2019.12.27
TALK

水野良樹×Sano ibuki Part 2
主人公に自分の意志や思いを
しっかり託す

今年11月にメジャーデビュー作となる
待望の1stフルアルバム「STORY TELLER」をリリースし、
注目を集めているシンガーソングライターのSano ibukiさん。
J-WAVE「SPARK」で3週にわたってオンエアした対談の模様を
HIROBA編集版としてお届けします。

Part 2 主人公に自分の意志や思いをしっかり託す

水野Sanoさんから僕に聞きたいことがあるということで。なんでも答えますよ(笑)。

Sanoありがとうございます。もっとポップな質問を用意したらよかったかな(笑)。

水野なんでしょう。

Sano僕は友達があまりいないんですよ。

水野よくわかります。僕もそうです。

Sanoだからこそ、その友達は本当に大切に思えるんですが、水野さんにとっての友達の定義とはなんでしょうか?

水野定義かぁ(笑)。いや、僕もほんとに友達いなくて…(数秒の沈黙)。うーん、ほんとにいないですね。

Sanoそんな、「うーん」ってなるほどですか?

水野定義づけるのはすごく難しいですけど、こういうときに「友達です」と紹介できる人が友達だなと思います。

Sanoああ!

水野自分とつながりがあるということを表立って言っても許されるというか…これ、すごくさみしい話だな…(笑)。

Sano信頼あってこそということですね。

水野そうですね。いや、難しいですねぇ。でも、存在を許してくれるのはうれしいし、すごく大事ですよね。

Sanoそうですよね。人間誰しも孤独ですからね。

水野そう、そうなんですよ。それをいつも思っていて。友達というワードから家族に話を広げるとね。

Sanoはい。

水野僕は結婚して子供も生まれて、家族ってすごいなって思うのは「僕の妻です、僕の息子です」って言うじゃないですか。そのつながりは社会にとって太いですよね。

Sano明らかに太いですよね。

水野僕も息子との関係に対しては当然「この子の父親です」と自己紹介をする。つまり、自分のパーソナリティとして息子とのつながりを明言する。その行為は信頼していないとできないことですよね。これは友達という関係においても言えることだと思うんです。

Sanoわかります。お互いに許し合っているところ、見せ合えるところがあるということは、友達の定義のひとつかもしれませんね。

水野普段、友達の定義について考えることはありますか?

Sano友達が少ないからこそ、人といることがどんどん苦手になっていって…。

水野いや、すごくわかりますよ(大きく頷く)。

Sano(笑)人と会っていて「じゃあ!」と別れたあとに、ものすごく疲れることが多くて。

水野はいはい。

Sanoそう考えると、バイバイしたあとに“さみしくなっちゃう相手”が友達なのかなと。

水野おお!キュンキュンしちゃうよ(笑)。

Sanoそう思える人ってすごく少ないですよね。

水野そうですよね。

Sanoもちろん家族もそうじゃないですか。僕は岐阜出身で、たまに実家に帰って東京に戻ってくるときに…。

水野軽いホームシックというか。

Sanoはい、帰りの電車のなかで「もう少しいたかったなぁ」とさみしくなったり。別れたあとに「もう一度会いたい」という気持ちになることが、友達の定義のひとつなのかなと思いますね。

水野人間って…ほんとに孤独なんですよ。HIROBAをやっていても「わかり合えない」ということが基本の考え方としてあって。

Sanoそうなんですか?

水野はい。たぶん、個別の人と人はわかり合えないだろうと。でももうひとつ同じく基本にしている考え方があって「わかり合えないことに耐えられるほど、人間は強くない」という。

Sanoああ、そうですね。

水野やっぱり、人間には「わかり合いたい」「自分の存在を認めてほしい」という欲求がある。

Sanoはい。

水野それは僕だけではなく、わかり合えない他者の側も思っていて、そのふたつをつなぐ行動が「平和」「友情」「愛」といった言葉を生み出すきっかけになるんじゃないかと。

Sanoああ、なるほど。

水野例えば、いきものがかりのメンバーと20年ずっと一緒にいて、さすがにケンカすることもあるし、「こいつのここが嫌だな」と思うことももちろんある。

Sanoそうですよね。

水野たぶん、解散するタイミングもいくらでもあって。

Sanoえ!そうなんですか?

