2019.12.26
TALK

水野良樹×Sano ibuki Part 1
文字だけではなく、メロディでも
景色を伝えることが僕には重要

今年11月にメジャーデビュー作となる
待望の1stフルアルバム「STORY TELLER」をリリースし、
注目を集めているシンガーソングライターのSano ibukiさん。
J-WAVE「SPARK」で3週にわたってオンエアした対談の模様を
HIROBA編集版としてお届けします。

Part 1 文字だけではなく、メロディでも景色を伝えることが僕には重要

水野「SPARK HIROBA」第3回目の対談相手に、この方をお迎えしました。

Sanoこんばんは、Sano ibukiです。

水野やっとスタジオにお呼びできました。

Sanoありがとうございます!お久しぶりです。

水野お久しぶりです、そうですよね。約1年半前の「TOKYO M.A.P.S 」というJ-WAVEと六本木ヒルズのイベントに出演いただいて、素晴らしい演奏を聴かせていただきました。

※注釈:「TOKYO M.A.P.S 」 2008年から開催されているJ-WAVEと六本木ヒルズ主催によるフリーライブイベント。2018年は「TOKYO M.A.P.S YOSHIKI MIZUNO EDITION」として水野がプログラムオーガナイザーを務めた。

Sano後にも先にもいちばん緊張したライブでした(笑)。

水野あ、本当ですか⁉︎トリ前に歌ってもらったんですよね。

Sanoそうです、ありがたいことに。

水野ちょうど夕方の暗くなりかけた頃にSanoさんの声が合うと思ったんですよ。

Sanoすごくうれしかったです。僕自身に昼間のイメージがあまりないので、すごくいいところで出していただけたなと。でも緊張しましたね…(笑)。

水野しかも他の出演者はバンドが多くて。

Sanoそうでしたね。

水野歌いづらいところもあったかもしれませんね。

Sanoいえいえ。

水野そのあともSanoさんの作品はこのSPARKでもよくかけさせていただいて。

Sanoありがとうございます。

水野今回は、3回にわたってお話を伺っていこうと思います。

Sanoはい。

水野11月にアルバム「STORY TELLER」でメジャーデビューされました。実感はありますか?

Sano実感は…そんなになくて。

水野そうですよね。その前から作品を出していたし、僕が出演していた「SONAR MUSIC」でもSanoさんの「魔法」がよくオンエアされていましたからね。

Sanoそうですね。

水野今回のアルバムはどのくらいの期間をかけてつくられたんですか?

Sano曲づくりという部分で言えば、高校生の頃とかすごく前からあったカケラをもとにつくったものもあります。基本的には1stミニアルバムの「EMBLEM」とほぼ同時期に、2年くらいかけてつくった感じですね。

水野僕らが過ごしている数年間と比べて、Sanoさんが過ごしている数年間のほうが変化が大きいような気がしますが、どうですか?

Sanoどうでしょう。主軸は曲をつくることに変わりはないですし、そんなにライブをやっているわけでもないので、「淡々と過ぎていくな」という感覚がありますね。

水野歌詞の言葉に変化などはないですか?

Sano自分自身から出てくる言葉という点で、昔よりも直接的な言葉を使うようになりました。

水野ああ、そうなんだ!シンプルな言葉を選ぶようになったんですか?

Sano昔なら避けていた言葉というか。ダイレクトすぎる言葉に抵抗があって。

水野確かに。歌詞の雰囲気も、そんなイメージはありました。

Sano今でもダイレクトな言葉は、好きか嫌いかで言えば好きではないですが、ある程度許容できるようになったというか。

水野何が違うんだろう。聴く人の反応で変わったみたいなことですか?

Sanoというよりも、もしかしたら周りの環境の変化ということかもしれないですね。

水野うーん。

Sanoメジャーデビューもして「よりキャッチーになりたい」というか。

水野あ、そうなんだ。

Sanoはい。普遍的になりたいという思いがあるので。

水野はいはい。

Sanoよりダイレクトな言葉のほうが響くなと感じて、そこから変わっていったかもしれません。

水野いろんなミュージシャンとセッションすることで、サウンド自体も変化していくじゃないですか。そこで受ける刺激はありますか?

