2020.1.31
TALK

「誰が、夢を見るのか」発売記念インタビュー Part 3
書くことで救われた

雑誌「Sports Graphic Number」で
水野良樹が担当している連載「Who is a dreamer?」。
これまでに綴ってきた35本のエッセイと、
特別企画としてプロボクサー村田諒太さんとの対談、
吉岡聖恵さん、高橋尚子さんとの鼎談を収録した
単行本「誰が、夢を見るのか」が1月30日に発売される。
自身初となるスポーツ・エッセイ集を手にして
語った思いを全3回にわたってお届けします。

Part 3 書くことで救われた

──この本には水野さんをはじめ、いろんな人の時間経過が刻まれている。ある種の定点観測のような感じもありますね。
かもしれないですね。面白いですね。わりと本音に近いところが出ていますし、肩肘張って…初めての連載なので当然ですが一生懸命書いてきましたしね。まだスポーツと腐れ縁が続いているというか、こんなにスポーツに救われると思っていなかったですからね。

連載でも書きましたが、いきものがかりというグループもデビュー曲の「SAKURA」がWBC中継の合間にCMで流れたことが、多くの人に知っていただくきっかけになりましたし、ロンドンオリンピック・パラリンピックの放送テーマソングも担当させていただきました。節目節目でそういう縁があるんですよね。スポーツ雑誌で連載を持たせていただけたことは…不思議ですよね。

そのおかげで普段ならお会いする機会がないであろう村田諒太さんや高橋尚子さんにもお話を伺えましたからね。

──村田さんは「他者満足と自己満足について」といった非常に深いお話をされていました。
クレバーな方でしたね。自分の価値がどのようにしてつくられてきたか。そこに対して周囲の人への感謝をしっかり持っている。自分ひとりの努力ではなくチームプレーによって成立していることへの意識の高さ。そこは本当に学ばせていただく部分ですよね。その上で、「きれいごとだけではない」とはっきりおっしゃる。自分に対して厳しい視線を投げかけて、自分にも欲望があることを踏まえてリングに立っている。だからこそ結果を出しつづけていると思うんですよね。

村田選手はボクシングをやめようとしたタイミングが何度かあるけど、その時々の理由によってリングに戻ってきている。それはご自身の意志によって戦いつづけているということ。そこに勇気づけられるんですよね。天才的な選手や偉大な選手はそのスポーツと運命づけられていて、計り知れない縁で結びついているように思いがちですけど、村田選手の経緯を知ると、そこには意志があってその上で結果を残している。僕らも自分たちの仕事や好きなことに向き合うときに、意志を持って挑めば何かしらの結果がついてくるかもしれないという勇気をもらえますよね。

──「他者との関わりのなかでの自分」というお話も、水野さんが考えていることと通じていて印象的でした。
そうですね。やっぱり聴いてくれる人がいなかったら、感覚は変わってくるでしょうね。そこに他者の視点があるかどうかというのは共感できますよね。「この曲、誰にも聴かれないものだけど」と言われたら何をヒントにどこからつくったらいいか、わからないですもんね。曲をつくること自体が楽しいとはいっても、分かち難いものとして、その先にいる他者を意識しているということかもしれないですね。他のアーティストに曲を提供して、気に入っていただけたと知っただけでもかなり救われますからね。喜んでもらえたということは大きなものなんですね。

──高橋尚子さんは本当に明るくて、太陽のような方でしたね。
いやぁ、本当に。高橋さんがいるだけで、そこにいるみんながニコニコしちゃうというか。グループとしては聖恵にも一緒に話を聞いてもらえてよかったと思っています。高橋さんと聖恵を比べるのもおこがましいですが、聖恵も同じような部分があって、いるだけでパッとその場が明るくなるんですよね。真ん中に立つ人、誰かに応援されるべき人、みんなの期待を背負う人は、少なからずそういう部分がないといけないと思っていて、それは誰もが持っているものでもない。じゃあ、頑張って培えるのかというとそんな気もしない。

