2020.3.6
TALK

水野良樹×関取花 Part 3
流行に寄せて、少しでも自分の声の良さが消えてしまうのなら、やりたくない

毎月の連載で言葉にできないほどお世話になっている関取花さんが
3月4日にミニアルバム『きっと私を待っている』をリリース。
「これは絶対にお話を伺わねば!」ということでHIROBAでは初となる対談が実現。
話を進めるうちに、次から次へと共通点が出てきて…。

Part 3 流行に寄せて、少しでも自分の声の良さが消えてしまうのなら、やりたくない

関取私、サウンドのことでお聞きしたいことがあって。

水野はい。

関取歌詞は葛藤もありつつ、自分に曲提供するような感覚で書きました。サウンドはわかりやすく入ってくるほうがいいのかなと思ったりもしてプロデューサーにも相談したり、セルフプロデュースのものは自分が好きなようにしました。いきものがかりの場合、水野さんはアレンジはしていないんですよね?

水野まったくしてないですね。いきものがかりは特に。

関取それは、あえてなんですか。

水野あえてというより、できないからそうなっただけですね。

関取最初からですか?

水野最初から。諦めちゃおうと。

関取そうなんですね。本当はできるけど、いろんな葛藤があって「この先は人に任せたほうが」という感じなのかと。

水野いやいや、全然そんなカッコいい感じじゃないです(笑)。ずっとコンプレックスを持ちつづけてこの世界にいるんです。

関取ええ!

水野それがいい方向に作用したんでしょうね。

関取ああ。

水野インディーズのころは高校の同級生にサポートメンバーになってもらって、わからないなりにも自分たちでサウンドをつくっていたんだけど、デビューとなると当然そうではなくなりますよね。

関取はい。

水野デビューを控えて、いきものがかりというグループを誰も知らないなかで、アニメのタイアップを取らないととなって。路上ライブ出身の木訥としたグループなのに、ディストーションギターが6本くらい重ねられているようなアレンジで…最初はもうぐっちゃぐちゃです(笑)。

関取へえ〜!

水野そこで初めて「これは自分たちじゃない」となって。そこからいろんなことを経て、「どのアレンジでも負けない曲をつくればいいんだ」「それしか生きる道はない」と。

関取ああ〜!

水野アレンジに関しては何もできないんだから、どのアレンジになっても大丈夫なメロディと歌をつくろうと。最初のころは特にそう思うようにしたんですよね。ミュージシャンの方々とコミュニケーションも取れるようになってだんだんと変わっていったんですけど。

関取はい。

水野今でもいきものがかりをサポートしてくれている安達(貴史)くんっていうベーシストがいて19歳くらいから一緒にやっていますが、初めて同い年のプロの子に出会って本当に驚いたんですよ。地元のライブハウスにはこんなに上手い子はいないし、音楽のプロとしてごはんを食べていくのはこういうレベルなのかと。

関取なるほど。

水野それを知ったときに、勝とうと思うのはやめようと。自分にできるのは曲だなと当時考えて。それがうまく作用したんですよね。でも、だんだん変わっていきますね。うん、今…変わってるな。アレンジャーにはいろいろと生意気なことを言ってますね(笑)。

関取(笑)そうなんですね。いやぁ、そこが気になっていて。

水野この曲はこんな感じのサウンドにしたいとか、この楽器を入れたいなとかはありますよね。

関取私はギター弾き語りの裸のデモで「お願いします!」という感じでお渡しします。リズムやベースなんかもやろうと思えばできるんですが、あえて弾き語りで。自分にはない引き出しをアレンジャーに見せてもらって、違うなと思ったらそのときに出そうと。

水野はい。

関取ありがたいことに常にいいアレンジをしてもらっているので、出したことはないんですよ。基本的にはメロディと歌詞が一番よく聴こえて、自分の声がよく聴こえるアレンジであればとOKだと考えています。音楽的に流行のサウンドやビートに寄せて、少しでも自分の声の良さが消えてしまうのなら、やりたくないですね。

水野なるほど。正しい判断だと思います。

関取メジャーになって、インディーズのときとは違う予算があるじゃないですか。

水野大事です。

関取今までは物理的にできなかったことができるとなったときに、お金をかけて自分のやりたかったことをやるのか、もしくは高いお金をかけて経験値を買うのかという考えになって。今は経験値がほしいなと思ってストリングス入れてみたり、エレキ入れてみたりしています。やってみて、あ、これは…。

水野違うなと。

関取思ったりもしますし、「こういうのが私には合うんだ」という発見もあります。自分が葛藤している最中なので、水野さんはどうだったのかなと。

水野「これで勝負しなきゃ!」というものがあったほうがいいとは思っています。僕の場合は歌をつくることでしかないから。

関取私、さっきの言葉が超刺さって!