Sanoアレンジャーの方々と一緒に作業するなかで「あ、こんな音に仕上げてもらったんだ」と思うと「じゃあ、今度はこんな音もお願いしたい」と、どんどん広がっていって。

水野なるほど。

Sano逆に「この曲はこっちのイメージになったのか」ということもありますが、自分の頭のなかである程度のバッファをもって「こんな形になったらいいな」というイメージのもとでお願いしているので、音による刺激というのはまだ少ないかもしれないですね。

水野そうか。声がしっかりしているから…機軸がしっかりしているのかな。

Sano特に音楽においては「なんでもやりたい」という思いがあるので。

水野そうかそうか。

Sano刺激がないということではなく、もともと自由に考えているんだと思います。

水野それは意外だなぁ。

Sanoそうですか?

水野ストイックというか、良くも悪くも自分の世界で表現する感じだと思っていたから。でもこの数年間でどんどん視野とインプットを広げて、自分の表現に落とし込んでいるんだなと思いました。

Sano僕は自分ではSano ibukiというプロジェクトみたいなものだと思っています。それをコアなものにしたくないですし、よりキャッチーなものにするためには自分ひとりではやらない。制作するスタッフの輪も広がるように意識はしていますね。

水野キャッチーであることに惹かれるのはなぜでしょう。何を褒められるのがいちばんうれしいですか?

Sanoそうですね…例えば曲を聴いた人に「自分が歩く散歩道をイメージした」とか、「何気ない瞬間にリンクした」と言われることがすごくうれしくて。

水野なるほど。

Sano僕もよく散歩して曲をつくるんですが、そういうときに流れる曲はカッコよすぎてもダメだし、オシャレすぎてもダメで。尖りすぎている音楽って意外とハマらないんですよね。

水野わかります。

Sanoやっぱり落ち着く何か、耳に残る何かがないといけないので。

水野日常にうまくフィットするものって、すごく難しい塩梅ですよね(笑)。

Sanoそうですよね。やっぱり極限までいっちゃダメっていうこともありますし。

水野はいはい。

Sanoもちろん、極限の良さもあるんでしょうけど。どこを目指すのかという部分で「よりキャッチーに」ということを意識しています。

水野そうか。ちょっと話題が変わりますが、曲をつくるのにまずストーリーから考えるということを伺いました。曲づくりのスタートラインは物語をつくるような感じなんですか?

Sano最初にタイトルから考えますね。

水野タイトルからかぁ、おもしろい。

Sanoそこからタイトルに合うストーリーをつくって、キャラクターをつくって、プロットもしっかりある状態で、より物語を深くして…。

水野小説家みたいですね。

Sanoははは(笑)。

水野なんとなく、あらすじというか。

Sanoそうですね。ある程度読めるものをつくった状態にして、曲に落とし込みますね。

水野おもしろい。じゃあ、詞先か曲先で言うとどっちが早いですか?

Sanoメロディに関しては、散歩しながら鼻歌でつくっていることも多いので。

水野それをうまくドッキングさせていくような?

Sanoそうですね。けっこう別作業で進めていることが多いですね。

水野別なのか。

Sanoメロディをつくったときに「なんとなく晴れっぽいな」とかってあるじゃないですか。

水野わかります。メロディが呼ぶ世界観ね。

Sanoそうです。そういう世界観に合ったストーリーがあったかなと探して…。

水野いやぁ、おもしろい!歌詞のためにメモを取ってる人は今までに何人も会ったことはあるんですよ。でも、あらすじを用意してますっていうのは少ないような気がするな。

Sanoそうですか。主人公以外のキャラクターの調査書も全部つくっていて。血液型、好きな食べ物とか。

水野それは歌詞に落とし込むことはない背景の情報ということか。

Sanoはい。周りの風景も全部書いて。「このサブキャラがおもしろかったから主人公にしてみようかな」とか、「それならこのメロディと合わせようかな」とか。

水野それはおもしろいですね。

Sano「この景色を伝えたいから、この景色で感動させたい」という思いが主軸にあります。ただの景色ではなく、そこにちゃんと人がいて、人の心があって、というように広がって三次元、四次元になっていくような感覚がストーリーをつくることで明確になるんですよね。

水野歌詞を書くときに「映像を思い浮かべる」ということをよく言いますが、映像はどちらかというと二次元じゃないですか。そうではなくて、実際にそれぞれのキャラクターが人格を持っていて、人間関係があって、ドラマが生まれるという生々しいリアルなことをSanoさんは想像していて、しっかり歌に落とし込まれているんですよね。

Sanoそうですね。

水野小説を書こうとは思わないですか?なぜ歌にするのでしょう?

