるわけでしょ?

水野はいはい。

大野そういうことへの技とか、選択肢をいっぱい持っている人っていうのは演奏がどっちの方向へ向かっても大丈夫だよね。いっぱい引き出しを持っている人は、何が来ても「おう、それが来たか」って対応しちゃう。たとえば5つぐらい選択肢を持っている人であれば、5までは対応できるわけ。でも、1つしか持ってない人はそれしかない。何が来ようが、それしかできないでしょ。

水野はい(笑)。

大野選択肢をたくさんもっていて、なんでも対応できる。そういう人の集まりみたいなバンドになると「合っちゃった」ってときに、そのすごさに気が付くんだよね。

水野人間の会話ですね。互いのことを、聴かなきゃいけないし。

大野人間っていうのは、ちゃんと一種のテレパシーというか、念力みたいなものが出てるんだろうね(笑)。

水野でも、それを酌み交わした会話によって、展開がわからなくなっている演奏のほうが面白いものなんでしょうね。あらかじめAさんが話したらBさんが必ずこう答えます、みたいな決まり事がある演奏よりも。

大野決まり事ね。でもね、決まり事がね、ないんだけど、あるんですよ。ある意味では。

水野禅問答(笑)。

大野互いのことを聴いて答えるっていう決まり事ね。じゃないと、どんなに良い演奏をしても、お互いが殺し合っちゃうことがあるわけね。
すごいプレーヤーが5人全員そろいましたから、すごい演奏になりますよ、とは限らない。相性みたいなことでさ、いまいち他人の話を聞けない人もいるわけ。「おれが、おれが」っていう人が5人集まっても駄目なの。
いや、もちろん、ある瞬間すごいことになるかもしれないよ。奇跡的に「おれが、おれが」がうまくマッチしたときはね。でも、ほぼそうはいかない。
そうすると、聴き上手的な人もなかにはいなきゃならない。これね、異常に聴き方がうまいって人がいるんだよ(笑)。あと、盛り上げ役みたいな人とかね。「おれが、おれが」のプレーヤーがいても、かたわらにそういう盛り上げ役タイプの人も入っているバンドっていうのは、人気バンドになりやすい。オールスターメンバーでやったからって、良いものになるわけじゃないから。

水野4番バッターだけ集めても駄目だと?

大野ああ、駄目、駄目!

水野まさにルパンのなかの、キャラクターたちみたいですね。個性をそれぞれ生かしていて。

大野そういう意味で考えていくと、クールダウンさせる役目を担うのがシンセサイザーなのかも。打ち込み的なもの、ということね。ある意味、今の時代感覚で言えば、人間だけでやると暑苦しいみたいな感じになるでしょ。そんなときに、あいつは一切忖度(そんたく)もしないし余計なこと何もしない、ひとたび誰かがプログラムを打ち込んだら、最初から最後まで間違えないでそれしかやらない、みたいな(笑)。

一同 (笑)

水野他がどんなテンションであろうと……(笑)。

大野これは、うまく使うとすごく有効になるんだよ。

水野例えば、アナログシンセで同じ周波数のロングトーンがガーッと流れていても、そこを軸にしてみんなが動くわけですね。

大野そうそう。ひとりくらい、おもいっきり鈍感なヤツがいてくれると助かるんだよ。他が何やっても、変わらない。

(つづきます)

大野雄二(おおの・ゆうじ)
1941年生まれ。ジャズピアニスト、作曲家、編曲家。
小学校でピアノを始め、高校時代にジャズを独学で学ぶ。
藤家虹二クインテットでジャズピアニストとして
キャリアをスタートしたのち、作曲家としても活動。
CM音楽のほか、「犬神家の一族」「人間の証明」
「ルパン三世」「大追跡」などの映画やテレビの音楽も手がけ、
数多くの名曲を生み出している。
近年は再びプレーヤーとしても活動し、都内ジャズクラブから全国ホール公演、
ライブハウス、ロックフェスまで積極的にライブを行う。
オフィシャルHP
オフィシャルTwitter

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Yoshiki Mizuno
Hair & Make/Yumiko Sano

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