高橋さんも誰かに愛されて、「高橋尚子という選手のためなら頑張れる」とみんなが思わないと、あれだけの結果は出せないと思うんですよ。トレーニングに対して厳しい要求をしなくてはならないということも重々わかるけど、実際にやるとなったらスタッフの方々は大変だろうなと。彼女のために頑張ろうと思えるのは、それだけの魅力がないとやっぱり難しいですよね。撮影とインタビューで2、3時間一緒にいただけでもなんか惹かれてしまうというか、不思議な引力がありましたね。家に帰ってからも家族に「すごく素敵な人だったよ」と話したくなってしまうし。

ああいった人間的な魅力って誰もが持っているわけではないから、仮に同じくらいの実力を持った選手がいたとして、あの眩しさに勝てなくて悔しい思いをした人もたくさんいたと思うんですよね。プロ選手の競争の細部までは僕らは見えないですけど、あそこまですごいレベルになると「あとどれだけ周りの力を巻き込めるか」といった競争になるような気がします。最後にはそこが勝負を分ける。

同じチームにいても聖恵の人間的な魅力に惹かれて認められることもあります。僕は聖恵の隣にいるからこそ、影の部分もわかるというか。

例えば大迫選手くらいの実力がある選手もいろんな世代にいたと思うんですけど、純粋なプレーの実力だけでは培えない部分もあって、そこで悔しい思いをした人もいただろうなと。それもスポーツのドラマのひとつですよね。トップレベルで敗れていった選手もたくさんいる。とてつもない努力を積み重ねて舞台に立ったけど、スポットライトを浴びることなく、その道をあきらめて違う道に進むという人がほとんどですよね。そういうことも、真ん中にいない僕だからこそ書けることかなと思います。

──連載の書籍化は「小躍りしたいくらいうれしい」とTweetしていましたが、「いきものがたり」が書籍になったときとは違う感覚ですか?
違う感覚ですね。4年半という年数もありますしね。この連載があったからこその出会いもありますし、思わぬところで「連載を読んでいます」と言っていただけるのは本当にうれしいですね。

もちろん、「いきものがたり」を読んでいただけることもうれしいですし、書籍になったときの喜びもありました。いきものがかりのメンバー3人、さらに関わってくださるスタッフのみなさんがいて、あの壮大な物語は自分たちの物語のようで自分たちの物語ではないというか。いろんな方々がいたおかげなので、自分のものではないという感覚があって。

この「誰が、夢を見るのか」もスポーツ選手のことを書かせていただいているので、自分の物語ではないですが、もう少し自分に近い部分ということで、違った喜びがありますね。文章を書かせていただくきっかけにもなっていますし、本当に感謝しています。

ちょうどこの連載を始めたころは、グループとして10周年を迎えるタイミングだったんです。もちろん外には出していないですけど、このまま同じことを繰り返していいのかと自分のなかで思い悩みはじめた時期でもあったので、この連載を書くことで救われた部分がすごくあるんですよね。違った部分に視野を向けるというか。書くという作業で救われましたね。新しい刺激をいただける、自分の本音に近い部分を書かせていただける場所をもらって、何か新しい扉を開かせてもらえた。グループの放牧(活動休止)中に自分ひとりで、違う場所で、違うことをやったということでは、この連載と、J-WAVEの「SONAR MUSIC」という番組に救われましたね。

──救われるというのは、かなり大きな存在ですね。
そうですね。感謝は強いですね。やっと形になったのは感慨深いですし、そういう意味で小躍りというか。ひとつの区切りが付きましたね。

──そして、連載は続いていきます。
そうですね。書けるかな(笑)。今年は東京オリンピック・パラリンピックもありますし、グループも変化していっていますしね。

──これからの変化も含めて楽しみじゃないですか。
そうですね。いい時期に連載のお話をいただいたのかもしれないです。子どもが生まれたり、グループにもいろんな動きがあったり、自分の人生が変化していく繊細な時期にやらせていただいたので。そう考えると、これからもいろいろな変化がスポーツというフィルターを通して投影されていくかもしれないですね。まずは、なんとか1回くらいは増版できるように頑張りたいな(笑)。多くの人に届いて、新しい出会いのきっかけになったらうれしいですね。

(おわり)

誰が、夢を見るのか
定価:本体1,400円+税
発売日:2020年01月30日
発行:文藝春秋

Photo/Manabu Numata
Text/Go Tatsuwa

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