Sano学生時代にいろいろと模索していたという経験がありますが、そのなかで「魔法」のように自分の枠を飛び越えていく感覚に気づけたことが大きいですね。

水野なるほど。

Sano文字だけではなく、メロディでも景色を伝えることが僕には重要なんだなと。

水野他の人に伝わるという点で、音楽がいちばん強いと。

Sanoそうですね。

水野誰かに聴いてもらいたい、誰かに理解されたいという気持ちは強いんですか?

Sano届けたいというか。例えば空を見て「きれいだな」と泣いてしまったときに、ただきれいだから泣いてしまったわけじゃないですよね。

水野はい。

Sano悲しかったり、うれしかったり、何かの感情にリンクして涙を流す。

水野そうですね。

Sano同じ思いをしている人はどこかに必ずいるんじゃないかなと思うと、届けたくなるというか。この景色に合うテーマ曲が自分の曲だったらうれしいなと。

水野そうか。例えば僕の曲の話で恐縮なんですけど、「ありがとう」ってデカい言葉じゃないですか。

Sanoそうですね。

水野デカい言葉というのは、どういう意味にも取れてしまう。ちょっとジュースを取ってもらったときの軽い「ありがとう」にも使うし、死に別れのときの「今まで本当にありがとう」という重い「ありがとう」にも使う。それぞれの「ありがとう」は別々の「ありがとう」じゃないですか。

Sanoわかります。

水野空を見て「美しい」と思うときも、Sanoさんが感じる「美しい」と、僕が感じる「美しい」とは全く違う感情なんですね、厳密には。それぞれに合う曲が本当はあるはずだけど、僕はそれをつくりきれないので、逆にどの感情にも合う器を用意したいというか。

Sano小さくても大きくても大丈夫なように、広くということですよね。

水野はい。Sanoさんもそれを違う手法で表現していると思うんですが、目的は同じなのかなと。

Sano僕もただその景色をつくりたいだけではないんですよ。それなら小説を書けばいいので。

水野はいはい。

Sanoそれをあえて音楽にしているということは、広げているということなんですよね。器を大きくする作業を、音や歌詞でにじませて広げていくというか。

水野なるほど。これはけっこう深いところでの共通点が見つかった気がしますね。

Sanoいやぁ、ほんとですね。

水野色にしても同じ「青」を見ていない気がするんですよね。

Sanoああ、わかります。

水野それはある意味、孤独でもある。

Sanoそうですよね。

水野僕が見ている「青」と他の人が見ている「青」は違っているけど、どうにかしてその孤独な状況を共有したいという気持ちがあるのかもしれないですよね。

Sano僕は普段はコンタクトレンズもメガネも使っていなくて、にじんだ世界を見ています。当然、僕よりも視力がいい人も悪い人もいて、同じ景色でもそれぞれに見えているものは違いますよね。人間ひとりひとりが感じるものは絶対に同じものはないはずなんですよね。

水野そうですよね。

Sanoただ、それを同じ言葉でまとめる上でどこを重視するか…難しいというか、深いですよね。

水野いやぁ、本当に。そこに向かっていくことに、つくることの意味があるのかもしれないですね。

(つづきます)

Sano ibuki(さの・いぶき)
シンガーソングライター。
2017年、本格的なライブ活動を開始。
自主制作音源「魔法」がTOWER RECORDS
新宿店バイヤーの耳に留まり同年12月に
同店限定シングルとして急遽CD化され、注目を集める。
2019年11月にデビューアルバム「STORY TELLER」をリリース。
公開中の映画「ぼくらの7日間戦争」主題歌の「決戦前夜」、
2020年1月24日(金)より公開の映画「his」の主題歌「マリアロード」も
収録されたアルバムで早くも話題となっている。
2020年2月には東京と大阪で単独ライブ
「Sano ibuki LIVE “NOVEL”」を開催する。
Sano ibukiオフィシャルサイト
Sano ibuki Twitter
Sano ibuki Instagram

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa

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