2020.1.30
TALK

「誰が、夢を見るのか」発売記念インタビュー Part 2
それは幸せであり、同時に過酷でもある

雑誌「Sports Graphic Number」で
水野良樹が担当している連載「Who is a dreamer?」。
これまでに綴ってきた35本のエッセイと、
特別企画としてプロボクサー村田諒太さんとの対談、
吉岡聖恵さん、高橋尚子さんとの鼎談を収録した
単行本「誰が、夢を見るのか」が1月30日に発売される。
自身初となるスポーツ・エッセイ集を手にして
語った思いを全3回にわたってお届けします。

Part 2 それは幸せであり、同時に過酷でもある

──特に印象深いエッセイはありますか?
そうですね、実は後日談があるようなものがけっこう多いんですよ。

「強く、美しく。」
2015年の紅白歌合戦で総合司会を務められた有働由美子アナウンサーについて書かせていただきました。錚々たる歌手のみなさんと観客のみなさんがいるなかで、有働さんはひとりで仕切らなければならない。すごいプレッシャーだろうなと思って舞台上から拝見していた立ち姿が本当に美しくて。後日、有働さんから「読みました」とお手紙をいただいて、ご本人にも届くんだなと勇気づけられたんですよね。

「夢をあきらめて。」
まえがきにも少し書きましたが、僕は中学校のときに野球部の顧問の先生と衝突してしまって野球をやめてしまったんです。思春期で好きなことをやめたということはわりと大きなことだった。そのことを書いて、オチとしてはそのあと音楽にのめり込んでいって、今も音楽をあきらめていないと。そうしたら当時、グラウンドの隣で練習していたラグビー部の顧問の先生がコラムを読んだらしくて「何もしてあげられなくてごめんね」といった内容の手紙をくださったんです。当時の僕の状況もその先生は知っていたけど、直接関わっている生徒ではなかったから踏み込むこともできなかったと。当時見ていてくれた人もいたんだなと救われたというか。この連載でお手紙をいただいて、こちらの思いが届くんだなと感じましたね。

「Who is a dreamer?」
「HERO。」
イチロー選手がメジャーリーグ通算3,000本安打の記録を達成されたとき(「Who is a dreamer?」、引退されたとき(HERO。」も、そのことについて書くことができました。そう考えると…ある種の時間経過というかスパンがあるのかもしれませんね。時間軸を共有できるのは、スポーツの楽しみ方のひとつでもありますよね。

「終わりという始まり。」
サッカーの大迫(勇也)選手のことを書いた「終わりという始まり。」というエッセイがあります。第87回全国高校サッカー選手権大会で、大迫選手が一大会での最多得点記録をつくったときに、いきものがかりが大会応援歌を担当していたんです。決勝の舞台で大迫選手のゴールシーンも見ましたし、その後の海外移籍、ワールドカップでの大活躍という10年くらいの時間経過をファンとして見てきたんですよね。

やっぱりスポーツ選手って永遠ではない。どんなに天才的な選手でも肉体的な衰えはある。その点では、ハンマー投げの室伏(広治)選手が印象的でしたね。

「4年の物語。」
室伏選手の投てきを生で観戦したことが2回あります。1回はロンドンオリンピック本大会。もう1回はロンドンオリンピック出場を懸けた日本選手権。大阪の長居陸上競技場で行われた大会でしたが、国内では敵なしという強さで勝つのは当たり前という状況。素人目に見ても、まるでトレーニングの一環のような雰囲気で圧勝して、18連覇を達成された。でも、そんな選手も引退する。無双を誇った日本選手権でさえ勝てなくなって。あれだけすごい選手でも衰えはあって次の世代に譲り渡さないといけないときがくる。

「同い年の英雄。」
北島康介選手が引退したときのことも書いています。北島選手は同い年。彼が登場したときは「すごい人が現れたな」と勇気づけられたことを覚えています。僕たちの世代は、凶悪犯罪を起こしてしまった少年がいたり、どこか暗い影があったんですね。それが北島選手の登場によって一気に明るくなったというか。ただ、若者の代表だった人も当然ながら年を重ねて、後輩が出てくる。後輩が彼を追いかけて、さらに引っ張るようになるという世代交代が行われていく。同世代としては刺激も受けたし、「自分も年齢も重ねてきたな」という指標になりました。

──スポーツは肉体的な衰えがあって引退という道を選ぶときが訪れますが、音楽には引退がありません。むしろ年を重ねたからこそ、経験を積んだからこそできることが増えますよね。
その通りですね。小田(和正)さんのことも書かせていただきました(「夢のマッチメイク。」)。小田さんは70歳を超えても最前線で試合をしている。本当にすごいことですよね。例えば、往年の名選手が始球式に出たとしても、それはデモンストレーションじゃないですか。昔みたいに速いボールを投げられるわけはない、それは当然のことです。でも、音楽の世界だといまだに140キロ出て、なんなら球種が増えているなんてこともありますからね。そう考えると幸せな世界ですよね。オールスターゲームに出て、長嶋(茂雄)選手や王(貞治)選手と一緒にプレーしたとしても、それはあくまでデモンストレーションです。僕らの場合は本当に真剣勝負で、同じグラウンドに小田さんや(根本)要さんといった何十年も活躍している選手がいて、一緒にプレーすることができる。それは幸せであり、同時に過酷でもある。そこは肉体的な限界が表れやすいスポーツとの差かもしれませんね。一方では引退ができるってうらやましいなって思うこともあります。僕らの場合は区切りが付くようで付かない。その難しさがあるかもしれないですね。

(つづきます)

誰が、夢を見るのか
定価:本体1,400円+税
発売日:2020年01月30日
発行:文藝春秋

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa

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