水野20年もやってるとね。

Sanoああ。

水野だけど、結果的には解散していない。

Sanoそうですよね。

水野「やっぱり、こいつらと一緒にやりたい」「もうちょっと一緒にやったら、おもしろいものがつくれるかもな」という決断をメンバーそれぞれがしてきた。

Sanoはい。

水野わかり合えないけど、わかり合おうとしてきたことの連続がこの20年なんですよね。

Sanoなるほど。

水野それがたぶん、友達の定義として正しいかはわからないけど、つながりということなのかな。

Sanoそうですね。

水野Sanoさんも曲をつくっていて、その曲が届かない瞬間もたくさんありますよね。

Sanoはい。

水野だけど、「届けたい」「理解してほしい」という気持ちが続いているから、曲をつくっていると思うんですよね。

Sano確かに。あまり自分で「伝えたい」と実感する場面って多くはないと思うんですが、例えば顔を見合わせたときだとかは、物理的な距離ではなく心の距離として、常に「近づきたい」「1対1でいたい」と思うんですよね。

水野はい。

Sanoそれはまさに「つながっていたい」と願う気持ちのひとつですよね。

水野いやぁ、そうですよね。

水野それでは、もうひとつ質問をいただきましょうか。

Sano僕は最近ラジオに出演させていただくことが増えたのですが、そのときに「夢はなんですか?」という質問が…。

水野聞かれますよね。

Sanoありがたいんですが、どう答えようかなと思ってしまう質問のひとつで。

水野困りますよね。

Sano水野さんにとっての夢はありますか?

水野その時々で、だんだん変わってくるし…。

Sanoそうですよね。

水野どう答えていますか?

Sano僕は…めちゃくちゃごまかしてます(笑)。

水野(笑)ラジオやっていてなんだけど、例えば「日本武道館でライブをしたい」とか、わかりやすい到達点を要求されることが多いですよね。

Sanoそうですよね。

水野でも、実際はそんなこともないじゃないですか。

Sanoはい。

水野もちろん、大きなライブハウスで演ってみたいとか、わかりやすい夢も素敵だけど。

Sano難しいですよね。僕は夢という言葉が苦手なところがあって。

水野はい。

Sanoどこかでちょっと寝て見るものだろうと。

水野(爆笑)大好き!

Sano同じ字を書くんだから、寝て見るものなんじゃないかなと。

水野(笑)いい!

Sanoエジプトに行きたい、とか。

水野なるほど。

Sano石油王になりたい、とか。

水野そっちね(笑)。

Sanoほんとに夢なので。逆に、そういう類ではないことを言うのがちょっと怖いというか。

水野ああ、叶わないもの、実現不可能なことになってしまうのが怖いということか。

Sanoそうなんです。

水野うーん、夢か…もうちょっとうまく生きたいなと(笑)。

Sano(笑)

水野急に真面目な話になりますけど、息子が生まれたことが大きくて。

Sanoはい。

水野当たり前だけど、自分の人生についてばかり考えてきた時間が長いわけじゃないですか。

Sanoそうですよね。

水野これまでは「死んだら終わりです」。だから「そこまでにどれだけ人を愛せるか」「どれだけ今を大切にできるか」といった枠組で曲を書くことが多かったんですね。

Sanoはい。

水野ところが息子が生まれて「俺が死んだあとも、あるな」と気づいた。

Sanoああ、なるほど!

水野そう考えていくとね、「あ、俺も誰かが死んだあとなんだな」という考えに至るんですね。いろんな人の思いを多かれ少なかれ自分も受けていて。「そうか、残される人の人生もあるんだな」と思ったときに世界が広がって。

Sanoはい。

水野あと、曲は死んだあとも残るじゃないですか。

Sanoそうですね。

水野僕らが聴いている名曲やスタンダードナンバーは半分くらいが死んだ人の曲ですよね。

Sanoわかります。

水野それはものすごくロマンがあるなと。彼らは僕らが生まれたことも気づいていなくて…。

Sanoはい。

水野自分が死んだあとに曲が聴かれていることを想像もしていなくて。

Sanoそうですよね。

水野だけど、彼らのつくった曲が僕らに大きな影響を与えている。もしかしたら僕も頑張っていい曲をつくっていければ、自分が死んだあとに想像もしていなかったような遠いところ、それは僕らが死んだあとに生まれる人も含めて、そこまで届く可能性もある。そう考えるとめちゃくちゃロマンがあるなと。

Sanoいやぁ、ほんとですね。命のバトンというか。

水野そうそうそう!直接的に書いているつもりはないけど、歌にはどんな書き方をしていても自分の価値観がにじみ出て。

Sano意志というか。

水野そうです。それが伝わっていくんじゃないかと。

Sanoうーん。

水野かっこいい言い方をすると、それが夢というか。そういう意味では、僕は自分よりも曲のほうをだいぶ信じているんですよ。

Sano曲に託しているものが大きいというか。

水野そうですね。曲は裏切ることがないというか。

Sanoなるほど。

水野曲に対して託すのは、どうですか?