水野ん、なんですか?

関取どんなアレンジにも負けない曲があればいいんだって。その発想があったはずなんですけど、つくっている途中に「あ、いまいちだな」と思いながらも「アレンジで化けそう〜」みたいな感覚が出てくるじゃないですか。

水野わかります。

関取なんか、人頼みになりたいときもあって。

水野あるある!あるけど、その人を信じているときはいいのかなと思いますね。

関取ああ!なるほど。

水野僕の場合はそうかな。

関取ああ!そうですね!

水野このアレンジャーにお願いするとわかってつくることもあるからね。このメロディに対してどうアレンジしてくれるか考えながらキャッチボールをしているので、頼るというか、相手の引き出しを待つことはありますね。

関取ああ。

水野最近、僕は完全にネタ切れしていて…裏メロやリズムのアイデアを前提にメロディが出てくるというときもあるので。

関取へぇ〜!

水野それがないと成立しないときにはちゃんと入れてデモを渡すようにしています。

関取ああ。

水野最初のころは僕もギターの弾き語りでつくっていましたけど、曲をつくる入り口が増えてきたので、それもあって変わってきているのかもしれないですね。

関取うわぁ、すごい。

水野でも、やっぱり声があるのは羨ましいし、同時に大変だとは思うんですけど、自分という軸があるのはすごくいいなと思いますね。

関取いやぁ。こんなことを言ったら本当に申し訳ないんですけど…お話していると「似てるなぁ」と思うところがすごくありすぎて。

水野僕もそう思います。誕生日、一日違いじゃなくて同じなのかもしれない(笑)。

関取(笑)

水野近い道を通ってますよね。

関取「そうだったんだ」って安心しちゃうというか。

水野僕は今、すごく抑えてますよ。

関取(笑)

水野「その道、通ったよ」って言うのが恥ずかしくて。

関取(爆笑)

水野すごくよくわかるんですよ。

関取安心しますね(笑)。

水野う〜ん。やっぱり歌があるのは強いですよ。僕はデビューした段階で「ミュージシャンにはなれなかったな」って思ったんですよ。何が言いたいかというと、素晴らしいミュージシャンの方々を間近で見て、自分の人生においてミュージシャンとして称賛を受けることはないだろうなと。自分の職業を便宜上ミュージシャンと答えるときもありますけど、自分としてはソングライターだなと。

関取水野さんのTwitterのプロフィールにソングライターと書かれていて、「水野さんっぽい!」と思ったんですよね。

水野面倒くさい奴ですよね(笑)。

関取いや、すごくわかりやすいですよ。私はかたくなにアーティストと言わないようにしています(笑)。

水野アーティストね(笑)。

関取私はそっちになれなかった人間なので。

水野ミュージシャンの方々に対して憧れとリスペクトがあるんですよ。

関取わかります。私はミュージシャンズミュージシャンに憧れていて今もなりたいと思っていますが、テレビのバラエティ番組に出させていただいたくらいのタイミングで「自分の強みはそっち(ミュージシャン)のほうではないな」と気づかされたんですよね。

水野いやいや。でもね、関取さんみたいに喋れないですよ。

関取全然ダメダメです。

水野すごいなって思う。

関取加減も難しくて。

水野音楽につながればという思いでいろんなことを始めたなかで、それそのものが目的になっていくことは素晴らしいと思うんです。ミュージシャンであることも大事だけど、それ以上に関取花という人間が愛されること、関取花という人間がつくった作品が愛されることが大事なことで。そう考えると、もちろん音楽でもいいし、それ以外の表現方法でもいいんですよね。すごく真っ直ぐに当たり前のことをしているように見えるし、自分もそうでありたいので全力で肯定したいなと。

関取うれしいです。

水野バラエティ番組の出方は難しいだろうけど、他の人ができないことを喋ったり、そこでの経験が歌にもつながり、書き物にもつながる。その全部が関取花というある種のエンタメというか。

関取ああ、そうですよね。人として興味を持ちつづけてもらえる人間になったほうが、いろんなことが気持ちよく、上手くいくなと思いますね。

水野楽しいですね。選択肢も広がるだろうし。難しさもあるだろうけど。

関取なんか…どこかで表に立たないことをしたがっている自分に気づいたんですよ。

水野(深くうなずき)やっぱり…誕生日一緒なんじゃないかな。

関取え!

水野わかります。表に立つより、つくる人でいたいんですか?

関取たぶん、そうなんだと思います。ライブのときは「自分が憧れる自分」でいられるんですけど…どこかで整合性が取れなくなることが怖いのかな…。

水野真面目だなぁ(笑)。

関取もちろん、曲を書くのは好きなんですよ。憧れられるタイプのミュージシャンじゃないなというのはわかっていて公言もしてるんですよ。

水野はい。

関取表に立つ人間じゃなくても、誰かの希望になることはできるかなと。飽き性なので、飽きるのが怖いのかもしれないですね。

水野飽きるんだ。

関取自分に飽きるときがある…(笑)。

水野(笑)もう怖いな。デビュー当時からお世話になっているディレクターの岡田(宣)さんという僕の師匠のような人がいるんですよ。「違うことしたいんですよ」って言ったら「自分に飽きるの早すぎ。10年早いよ!」って怒られたことがあります(笑)。

関取私、水野ロード爆走中ですね(笑)。

水野でも、関取さんは真ん中に立って歌って届けているというところが僕とは大きく違う。

関取うーん。

水野僕はグループの名前を背負ってステージ上には立っているけど、歌っているのは吉岡(聖恵)で。客席にいるわけでもなく、バックミュージシャンというほど離れてもいない。すごく中途半端な距離にいるんですよ。

関取いやいやいや(笑)。

水野曲は僕がつくっているけど、それを全然違う人格の人が歌っている。お客さんの視線は吉岡に向いていて、僕は声援を浴びながら浴びていない。すごく矛盾のあるところにいるんですよね。関取さんはその全てをステージ上で受け止めているじゃないですか。

関取ああ。今すごくスッとした気がします。自分の憧れる自分がライブをしているのを見ているんですよ。

水野出た!

関取たぶん。

水野北野武さんも同じことをおっしゃってました。一度だけお会いしたことがあって。

関取ええ!

水野客観的に見ているってことですね。

関取「わぁ、みんなライブをしている花ちゃんを見てこんなに喜んでくれている」「うれしいな、ありがたいな」という視点がどこかにあるんですよね。

水野だんだん、占い師みたいになってきた(笑)。

関取それがライブだけではなくて、歌詞を書くときにも作詞家の目線で書けるようになってきて。「この曲は、このプロデューサーにお願いしたら絶対に化けるから大丈夫」というようにいろんな場面で俯瞰して見ている自分がいて。だから「表に立つ人間にならなくてもいいかな」と思うのかもしれないです。

水野ああ、なるほどね。ステージ上の自分と俯瞰して見ている実際の自分にはギャップがあると思うんですけど、そのギャップに苦しくなったりはしないですか?

関取余裕があれば大丈夫なんですけど、難しいときもありますね。

水野ああ。

関取お客さんのリアクションに「今の笑うところじゃない!」って我に返ってしまったり…。

水野ありますね(笑)。

関取「ダメダメ、見せちゃいけない」と言い聞かせて。

水野やっぱりプロデューサー視点なんですね。でも、表に立つ人の気持ちがわからないプロデューサーって嫌じゃないですか。だからこそ、関取さんは表に立つべきなんでしょうね。

関取ああ、そうですね。

水野プロデューサーの本間(昭光)さんに「ステージ上に一緒に立ってて、立ち位置は1〜2メートルくらいの差しかないけど、君たちが見ている景色と僕たち(サポートメンバー)が見ている景色は違うからね」って言われて。

関取う〜ん。

水野「だから、ちゃんと見て大事にするんだよ」と。支えてくださる本間さんの優しさですよね。

関取すごい。

水野表に立つって、実力と運がないとなかなかできないじゃないですか。関取さんは表に立って、しかもプロデューサー視点も持っている。関取さんじゃないと成立しない視点ですよ、これは。うん、いいですね。

関取いやぁ、そうですね。

水野確かに、似てますね。

関取(笑)

水野ありがとうございました!

関取こちらこそ、ありがとうございました!

(おわり)

関取花(せきとり・はな)
愛嬌たっぷりの人柄と伸びやかな声、そして心に響く楽曲を武器に歌い続けているミュージシャン。
NHK「みんなのうた」への楽曲書き下ろしやフジロック等多くの夏フェス出演、初のホールワンマンライブの成功を経て、
2019年5月にユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。
ちなみに歌っている時以外は、寝るか食べるか飲んでるか、らしい。
関取花オフィシャルサイト

<最新情報>
ラジオ番組「ねるまえのまえ」(TOKYO FM)の
水曜日・木曜日のパーソナリティを担当。
毎週20:00~21:30放送。

3月4日にミニアルバム「きっと私を待っている」を発売!

バンド編成による「春の五線譜ツアー」決定!
4月4日の北海道を皮切りに全国9都市9公演を敢行。

Photo/Kayoko Yamamoto
Text/Go Tatsuwa

次回:AFTER TALK
with HANA SEKITORI
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