Sanoめちゃくちゃ、あります。

水野ははは(笑)。

Sano僕は主人公を立てて曲をつくっていますが、その主人公に自分の意志や思いをしっかり託します。

水野はい、入っていますよね。

Sano自分が見たものじゃないものを見せることは、できないじゃないですか。

水野はいはい。

Sanoファンタジーの世界を描くとしても、自分が見た世界を掛け合わせてガッチャンコしてつくっていくというか。

水野なるほど。

Sano見ていないものは嘘になっちゃうから。ちゃんと意志を持った主人公が動いてくれることによって、自分というものがちゃんと表現されていく感覚があるんですよね。

水野ああ、おもしろいですね。

Sano違う人間なわけじゃないですか。

水野一応、虚構なんだけどね。

Sanoそうなんですよ!違う人間だけど、勝手に主人公が動き出してくれることによって、「ああ、僕がこうやって動くことがあるのかもしれないな」とどこかで思う部分もあって。

水野なるほど。

Sanoそういう思いが曲を聴く人に伝わってほしいし、「自分もこうやって動き出せるかもしれない」と誰かに思ってもらいたいんですよね。

水野すごいねぇ。僕は、虚構のほうが人間性が出ると思っていて。

Sanoはい。

水野シンガーソングライターとか曲をつくっている人間って「リアルなものを出せ」って言われがちじゃないですか。

Sanoそうですね。

水野ありのままの自分というような。

Sanoはい。

水野僕ね、言葉ってリアルな人間に対して足りないものだと思うんですよ。

Sanoわかります。すごくよくわかります。

水野解像度にはどうしても限界があるというか。例えば僕が「痛い!」と感じて「痛い!」という言葉を発したとしても、感じている痛みは表現しきれていなくて。

Sanoはい。

水野自分という存在よりも小さい存在になってしまいがちだと思うんです。だけど、虚構はそれを超えられるというか。

Sanoうーん。

水野リアルな複雑で混濁している人間というものを、虚構のほうが表してくれやすい。

Sanoそうですね。例えば喋るときに「ありがとう」という言葉ひとつとっても「ありがとう」と伝わらないな、ということがありますよね。

水野(笑)そうそう!

Sano「ありがとう」と100回言わないといけないくらいの「ありがとう」をもってしても伝わらないこともあるし、逆に「ありがとう」を言うほどでもないなというときもあるじゃないですか。

水野わかる!

Sanoそういうニュアンスも曲の景色と一緒に伝えると、わりと伝わるというか。

水野はい。

Sanoこのくらいの「ありがとう」なんだなというイメージが、景色とともに流れてくるじゃないですか。グッとくるというか、そういうのはありますよね。

水野これは…けっこうおもしろい話ができたんじゃないかな。まさにアルバムが「STORY TELLER」というタイトルですけど、虚構の物語をつくることによって、実は生々しい、複雑で、単純化できるはずのない、その時々の瞬間によって変化していく何かを、少しとらえていたり、そこに近づけていたり。

Sano空気みたいなこと。

水野なのかな。

(つづきます)

Sano ibuki(さの・いぶき)
シンガーソングライター。
2017年、本格的なライブ活動を開始。
自主制作音源「魔法」がTOWER RECORDS
新宿店バイヤーの耳に留まり同年12月に
同店限定シングルとして急遽CD化され、注目を集める。
2019年11月にデビューアルバム「STORY TELLER」をリリース。
公開中の映画「ぼくらの7日間戦争」主題歌の「決戦前夜」、
2020年1月24日(金)より公開の映画「his」の主題歌「マリアロード」も
収録されたアルバムで早くも話題となっている。
2020年2月には東京と大阪で単独ライブ
「Sano ibuki LIVE “NOVEL”」を開催する。
Sano ibukiオフィシャルサイト
Sano ibuki Twitter
Sano ibuki Instagram

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa

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